第46話:世界の真実(中篇)
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西暦2017年、ARゲームの技術が爆発的に発展した時期、遊戯都市奏歌プロジェクトがスタートした。
「ARゲームは超有名アイドルよりも利益を得られるコンテンツである可能性が高い」
「ある程度の投資は必要かもしれないが、我々には太陽光施設やARゲーム専用の一部施設をリサイクルすれば……予算を最低限で進める事も可能だ」
「しかし、それでも数十億~数百億は投資費用としてかかる。超有名アイドルの場合は、アイドル投資家が十億位はポンと出す可能性もあるが……」
「アイドル投資家は、事前企業ではない。自分達の都合で動かせるような物でないと判断すると、あっさり切り捨てる程の存在だ」
「過去にアイドル投資家が絡んだ物で政治とカネの問題にまで発展した物――下手をすれば、バブル崩壊を招く事件もあった」
「それを踏まえると、3次元的な物ではなく2次元的な――アニメやゲームの方が安全と言えるのか」
「安全と言うよりは芸能事務所的な不祥事、それらのファンによる炎上騒動に巻き込まれにくい位だ。ノーリスクと言う訳にはいかない」
これらの会話は議事録にも記載されているが、一部の会話は【議事録から】は削除されている。
西暦2018年1月頃、水面下でミュージックオブスパーダのクローズドロケテストが行われていた時期の事である。
「システムの暴走か?」
「暴走と言うよりは、新たなシステムが干渉している」
クローズドロケテストに関しては、ネット上にも表面化されておらず、この事を知っているのはごく少数だ。
「ARゲームとしては宿命なのか? システムの被りと言うのは」
南雲蒼龍は、音楽ゲームを重視したシステムでARゲームを開発、プロジェクト名は『ミュージックオブスパーダ』として――。
彼が悩んでいたのは音楽ゲームのシステムである。トライアルではハンティングゲームの要素を取り入れた試作版を披露した事もある。
しかし、そちらの方はプログラムに欠陥が発見されて、プロジェクトは凍結となっていた。
「アイドル投資家や超有名アイドルに察知されていないのは、不幸中の幸いと言うべきか」
今回の機種に関しては、複数のダミー情報を含め、さまざまな情報拡散や偽装工作をしている為、現段階では察知されていない。
「あの勢力に気付かれれば――音楽ゲームも超有名アイドルの私物となるのは時間の問題だ」
南雲が悩む問題、それは収録楽曲の問題でもある。
一部のジャンル特化型ではオリジナル楽曲がメインであり、さほど楽曲使用料と言う問題には直面しない。しかし、ライセンス楽曲を使うとなると話は別だ。
収録楽曲によっては、ユーザーからの反発によって機種その物が炎上しかねない。実際、超有名アイドルの楽曲を一度は収録したが、プレイヤー数が少ない為に削除した機種もある。
こうした事情は表面化はしないものの、超有名アイドル側が自前で音楽ゲームアプリを発表した地点でお察しという状況だった。
「凍結したハンティングゲームのプログラムを使うしかないのか――?」
南雲がネットサーフィンでアカシックレコードを発見、様々な考察記事を閲覧していた所、とあるプログラム記述を見つける。
「このARガジェットは市販されている物と違うのか」
南雲が発見した物、それはアガートラームと呼ばれるARガジェットの設計図だった。
「このシステムを使えば、ハンティング音楽ゲームと言うジャンルを確立させる事も――」
アガートラームの設計図を解析していく過程で、南雲は凍結させていたシステムをアガートラームに組み込み、新たな音楽ゲームを作る事も可能なのでは、と考えていた。
、6月18日午後3時、つぶやきサイトの臨時メンテナンスも終了したのだが、何か様子がおかしい事をログインしたユーザーが思っていた。
【検索能力が上昇しているのか】
【検索だけではなく、画像処理能力も上がっている。もしかすると、先ほどのメンテはサーバー強化かも】
【ちょっと待て。フォローしていた超有名アイドル関連のアカウントが消えている】
【超有名アイドル狩りでも行っているのか?】
【一体、臨時メンテの時間に何が起こったのか】
つぶやきサイトに再ログインしたユーザーは、今回の異変に早速気付いた。強化されている機能もある一方で、超有名アイドル関連で魔女狩りとも言える仕様変更がされていたのだ。
「南雲蒼龍の狙い――そう言う事か」
大和杏はアガートラームからログインを行おうとしたが、ログイン不可になっているので別の端末からログインする。
そして、早速目撃したのが超有名アイドル絡みのつぶやきまとめを含め、超有名アイドルに関連した公式及び非公式アカウントが凍結されていた事実だった。
こうした勢力が全て超有名アイドル商法やFX投資とも言えるようなアイドル投資を行っているとは限らない。
今回の凍結に関しては、魔女狩りと言われても文句は言えないだろう。しかし、仕様が変更されたのはそこだけではなかった。
「ミュージックオブスパーダで使用しているガジェットでログインできなかった理由は――」
ARガジェットでつぶやきサイト等にアクセスする事は可能であり、特に違法なサイトではない限りは接続制限がかけられていない……はずだった。
臨時メンテ後にはARガジェットで超有名アイドル関係のサイトへ接続が不能になっているのだ。これはどういう事なのか?
それ以外でも、炎上サイトやまとめサイト、芸能事務所から報酬をもらっていると疑われるサイトへの閲覧が不能になっている。
それも、ある行動が確認されてから臨時メンテナンスがかけられたらしいのだ。
「3曲全ての理論値を出したプレイヤーが現れたのか―?」
つぶやき経由ではなく、ミュージックオブスパーダのサイトを慌てて確認した大和の目に入った物、それは課題曲である3曲で全て理論値を出したプレイヤーが現れた事である。
「山口飛龍――まさか?」
課題曲部門のランキングで1位にランクインしていた人物、それは大和も過去に遭遇した事のある山口飛龍だった。
谷塚駅から若干離れたARゲームの専用ホール、そこではシールドビットを自由自在に操り、的確にターゲットを撃破する山口の姿があった。
「これで、6曲目の理論値達成――!?」
山口は課題曲に関して一切気にせずに理論値が可能であろう曲を集中的にプレイ、そこで12曲中6曲の理論値を達成した。
「特殊演出? これは、一体どういう事なのか」
山口もガジェットの画面に表示される特殊演出、その意味を理解していなかった。この演出は、スコアトライアルの3曲を全て理論値にした時に発生する物である。
「理論値が出たのか?」
「3曲とも理論値ならば、以前にもいたような」
「そいつならチートで失格になっている。正攻法は初じゃないのか」
周囲のギャラリーもざわつき始めているが、それ以上に周囲を驚かせる展開となったのは、それから数分後の事である。
「つぶやきサイトが緊急メンテ?」
「どういう事だ? さっきまでは閲覧できたのに」
「まさか、ハッキングか?」
「もしかすると世界規模のサイバーテロかもしれない。確認をしなくては」
つぶやきサイトの緊急メンテ画面、これが表示されたのが山口が課題曲3曲目の理論値を達成して5分後だ。
「つぶやきサイトを閲覧しない自分には――」
関係のない事である――と言おうとした山口だったが、その後に贈られたショートメールの中身を見て、無関係とは言えなくなってしまったのだ。
【課題曲3曲を正攻法で全て理論値にした時、トップランカーの世界を構築する為の物語が始まる】
この内容を見た山口は、加賀ミヅキへ連絡を取ろうと考えるのだが……。