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ミュージックオブスパーダ  作者: 桜崎あかり
ランカー登録編
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第2話:始まりの序曲

###


 山口飛龍は、あの時の大和杏が放った一言を気にしていた。


『イースポーツをビジネスだけで考えているようでは、超有名アイドル商法と同じ。その先にある未来を確かめる事は出来ない』


 彼女の一言は一部芸能事務所が日本を動かしているという盛大な過ち、それを連想させる物だったのだ。


「一部の芸能事務所、それが日本全体を誘導し、自分達を唯一神として永久に存在し続ける。そうしたコンテンツ業界を生み出そうと……」


 山口がコンビニから少し離れた道に入り、谷塚駅へと向かおうとした矢先、黒フードの集団に囲まれていたのである。


「○○芸能事務所アイドル以外のコンテンツは排除するのみ……」


 黒フードの人物は男性に見えたのだが、実際にフードを脱いだ姿は女性だった。一体、これはどういう事なのか?



 次の瞬間、黒フードのアイドルファンが襲いかかってくると考えていたのだが、その考えが間違っていた事を思い知らされる事になった。


「そこまでにしてもらおうか」


 唐突に姿を見せた人物、彼も黒フードと同様に武器を――と思ったが、彼が持っているのはDJが使用するようなターンテーブルに鍵盤が付いたようなロングソード。


 相手の方はガチでスピアやサバイバルナイフ、更にはハンドガンも持っている。彼の装備とは到底違う。


「ARゲームは、超有名アイドルの派閥争いや政治の材料に使われるべきではない」


 彼が剣をふるう事はなく、瞬時にして周囲の黒フードは気絶していた。何が起こったのか、さっぱりわからない。


 何をされた……と言うよりは、周囲にエラーメッセージが表示された後、黒フードのARガジェットが無効化されたと言うべきか。


 それでも、一言で説明するには難しい。彼は単純にターンテーブルと鍵盤を使って演奏をしていただけなのだから。 


 その後、気絶していた人物を生き残っていたメンバーが叩き起こし、退却していった。


 彼女達の目的が自分にあるのは明らかだったのだが、あっさりと退却したのには理由があるのだろうか?


「一体、彼は何をしたのか――」


 山口は目の前の人物が、何を行っていたのか理解できなかった。単純に音楽を演奏していたと言うよりも、遠目からすればDJをやっていたようにも見える。


「大丈夫か?」


 先ほどの男性が声をかけてきた。どうやら、今回の件に関してお詫びをしたいと言う事だった。



 数分ほど、男性から事情説明を受けるのだが……それでも先程の状況を理解するには至らない。


「事情は分かりましたが、あなたはいったい何者ですか?」


 山口の言う事にも一理ある。事情説明の際にはゲームの開発者と言う事、超有名アイドルファンが使用していたガジェットに付いての説明しかしていない。


 それ以外にもあったかもしれないが……話の次元が違いすぎて内容が入ってこない。


「私の名は南雲蒼龍。これでもミュージックオブスパーダの開発者をする前は作曲家をしていた」


 南雲蒼龍なぐも・そうりゅう、彼の名前には覚えがあった。しかし、それはJ-POP等で知られる有名作曲家と言う訳ではない。


 だからと言って、ネットの動画サイトで有名なボカロPという訳でもない。


「もしかして――」


 山口がその結論に到達しようとした時、彼の姿は既になかった。他の場所へ向かった可能性もあるのだが、彼は言及もしないまま姿を消した事になる。



###


 時間は3月末日までさかのぼる。山口がエントリーしていたのは作曲コンテストだが、普通のコンテストではない。


 優勝すれば新人アーティストとしてのでニューが約束されているという……いわゆる登竜門的な物だった。


 しかし、このコンテストには黒いうわさが絶えない。優勝者は再起不能となり、準優勝の人物が超有名アイドルの楽曲提供を約束されると言う噂が存在する。


 当然だが山口は黒いうわさの事を知らない事に加え、それを信じるような気配はなかった。


『優勝者は、山口飛龍さんです!』


 司会の男性から優勝者の名前が読み上げられ、それが自分である事に自覚がなかった。


『率直な感想をどうぞ!』


「自分が受賞出来るとは思っていませんでしたが、これもある種の運命であると考えています」


 司会から感想を求められ、山口は一言。その内容も、テンプレ的な物である。


「しかし、本当に自分が取ってよかったのかも……」


 その後、山口は若干言葉を選びつつも何かを発言しようとしたが、司会進行の関係であっさりと打ち切られ、表彰に移った。



 4月1日、その事に関して恨みを持っていたのかは不明だが、山口を取り囲むように黒フードの人物が姿を見せたのである。


 その後は……南雲が現れたと同時に周囲の人物をあっという間に無力化した。周囲の人物がフラッシュモブと言う訳でもなければ、かませ犬とも違うのは他の通行人も把握していた。


「一体、南雲は何者なのか――」


 それ以前にも色々な謎は浮上するのだが、南雲の正体に関しての比重が一番多かった。単純に作曲家と言うには不自然な個所がある。


 ARガジェットに関しては、別のARゲームのプレイヤーと言う事も納得出来るが……。


「奴らは、超有名アイドルが永久に存在し続ければ他はどうでもよい……そこまで考えているブラックファンだ」


 山口の隣に姿を見せたのは、大和杏だった。彼女の方も用事が終わって帰る所だったらしい。


「永久と言うと、解散まで?」


 山口の一言に対し、大和が答えたのは常人では理解できないような物だった。


「解散は通過点に過ぎない。彼らが求める永久とは、簡単に言えば銀河系が消滅するまでだ」


「銀河系が滅びるまで……。何を言っているのか理解できない」


 大和の一言に対し、山口は呆れかえるしかない。一般人でも、この一言にはドン引きするのは間違いないだろう。それ程、ブラックファンの考えは常軌を逸していると言っても過言ではない。


「あそこまでの思考に至ったのには色々と理由はあるが……。対処方法がファンタジー世界にでもファン全員を転生させるというような、大胆なものでしか解決はできないだろう」


 大和としても穏便に事を進め、超有名アイドルファン……特にアイドル投資家やブラックファンを完全排除しようと考えている。


 こうしたファンの行動が周囲の認識を歪め、超有名アイドルが過去に存在したような巨悪組織等に見えるような状況を生み出しているのだろう。


 これが被害妄想ではない事は、週刊誌やスポーツ新聞記事、ワイドショー等での報道でも分かる事。


「それと、ARゲームに何の関係が……?」


 山口は問う。大和がミュージックオブスパーダに乱入した際の行動、それが超有名アイドルと関係があるのか……と。


「大きな関係は運営からもないと言われている。しかし、超有名アイドルの名前を出してネット炎上すれば、全ては正義の行いで無罪となる……という風習があるらしい」


「どちらにしても、一連の事件が正義であるという事はありえない。それこそ――」


 大和は途中で言葉を詰まらせる。これ以上の事を話しても通じるかどうか、と言う部分もあるのかもしれない。


「今の話は忘れてくれ。こちらとしても、下手に今回の一件に関わる事で社会的に抹殺されると言うのは、こちらが望むものではない」


 そして、大和は歩いて何処かへと姿を消してしまった。行先的にはコンビニだろうか?


「ARゲーム……」


 山口は今まで興味すらなかった物である事は間違いないのだが、今から帰っても作業的なものはない。時間つぶしを兼ねてアンテナショップへ向かう事にした。



 午後2時頃、あるニュースがネット上で話題になっていたが、それも一部のネット炎上勢が政治家になったような人物の暴走の果て…と言う事でスルーされる。


 一連のディストピア政治を生み出した原因、それはあっさりと崩壊する事になったのだが……ネット上で、この話をしようと言う人物はごくわずかだ。


 そうした勢力も、結局はネットを炎上させる事で自分が目立ちたいだけと言う人物であり、政治等はどうでもよいという考えで動いていたにすぎない。


 こうした勢力は一斉に検挙され、あっという間に事件は完結する事になった。


【アカシックレコード自身がスケジュール変更を指示した?】


【超有名アイドルの資金提供者を政府与党と言う事にしたいと言うのは、ネット右翼に限った話ではないが】


【今回のARゲームを巡る事件には、政治的駆け引きは存在しないという事の証拠かもしれない】


【過去の超有名アイドルに絡む事件は……政治的背景もあったようだが】


【アカシックレコードの技術、それを軍事技術に転用すれば地球を滅ぼせるのは、確定的に明らかだ】


【ファンタジー世界に現代兵器を持ち込むような感覚……それが現代にアカシックレコードの超技術を転用すると言う事だろう】


 ネット上のつぶやきで語られた事、それはアカシックレコードの技術を政府が何としても手に入れようとしていた事を示唆するような発言だった。


 その後、政府の一部勢力でアカシックレコードを独占しようとした人物が判明し、任命責任を含め、国会は大混乱する。


 最終的には、軍事転用を考えていた勢力が一斉に辞職する事になったのだが……それは別の世界線で触れられる話だろう。



 午後2時10分頃、山口は南雲の話を思い出していた。


『自分がミュージックオブスパーダを開発する事になった理由、それは超有名アイドルによる音楽業界のディストピアを――止めることだ』


 山口はディストピアの意味自体は知っていたが、今の音楽業界を踏まえると……そう感じるような箇所があるとは思えなかった。


「一部のアイドルグループへの投資をすれば富豪の様な生活が約束される――そう、南雲は言いたいのか。馬鹿馬鹿しい」


 草加市が奏歌市に変わる前、確かにアイドルグループのライブ等が積極的に誘致されているような一面はあった。


 それによって市民生活が豊かになると言うのは、幻想にすぎないだろう。つぶやきサイトでも、この辺りの話は何度も議論されている。


『それを、馬鹿馬鹿しいと否定するか?』


 山口の前に姿を見せたのは、商店街の光景からは考えられないようなパワードスーツの人物だった。声は男性の様に感じる。



 山口の目の前に姿を見せたパワードスーツの人物、それはARガジェットの物であるのは事実だが……何かがおかしいと感じ取れた。


「ARガジェットであれば、専用バイザーやサングラスでない限り、ゲームフィールドが形成されていない時は――」


『確かにそうだ。ARガジェットは特撮で使用するようなスーツとは違い、コスプレイや変装には不向きだ』


「まさか、ゲームフィールドが形成されているのか?」


『形成されているのは、別の場所で行われているゲームの物。このアーマーが形成されたのは【誤爆】的な物だろう』


「誤爆? 本来であれば発動しないと言いたいのか?」


『そう言う事だ』


 向こうの方は手っ取り早く話をしたいのだが、山口の方が事情を呑み込めていないので簡略説明を行う。そして、説明が終わった所で目の前の人物は話を切りだした。


『今の音楽業界は一部アイドルグループによる資金回し……FX投資のような物で動いている。そのような音楽業界……CDランキングが正しいと言えるのか?』 


「それが正しいとは思えない! しかし、それを証明する為にも音楽で――」


 山口の話も、目の前の人物はあっさりと門前払い。一体、彼は何を言いたいのか?


『音楽の力? それをいまだに信じているとしたら、お前は相当だな。今の音楽業界は、曲のクオリティは二の次だ』


「――芸能事務所の力で決まる、と言いたいのか?」


 山口の方も音楽で変えようとしていると宣言したかったが、彼はあっさりと門前払いした。それだけ彼が強気と言う事は、納得出来る理由を知っている証拠だろう。


『それでは50点だ。芸能事務所は、ある勢力と手を組んでいる』


「手を組んだのは政治家と言いたいのか?」


『政治家が超有名アイドルと手を組み、世界を征服しようというプロット自体、既に使い古されている。芸能事務所も政治家と組むメリットはないだろう』


「お前は、一体何を言っている? 何と戦っていると言うのか」


 山口の言いたい事も一理ある。目の前の人物は、政治家と組むこと自体が『時代遅れ』と明言したのだ。では、本当の敵とは何なのか?


『私の名はバウンティハンター……全てを知りたいと言うのであれば、ARゲームをプレイして知ることだ』


 この一言を残し、バウンティハンターは姿を消した。一体、彼は何者なのか。それさえも語っていない。


「超有名アイドル……あの時に襲ってきたのも、ブラックファンと言う話だったが」


 山口はふと思う。超有名アイドルのブラックファンが日本を混乱させている元凶なのか……と。

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