第24話:ツールブレイカー(後篇)
>10月12日午後6時8分付
誤植修正:ミュージックおオブスパーダ→ミュージックオブスパーダ
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5月29日午前12時、メビウス提督とビスマルクがバトルを展開している一方で、ある人物が山口飛龍のプレイに乱入してきたのだ。
ミュージックオブスパーダ自体は乱入システムも導入されており、特に制限がされている事はない。
「山口飛龍……聞き覚えがあると思ったら、あのコンテストに入賞した作曲家か」
山口の事をミュージックオブスパーダのプレイヤーとしてではなく、本来の職種である作曲家として見ている事から、あの男性は超有名アイドル絡みの乱入者と言う可能性も考えた。
「貴方は一体――」
疑問に思った山口は質問をするのだが、それに回答する前に彼はARガジェットのハンマーを構える。どうやら、本気らしい。
「こちらとしては戦闘は苦手だからな……ここでの『ルール』でおまえを倒す事にするよ」
「倒すという事は、超有名アイドルファン?」
「そっちの勢力とは思われたくないが、こちらも過去にあのコンテストに参加していてね――」
「コンテスト参加者であれば、楽曲勝負と言う事も可能でしょう。どうして、これを選んだのですか」
「簡単なことだ。楽曲勝負を挑んだとしても――山口飛龍と言えば、同人分野でも名前が広まっている有名人。こちらの技術で勝てるわけがない」
彼の方は名前を自分から名乗るつもりはなく、プレイヤーネームに登録されているファントムも偽名だろう。
「1曲限定だが、始めようか。曲の方は、お前の方に任せよう。下手に仕組まれていると思われたくないからな」
ファントムは選曲権を山口に譲った。彼のランクも山口と同様に中堅ランクであり、実力差はほぼ互角だろう。
そして、10秒程の思考をした結果、クラシックアレンジのジャンルから革命を選曲した。
ミュージックオブスパーダの場合、クラシックアレンジとオリジナル楽曲ではレベル差に開きがあり過ぎて、選曲レベルも半端ない。
「革命か。それもよいだろう」
ファントムの方は何かの含みを残したような笑みを浮かべ、ARガジェットのハンマーをバズーカ砲へと変形させる。どうやら2段階変形のガジェットらしい。
同刻、バウンティハンターが偽者のバウンティハンターとバトルを展開していた。これに関してはネット上でも話題になっていたが、大きく報道される事はなかった。
「メビウス提督が釣れると思っていたが、まさかお前が来るとは思わなかった」
『どういう事だ?』
本物の方は偽物がメビウス提督の名前を知っていた事に疑問を感じたが、それ以上に自分をお呼びではなかった事にも驚いた。
どうして、バウンティハンターの装備を偽装してまでもメビウス提督をおびき寄せようとしたのか?
しかし、バウンティハンターの疑問への答えが出ることなく、彼は本物に向けて全力射撃を行う。
『偽物のパワーで、こちらのガジェットを量が出来ると思ったのか!?』
バウンティハンターのバリアが展開され、射撃は全て無効化された。ダメージに関しても0ではないが、ほぼ無傷に近い。
「馬鹿な……これだけの能力、このARゲームで発揮したらチートと扱われるはずだ!」
偽物の発言は、自分の装備では勝ち目がない事に対しての苛立ちなのかもしれないが……。
『その言葉をそっくり返す。このARゲームには、チート及び外部ツールの起動を強制停止するシステムが組み込まれている。つまり――』
バウンティハンターは次の瞬間にビームブラスターを展開、そのビームは偽物のバウンティハンターのARギアを瞬時に無効化したのである。
その結果として、偽物の使用していたARギアは外部ツール。つまり、運営から禁止されているガジェットである。
「馬鹿な……ゴッドオブアイドルの存在は絶対のはずだ! 彼女たち無くして、日本の経済は――」
結局、一斉逮捕されたと思われていたゴッドオブアイドルのスタッフは一人逃走していたという事実が判明、警察がザルだったという事も表面化する事になった。
アキバガーディアンが一部メンバーを警察に引き渡したのは、向こう側の要求があったからこそなのだが。
「ツールブレイカー、スパーダの運営や南雲はそう呼んでいる……特殊ガジェットか」
加賀ミヅキはバイザーを外し、一部勢力が使用しているツールブレイカーの存在に関して思う部分があった。
しかし、自分が使用しているのはツールブレイカーではない。もしかすると、大和杏が使用しているアガートラームが……。
5分後、ビスマルクとメビウス提督が戦っていた場所、そこにはアキバガーディアンが姿を現した。
「一体どういう事だ?」
慌てているのはメビウス提督の方である。これは、どういう事なのか?
「先ほど、ゴッドオブアイドルの逃走中だったスタッフを逮捕したという情報を――」
ガーディアンの報告を聞いて驚いたのは、ビスマルクの方である。まさかとは思うが……。
「そうか。最後の一人も確保したか……これで、あの宣言を覆す事が出来る。こちらが一芝居仕掛けたのも無駄ではなかったか」
メビウス提督の口から語られたのは、ある宣言を阻止する為に一芝居をうったという事らしい。
「宣言? 一体、何の宣言を阻止しようとしたの?」
「阻止しようとしたのは、あの宣言しかないだろう」
「あの宣言? フジョシ勢や夢小説勢の魔女狩りをしようとした超有名アイドルファンの――」
「あれは副産物だ。魔女狩りを考えた勢力は既に鎮圧済み」
「じゃあ、もしかして――?」
ビスマルクはメビウス提督の言う宣言に対し、ある疑問を抱いた。アカシックレコードに記されている宣言であれば、他の勢力が悪用してもおかしくはないからだ。
そして、ビスマルクはアカシックレコードにない宣言を考え、結論に至ったのが……。
「大淀はるかの宣戦布告とも言える、あの宣言だ。超有名アイドルのディストピア、それは向こうの被害妄想だ。悪質な超有名アイドル投資家は存在するが……」
しばらくすると、メビウス提督とアキバガーディアンは撤収、残されたのはビスマルクのみとなった。
「やはり、あのまとめサイトで意図的に消された部分……そこを解読できなければ、他にも別の勢力がミュージックオブスパーダを利用して便乗活動をする事になる」
ビスマルクの方も別の場所へ移動し、警察が到着した頃には誰もいないという状況になっていた。
結局、警察は迷惑通報をした人物を書類送検し、そこからアイドルグループの夢小説サイトの運営が明らかとなり、この人物は肖像権を含めた権利侵害で逮捕される。