第23話:ツールブレイカー(中篇)
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5月29日午前11時、速報として一連の襲撃事件に関するニュースが流れた。
しかし、犯人という報道はされておらず、倒されたフジョシ勢や夢小説勢の方が逮捕と言う事で、完全に立場が逆転している。
本来であれば、白衣の人物が襲撃犯という扱いを受けるはずが……今回の対応でテレビ局には苦情の電話が殺到しているのに加え、クレームのつぶやきが拡散すると言う展開になっていた。
【白衣の人物が正義の味方? あちらこそが犯人です。どう考えてもマスコミの報道があべこべ】
【一部の夢小説勢が肖像権侵害で逮捕、20歳でもないのに実名報道で補導ではなく逮捕扱い……おかしいにもほどがある】
【実名と言うよりは、アレはハンドルネームであって本名ではない。紛らわしい名前だから実名報道と思われがちだが】
【あの白衣の人物、もしかするとゴッドオブアイドルの一件でも告発をしていた人物かもしれない】
【それ以外でも学会か何かで『超有名アイドル商法とタダ乗り便乗商法の規制法案』という……頭が痛くなりそうな事を言っていたな】
【タダ乗り便乗商法は、今に始まった事ではない。まとめサイトが裏で企業と提携している可能性を示唆した記事が話題になったり、芸能人がステマをしていた件も昔には問題視されていた】
【そうしたタダ乗り便乗で目立とうとするような勢力……具体的に言えば二次創作の夢小説勢等を駆逐しようと考えているのかもしれない】
【つまり、彼も一次創作勢の活動を守るために行動していると?】
【おそらく、あちらにとってはそう受け取られるのは不本意と言うべきだと思うが……】
【そうなると、大淀の発言を受けて便乗して動くバウンティハンターも同類なのか?】
ネット上では、今回の襲撃事件を受けてさまざまな考えがつぶやきサイト等を通じて流れていた。その量は、下手をすればサーバーがパンクするのではないか、と思う位に。
「これを罠と考えるか、それとも別の作戦と考えるか……」
一連の騒動の大きさは、アキバガーディアンだけではなく一部の反超有名アイドル等にも伝わっていた。
その中の一人、DJイナズマは今回の事件に関してはスルーを考えていたのだが……。
「あの時に書いたアレを見た人物がいるのか、あるいはアカシックレコードを参考にして――!?」
イナズマは何か思い当たる節があり、改めて大淀の宣戦布告を見返す事にした。そして、ある記述が存在した事で何かの確信を得た。
同日午前11時30分、今回の件とは関係なくミュージックオブスパーダをプレイする人物もいた。
「スコアが思ったように伸びなくなっている。やはり、ガジェットに依存するだけではなく技術も必要なのか」
プレイ終了後、今回のスコアに満足のいかなかった山口飛龍は、他プレイヤー視線で見た自分のプレイ動画を見ていた。
第3者としての視線は、様々な意味でもスキルを伸ばす為の研究材料になる。それは一連のプレイ動画や実況動画の需要を考えれば、確定的に明らかとも言える。
格闘ゲームやFPS、TPS等の様なイースポーツにも選ばれた作品は需要があり、プロゲーマー目当てで動画を見るユーザーも多い。
解説動画に関してもアクションゲーム等のジャンルでは、攻略本では分かりづらいであろう部分も動画ならば動きも交えて解説している為に需要自体は存在する。
実況動画の方は、実況をしている人物を題材にした夢小説等もあるのだが……一定の需要はあるだろうか。
当時はプレイ動画に関しても特定ジャンルに関しては投稿不可、その他にも色々な大人の事情があった。しかし、格闘ゲームの動画重要や時代の流れ等でプレイ動画にもある程度は環境が整いつつある。
一方で、こちらでもタダ乗り便乗系勢力は存在し、そうした勢力がコンテンツの食いつぶしと言う事を行う結果……超有名アイドルのディストピアという単語が生まれた可能性も否定できない。
「どちらにしても、まずは――?」
動画を一通りチェックした後、山口はニュース速報に気付いた。襲撃事件の犯人が発見されたという事なのだが……。
「これは一体、どういう事なのか」
山口は、襲撃事件の犯人として映像に表示されていたのがバウンティハンターだった事に驚きを隠せなかった。
「バウンティハンターには便乗犯も存在する。しかし、あのデザインは何か別の狙いがあるのか、それとも……」
悩んでも始まらないと判断した山口は、再びプレイする為に行列の最後に並ぶ。現在は10人待ちと言ったところだろうか。
同日午前12時、一連の事件は思わぬ方向へと発展した。何と、ビスマルクと例の青髪の人物がバトルを展開していたのである。
「まさか、お前が一連の超有名アイドルの芸能事務所やゴッドオブアイドル関連の会社を潰していたとは――」
ビスマルクは、以前に加賀ミヅキから手渡された資料を思い出していた。そこには、イースポーツ系勢力以外にも、反超有名アイドル勢力としてブラックリストに入った青髪の人物もリスト対象内だったからだ。
「タダ乗り便乗で楽に儲けようと言う勢力は……炎上商法等に手を貸す事になると分かっていない。だからこそ、ゴッドオブアイドルは潰すべきと判断したまで」
白衣の人物はタブレット端末の操作を行い、バウンティハンターと同じデザインのARガジェットを装着する。唯一の違いがあれば、カラーリングが黒と言う事のみ。
「だからと言って、バウンティハンターの名をかたるとは……やっている事に矛盾を感じないのか?」
ビスマルクの反論に対し、彼は無言で攻撃を行う。問答無用と言う事なのか、それともその部分には答えないという事なのか?
「貴様も所詮は自分で否定している炎上商法やタダ乗り便乗勢力と同じと言う事――」
「黙れ! 自分の行っている事は私利私欲や個人的欲望を満たすだけの……自己満足を求めるようなネット住民とは違う」
「違わない! 貴様が行っている事は……毒を以て毒を制すと言う事なのかもしれないが」
「お前はやり過ぎた……とでも言いたいのか、ビスマルク!」
白衣の人物の一言を聞き、ビスマルクは正体を確信した。そして、肩の連装砲を初めとした武装で威嚇を行う。
「私の名前を知っているという事は……アキバガーディアンか、あるいは別の反超有名アイドル勢力と言う事か?」
「反超有名アイドルだったら、何だと言う?」
2人のバトルは、攻撃のほとんどが威嚇であり、攻撃を命中させる気は全くないように思える。一体、何が目的なのか?
「貴様、メビウス提督――」
「その名を口にするな! 提督の名は反超有名アイドルを掲げてからは捨てたも同然――」
メビウス提督と呼ばれた人物は動揺をし、攻撃を外すつもりがビスマルクのシールドに命中する。
「どちらにしても、お前のやっている事は間違っている。この行動に理想等は存在しない。あるのは、コンテンツ産業を駄目にした政府や芸能事務所に対する恨みだけだ」
ビスマルクの言葉にメビウス提督は反論も出来ない。そして、しばらくするとアキバガーディアンが駆けつけてきたのである。