第41話:ARゲーム特区の正体
>午後11時13分付
誤植修正:出会った事→であった事
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数日前、あるソース不明の記事が拡散し、奏歌市外で話題となった。何故、市外なのかは――。
【ARガジェットの転売不可と言うのを把握せずに転売しようとした連中が逮捕されたらしい】
【これによって、他のジャンルにも飛び火して大手オークションサイトは閉鎖になったらしいぞ】
【閉鎖はガセじゃないのか?】
【さすがに閉鎖はガセ――!?】
【転売チケットが問題視され、対策をしている話はあったがARガジェットの転売は出来ないのか?】
市外で話題になったのはARガジェットの転売についてだ。
アンテナショップでも転売禁止であるという事も明記され、不要になったガジェットは買い取りを行っている。
実際、これをきっかけにしてARゲームに無関係なジャンルの転売が禁止となったケースもあった位だ。
ARガジェットの転売禁止には、チートガジェットやARウェポンが違法改造されて現実の武器になってしまうと言う可能性もあったからのようだが……。
【さっき、慌てていたのは?】
【閉鎖がガセと思って大手サイトへ行ったら、ショッピングサイトに変わっていた】
【しかも、オークションサイトとしては終了と告知されている】
【どのジャンルにも悪質な転売屋が存在するのは当たり前であり、それは避けて通れないのだが】
【こちらのジャンルは魔女狩りが続いているらしい】
【ガジェットが過激派集団に渡れば、それこそ……流血のシナリオが始まる】
下手に、この話題を追求すればアキバガーディアンに睨まれると判断した一部ユーザーが、話題を別の物に変えようと提案し、この話はしばらくして終了となった。
【そう言えば、草加市内では地方ニュースでよく見るような特定の事件が減ったという】
【過激派組織絡みの銃撃事件は起きていないが、ソレの事か?】
【過激派自体は存在しているが、俗に言う暴力団や右翼等ではないようだ】
【どういう事だ?】
【噂によると、超有名アイドル投資家等が草加市の過激派組織として居座っているらしい。まるで、暴力団から超有名アイドルファンへ入れ替わっただけ】
【もっと別の時期に超有名アイドルファンによるディストピアと言う話題が出たが、それは皮肉でも何でもなかった】
つぶやきサイトの話題はARゲーム特区である草加市に向けられている物なのだが、このつぶやきは県内で閲覧する事が不可能だった。
都内某所、アキバガーディアンのデータ管理室、そこには一部の特殊犯罪者が収監されていた。
ここで収監されているメンバーは、殺人や人身事故の様な犯罪者ではない。そうした部類の犯罪者はアキバガーディアンの管轄外であり、警察に引き渡されている。
彼らが収監している人物、そのほとんどがコンテンツ流通妨害や超有名アイドルを意図的に他のコンテンツよりも上に……という人物が大半。
中には保護観察処分で釈放されているケースもあるが、これは収容出来る人数に限りがある為だ。下手に他の刑務所を間借り出来ないのにも別の事情が存在するのだが。
「ARゲーム特区、やはり何かが間違っている」
VIP待遇とも言えるようなエリアにいたのは、メビウス提督だった。彼に関してはミュージックオブスパーダにも関係していた事もあり、アキバガーディアンからは特に優遇されている。
彼も元々はガーディアン関係者と言うのもあるのだが、『関係者』と言うだけで身内に甘い体制である事を拡散されないようにしている可能性もある。
しかし、この真相を知っているのは一部しかいない。
「面接を希望しているお客が来ているぞ」
スタッフの一人がメビウス提督の牢屋……と言えるか疑問の部屋から連れだした。
面接部屋へ向かう途中、メビウス提督は誰が面接に来たのかを聞こうとしたが、向こうも詳細は知らないらしい。
「到着したぞ。時間に関しては特に制限していない。面接が終わったら、呼び鈴を鳴らせばスタッフが駆けつけるだろう」
男性スタッフは別の人物を迎えに行く為に、ここからは姿を消す。結局、誰が面接に来たのかは知らずじまいだ。
「貴様は――南雲蒼龍!?」
メビウス提督は、パイプ椅子に座っている人物が南雲蒼龍であった事に驚きを隠せずにいた。
ザル警備と思われかねない殺風景な部屋、そこには折り畳み式のテーブルとパイプ椅子が2つ、その片方には南雲が座っていたのである。
南雲と言えば、ミュージックオブスパーダの開発者であり、複数のARゲームのスコアプレイヤーとネット上で言及されているが……。
「メビウス提督――聞きたい事がある」
彼の目つきを見ると、遊び半分で面接に来た訳ではなく真剣そのものだ。この場所を知っているのは、アキバガーディアンでも一握りの存在である。
それに加えて、この施設はゲームセンターに偽装されており、警察やフジョシや夢小説の勢力にも突きとめられていない。
その場所を的確に特定し、ピンポイントに面接に訪れると言う南雲の行動力……それはメビウス提督が驚くのも無理はなかった。
「何を聞きたい? あの事件に関しての依頼人を話す気は全くないぞ。その一件は依頼人からも他言無用と言われている」
「その事件に関しては、こちらでも別のルートで調査している。聞きたいのは、そちらではない」
「ならば、何を聞きたいと言うのだ。ここまで足を運ぶ価値のある情報、それは一連の襲撃事件ではないのか?」
一連の襲撃事件とは、メビウス提督が起こした一部勢力をおびき寄せる為の襲撃の事を指す。しかし、南雲はそちらに無関心と言うよりも、二の次に思える。
そして、彼はタブレット端末から素早い手つきでアプリの一つを起動し、スクリーンショットと思わしき画像をメビウス提督に見せた。
「このガジェットに見覚えはないか? 名前はバルバトスと言う」
スクリーンショットには、バルバドスと呼ばれる槍にも似たような武器を構え、サバイバルゲームのプレイヤーを次々と倒す人物が映し出されていた。
「ソロモン72柱を名前の由来とするバルバトス――見覚えはないな」
見覚えがないと聞いた南雲は、次の画像をスライドして表示させた。今度はミュージックオブスパーダのプレイ中に撮影された物の様だが――。
「質問を変える。この人物には見覚えがないか? 山口飛龍、お前も音楽ニュース等で聞き覚えがあるだろう」
「山口飛龍、お前は奴の何を知りたい?」
山口飛龍、その名前を聞いたメビウス提督は表情を変えた。一体、南雲は彼の何を聞きたいのか。
「彼は本当に、あの音楽ゲームの出身者ではないのか。サウンドオブ――」
「違う。彼は決して、向こう側の人間ではない。ましてや、同人音楽ゲームの――」
南雲がある音楽ゲームのタイトルを出そうとした途端、急にメビウス提督は怯え出した。そして、彼は口を滑らせて別の音楽ゲーム作品のタイトルを口にしようとしていた。
「成程。あの時から引っ掛かっていた物があったが、別の音楽ゲームで楽曲提供をしていたのか」
南雲の方も彼の名前を聞いて何か引っかかるものがあり、動画サイトで彼の名義で発表された楽曲を何曲かチェックしていた。
それらの楽曲に共通するのは、J-POPとして発表する楽曲ではなく、最初から音楽ゲームを前提にして作曲していた物である、と。
それから彼はいくつかの質問を行い、メビウス提督から情報を聞き出していた。それから30分は経過した頃である。
「最後の質問だ。ARゲーム特区、あれが生み出されたのは町おこしという話が表向きに発表されている――」
南雲は最後の質問と宣言、その内容を途中まで聞いてメビウス提督は何か疑問を持ちだした。
襲撃事件関係を聞き出すのかと思ったら、ARゲームの誕生由来、超有名アイドル商法等――アカシックレコードに乗っている物ばかりである。
そちらを調べれば早い話ともメビウス提督は切り返したのだが、それでもしぶとく聞いてくる。
そう言ったやり取りが何度が続く中で、メビウス提督も南雲が何を本当に聞きたいのか興味を持ちだした。
「あれの真の目的、それは新たなARゲームを利用し、超有名アイドル商法を越えるコンテンツとして売り出そうと言う事だ」
「それは、本気で言っているのか!? ARゲームを開発していたお前が?」
南雲は何となくだが草加市の意図を理解し始めていた。町おこしをするのであれば、草加せんべいを初めとして独自の物は存在する。
しかし、彼らが要求したのは超有名アイドルを越える集客力を持ったコンテンツだった。
遂に南雲は売れる作品とは程遠いようなARゲームを開発し、それがミュージックオブスパーダである。
「結果として、ミュージックオブスパーダはネット上の過熱ぶりを含め、予想外のヒットとなった。ここ数カ月だけでも10億円の売り上げがあったと聞く」
「10億だと? 南雲、お前はそれでも草加市の考えを疑問に思うのか?」
「当たり前だ。超有名アイドル商法では国家予算も比べ物にならない程の利益をあげている。自分から言わせれば、超有名アイドル商法はソーシャルゲームの外部ツール――つまり、あってはならない物だ」
「そこまで考えていて、何を聞きたい? アカシックレコードの真意であれば、聞くだけ無駄だ」
メビウス提督は、それを前提に南雲が何を聞きたいのか想像が出来ていた。それを踏まえ、アカシックレコードに関しては答えない事にした。
「アガートラームの所有者、大和杏について聞きたい」
予想外の事だった。大淀はるかに関して聞きたいと言う可能性もあっての前提発言だったが、彼が聞きたいのは大和杏についてだった。
メビウス提督は数秒程の黙り込み、知っている範囲の話をする事に決めた。
「ネット上でも色々な憶測記事、金目当ての炎上サイトでも情報は存在する。しかし、それ以外で聞きたいのか?」
メビウス提督の忠告とも言える一言を聞き、南雲は無口で首を縦に振る。
「大和杏、奴は音楽ゲームのイースポーツ化を提言しているが……それは、ある目的による物と言われている」
そして、メビウス提督は南雲のタブレット端末を要求し、そこで何かの検索ワードを入力し、その検索結果から別のARゲームサイトを表示させた。
「ハンドレットランカー、音楽ゲームでトップランカーと言われる存在と同等と言われているが――それ以上は分からない」
メビウス提督は別ARゲームのランキング表を表示させ、1位のプレイヤーを指差した。
「ハンドレットランカー、あれは知力チートとかパワーチートの様なネットスラングで片づけられる存在じゃない。その証拠に、アカシックレコードにも記載がないだろう?」
その後、メビウス提督からは有力と言える情報は得られなかったが、何となくハンドレットランカーが何かと言うのは南雲には分かったのである。