第22話:ツールブレイカー(前篇)
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5月29日午前10時、奏歌市の別エリアで謎の事件が発生した。
「所詮、ゴッドオブアイドルは超有名アイドルを生み出すきっかけを作ったコピペ元にしか過ぎなかった……と言う事」
青髪に白衣、右腕にはハンドランチャーを思わせるようなガジェット、左腕にもロングソードのガジェットを装備した人物が宣言している。
「フジョシや夢小説勢は本来であれば有名アイドルグループのBL小説を、堂々とアップしたいと考えている。しかし、それを実行すれば逆に炎上する事を恐れ、当たり障りのない作品で――」
彼の訴えに耳を貸すような人物はいない。しかし、その宣言を妨害しようと一部の夢小説勢が彼に攻撃を仕掛けた所――。
「こちらから出向くまでもなかったか」
何と、攻撃を防御する為に彼が使用したのはミュージックオブスパーダに登場するアンノウン……つまり、音ゲーで言うノーツだった。
【どういう事だ? あの人物はミュージックオブスパーダのデータを取りこんでいると言うのか?】
【ARゲームのデータは物故抜きが出来ないようにプロテクトがされていて、それを外すと重罪になると言うのをガイドラインでも見た事があるが…】
【重罪はデマだとしても、外部ツールの類をARゲームで使えばアカウント凍結は避けられない。奴は何を考えているのか?】
ネット上でも、早速だが彼の使用した防御手段が話題になる。これが仮にガジェットのスキルだとしても、形状が敵サイドなのは狙いがあるのだろうか?
「こちらとしても都合よく現れてくれるとは思わなかったが……手間が省けた」
彼が指をパチンと鳴らすと、突如としてCG出現演出と共に大型アンノウンまで姿を現した。しかも、この演出はミュージックオブスパーダと全く同じ。
「コンテンツを食い荒らし、文字通りの嵐であるお前達には早々に退場してもらおうか……こちらとしても、お前達の様な吐き気を催す邪悪は不要だからな」
大型アンノウンはドラゴンの形状をしており、そこから放たれるブレスは瞬時にしてフジョシ及び夢小説の連合軍を行動不能にした。
【明らかにオーバーキル】
【ここまでの事をする必要があったのか?】
【単純に超有名アイドルファンへの恨みをぶつけていた……逆恨みじゃね?】
【しかし、あいつの言っていたフジョシ勢が超有名アイドルの……と言う部分は本当なのか?】
【確かに小説サイトでは、二次創作の夢小説が無双しているサイトが存在している】
【本来は大手サイト等で堂々と展開し、小さなサイトは客が来ないという事で閉鎖が相次いでいるらしい】
【本来であれば創作小説がランクインするようなサイトで、二次創作の夢小説が無双しているのはこの為か】
【BL作品でない物をBLにしたような夢小説、つぶやきサイト風のSSがランキングを夢想するようになったと聞く】
【これらの状況をコンテンツを荒らすという意味でもアキバガーディアンが本格的に動いたという話だ】
つぶやきサイトでは、彼の行動に関してやり過ぎと言う意見がある一方で、彼の行動を起こした理由に関しては納得をする声も存在していた。
しばらくして、白衣の人物の姿も消えていた。一体、彼の目的は何だったのか? 結局、その謎は誰にも解けないままに数時間も立たないうちに終息していた。
その5分後、何者かの密告があったかのようにアキバガーディアンが姿を見せ、次々と倒れているフジョシ及び夢小説勢を連行していく。
しばらくして、リーダーと思われるガーディアンに無線連絡が入り、そこで同じような事件が起きているという報告が次々と……。
「こちらとしては、一次創作勢に対するランキング入り妨害等を行っている勢力を排除できるのは良いかもしれないが……これでは超有名アイドルファンによる炎上行為と変わりがない」
あるガーディアンは、一連の事件に関してぼやきとも言えるような一言をつぶやく。ガーディアンのメンバーの中には、同じような考え方をしている人物もいるが、それを言葉に出来ない現状も存在する。
「一次創作のコンテンツ作品から得た知識を踏まえ、それを二次創作ではなく全く別の一次創作として展開する……それはアカシックレコードにも記されており、それがWEB小説にとってもプラスになると言われていた」
「しかし、それを否定したのが……よりにもよって超有名アイドルの存在否定を行った大淀とは」
他のガーディアンも気持ちは同じだった。全ては、大淀はるかの宣戦布告から始まったのかもしれない、と。
5月28日、ある宣戦布告がネット上に流れたのは周知の事実であるのだが、それが大淀による物と判明したのは翌日の朝になってからだ。
《ゴッドオブアイドルのメッキがはがれた今、アイドルコンテンツがザルコンテンツである事は明白である。一部の2次元アイドルアニメやゲーム等で健闘している作品もあるが、3次元の方は芸能事務所の裏取引等も目立ち……》
《それに加えて、3次元アイドルの方は一部の投資家ファンの存在、税金の優遇、政治家との癒着、マスコミやテレビ番組の完全掌握……これでは、まるでアイドルが国会を動かしていると海外から誤解されてもおかしくない》
《そして、その3次元アイドル勢は……我々に対しても流血を伴う事件は起こしていないが、反対勢力を社会的に抹消し始めている》
《この状況はディストピアと変わりないと確信している。このような世界を生み出すきっかけとなった投資家ファン等を放置した我々にも責任はあり、この状況を放置してきた人間を個別に制裁しても超有名アイドル勢の思う壺だろう》
《ネットのまとめサイトでしか情報を収集せず、正式なソースを確認しないようになってきた情報弱者……そうした存在が超有名アイドルによる日本のディストピア化を放置する事になってしまったのだ》
《私は、超有名アイドルコンテンツによる全産業の掌握及び支配……率直に言えば、超有名アイドルによるディストピアから解放する為に戦う!》
この他にも複数のつぶやきもあったのだが、それらは意図的に消されていた。まとめサイト勢に不必要として削られたのか、意図的に炎上させる為に削ったのかは定かではない。
これらを見た炎上勢は、早速行動を開始して大淀を暗殺さえしようとも考えたが、そこまでの事態に発展すれば逆にまとめサイト勢の思うままだろう。
そこで、別勢力を利用しようとまとめサイト勢はフジョシや夢小説勢等の超有名アイドルとは無縁と思われる勢力を引き合いに出し、魔女狩りを行うべきと宣言したのだ。
「まさか、アカシックレコードの内容をここまで曲解して、都合のよい部分だけを抜き取って記事にするとは……まとめサイトのレベルも落ちたか」
一連のまとめを見て、ため息を漏らしたのは大和杏である。この文章をチェックしたのは早朝のニュースをチェックしている時。
「アガートラームも、ここまでの誤解を生むような発言主を放置してはいけないと考えているか」
再び、大和に聞こえた幻聴は『ブラウザゲームにおける外部ツールと言える存在、悪意あるまとめサイト勢を撃破せよ』と言っているように思えた。