第28話:ランキングキラー(前篇)
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6月1日午前11時、山口飛龍はインターネットであるコンテスト記事を発見した。
「音楽ゲームへの楽曲募集か……」
それは有名音楽ゲームの楽曲を広く募集すると言う物。プロアマ問わず、インスト曲かボーカルありのどちらかで応募する事になる。
唯一のルールがあるとすれば、創作オンリーである事が主催者から求められている位だろうか。
既存楽曲のアレンジは応募不可、その中にはクラシック曲も含まれている為、オリジナリティをどれだけ出せるかどうかが求められている。
「今の自分にとっては〆切を考えると難しいか」
〆切は7月末日、今から2カ月ほどだろうか。既存楽曲アレンジの応募不可に関しては、どのような意図で追加されたのか……山口には大体の察しはついている。
同時刻、あるコンテストに関する話題がネット上の一部で話題になっていた。
【新人作家限定のコンテストか……】
【超有名アイドルの楽曲コンテストは、どう考えても芸能事務所側の仕込みがあったからな】
【向こうは仕込みを否定しているが、山口飛龍が襲撃された件は未だに公表もされていない】
【つまり、奏歌市で襲撃した事には理由があった?】
【音楽ゲームで言われているチート勢、いわゆるランキングキラーは和尚プレイをしている噂もある】
【ランキングキラー? 唐突に話題が変わったな】
【しかし、ランキングキラーの話題はコンテストに無関係とは限らない。彼らはランキングという存在に現れては超有名アイドルを集中的に推し、宣伝料を芸能事務所からもらっているという噂だ】
【そこまでの連中が、楽曲コンテストに何の関係が?】
【参加条件を踏まえると、適当な人物に自分達が作曲した超有名アイドルの楽曲で使用予定だった没曲を渡し、それをコンテストに応募し――】
【それって、ゴーストライターじゃないのか?】
【今でこそ落ち着いているが、当初の超有名アイドルは自分達の楽曲知名度を上げる為ならば、どんな手さえも使った】
【それこそ、ネット上で吐き気を催す存在と言われるほどに?】
【否定できないのは悔しいが、その通りと言わざるを得ない】
【しかし、このコンテストは音楽ゲーム……それもフリーゲームの物だ。そこまでやって、超有名アイドル側に利益があるとは思えないが】
【そこまでして超有名アイドルは何をする気なのか? まさか、マインドコントロールでも行うのか】
【マインドコントロールは飛躍しすぎだが、超有名アイドルの存在に疑問を抱けば逮捕と言うディストピアはあり得そうだ】
その後も話は平行線となったが、この話題が大きく拡散する事はなかったと言う。
同時刻、あるプレイヤーのプレイが注目を浴びていた。その人物は、過去にも様々な音楽ゲームで名前を目撃したという事例がある、あの人物だ。
【DJイナズマ……遂に参戦か】
【参戦が遅かったというよりは、今までが注目を浴びなかっただけ。彼は稼働初日から参加している】
【では、今まで姿を見せなかったのは?】
【プレイ動画をアップしているプレイヤーだけを注目した結果、こういう弊害も起こる】
【実際のプレイヤー数としては10万人を超える可能性もあるという話、それは真っ赤なウソと言う訳でもないか】
【まとめサイトしかチェックしないような情報弱者では、隠れた強豪ランカーは見つけられない。それが逆に――】
まとめサイトやつぶやきサイト等しか頼らず、それらを鵜呑みにしてしまうような勢力には見つけられない存在もある。
それがDJイナズマや一部の強豪ランカー、更には別勢力を発見できずにいると言う弊害が起こっていた。
自分に都合の悪い部分を削除し、情報を歪めて配信し、超有名アイドルの芸能事務所から謝礼をもらうようなサイトは過去には存在していたようだが……それらは奏歌市からは排除されている。
その最大の理由は、奏歌市が超有名アイドルの芸能事務所や関連会社と敵対するような形で誕生した経緯もあるらしい。
残念ながら、それらの情報ソースは存在する事は存在するが、正確な情報は存在しない。
西暦2017年、超有名アイドルファンを騙る投資家ファンが増加し、CDランキング等が超有名アイドル関係で無双された時があった。
ランキング荒らしという言葉ですら生ぬるい……つぶやきサイト上では、その認識で統一されていた。
【そう言えば、草加市が超有名アイドル関係の会社からは投資を受けないという町おこしをやるらしい】
【町おこしと言うか、草加市が考えているのは経済特区だろう】
【一体、何の特区をやるつもりなのか? せんべいでは単純すぎるが……】
【草加市で特徴あるような物をアピールする方式ならば、過去にも事例は存在する】
【もしかすると……別の分野で経済特区申請をする可能性もある】
【そう言えば、太陽光パネルや一部施設は経済特区とは別扱いで展開されたと聞く】
【そうなると……何で経済特区を?】
経済特区の詳細が発表される前、このようなやりとりがつぶやきサイト上で展開された。
そして、正式発表が行われたのは6月の事だった。
『我々は既に数社のゲーム会社と提携しており、水面下でゲームに関係した経済特区を発表する予定です』
ニュースでも話題になっただけに、ゲーム分野での経済特区には賛否両論となった。
ゲーム脳やコンプガチャの問題もあるだろうが、それ以上に今回の発表は各分野に波紋を呼ぶ事になる。
「これは、一体どういう事ですか?」
このニュースを見ていたゴッドオブアイドルのスタッフは、ある人物に抗議をしていた。それは、超有名アイドルの芸能事務所社長である。
「草加市の発表した経済特区、こちらの忠告を無視した物であるのは間違いないだろう」
社長は草加市に忠告をしたのだが、会見での発表は間違いなく忠告を無視した物であるのは疑いのない物だった。
「草加市が該当部署に出した書類によると、太陽光パネルを含めたエコ発電プランと書かれていた。それは、こちらでも確認しているが――」
社長の持っていた資料、それは社長の権限で取り寄せた草加市の経済特区構想を記した書類である。この段階で、既に超有名アイドルが日本をどれだけ私物化しているかが分かるだろう。
「何としても、草加市に対して早期に制裁をする必要性がありそうだ――」
この制裁こそ、後のランキングキラーを生み出すきっかけとなった特殊部隊だったのである。




