第19話:偽者のアイドル(前篇)
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5月28日午後2時、都内各地の公園でデモ活動が起きた。表面上は政治的な部分を確認する事は出来ないのだが、メンバーの服装に違和感がある事に気付く人物もいる。
【あのデモ活動は、どう考えても警察が来る前に封殺されるな】
【特定芸能事務所のアイドルとは違うデモ活動に見えるが、実際は違うのだろう】
【デモ活動だけで逮捕される事はないとはいえ、さすがにやり過ぎだ】
これらのデモ活動のニュースが報道される度に、つぶやきサイト等ではやり過ぎという声が上がる。
しかし、その一方でこの活動自体が何かの囮と考える勢力もあった。
【何処かのニュースサイトにあった、別のアイドルに対する抗議デモと見せかけ、本来は……】
【その路線は使い古されている。全てのコンテンツに対し、反対を唱えて更地にする可能性もある】
【どちらにしても、その更地をアイドル投資家連中が独占すれば、同じ事の繰り返しなのに】
【超有名アイドルを町おこしに使おうとして、逆に批判を浴びる事態になったという話もある】
【結局、平穏に暮らしたいと考える人間にとって、特定コンテンツで町おこしと言う発想自体がデモの対象になっているかもしれない】
【アイドルグループの講義がおとりとして、本命は何だ? 特定コンテンツの排除だとしたら、フジョシ勢や夢小説勢も動き出すだろう】
【マスコミが別のデモを取り上げているという事は、本命が別にあるのは間違いない。アイドル関係のデモは数分も取り上げていない】
つぶやきを見ながらテレビを実況していた勢力が何かの異変に気付く。アイドル関係の報道が数分程度で簡単に済まされている。これではまとめサイトを見た方が情報を得られるだろう。
それ以外のニュースや国際情勢に時間を割いているように見えるのは、単純に視聴率的な意味ではなく、芸能事務所からの圧力と考える人物もいた。
同日午後2時15分、ニュース等よりも速報を伝えたのはまとめサイトの方だった。何と、デモ活動をバウンティハンターが次々と鎮圧しているというのだ。
しかし、ニュースで大きく取り上げないのには別の理由もあるように見えた。
【バウンティハンターが現れたのか?】
【テレビの速報テロップも出ていないから油断していた】
【その映像は、何処で配信されている?】
【予想外の所で配信されているようだ。現在、サーバーが混雑している】
【サーバー? どういう事だ】
つぶやきでも今回の一件に関しては衝撃を受けている。突如としてデモ活動を鎮圧するバウンティハンター……何が目的なのか。
【どうやら、ARゲームのサーバーで中継されているらしい。そうなると、ゲームとして進行しているという事か?】
【ジャンルは何だ?】
【FPS、TPS辺りに見える。しかし、サーバーもパンクしていて詳細は確認できない。動画投稿サイトに投稿されるのを待つしかないか?】
ARサーバーを使用して中継と言うよりは、ゲーム配信と言う形になっているようだ。しかし、ARゲームでデモ活動が行われているのか、それともイベントなのかは定かではない。
同日午後2時20分、既に全体の90%が鎮圧されている中、草加駅近辺に姿を見せたのは私服姿の加賀ミヅキだった。
「遂に動き出したか……ゴッドオブアイドル」
彼女もゴッドオブアイドルに関しては、ネット上の捻じ曲げられた噂以外も知っている。しかし、真相に辿り着こうとして消される寸前になったハッカーは無数にいるのだ。
それ程にゴッドオブアイドルの情報は匿名性を持っており、それを口にする事はつぶやきサイト内でも禁止されている……というのは表向き。
本来はマスコミが超有名アイドルグループメンバーと契約が出来なくなるという事で、さまざまな手段を使って口封じをしているのが真相のようだ。
しかし、そうした記述も偽物かもしれない。ゴッドオブアイドルの情報が今まで表に出て子なったのは、この為だ。本物の情報を拡散した場合、その損害は国家予算にも匹敵するらしい。
「しかし、他のアカシックレコードでは違う名称で存在し、その正体はマスコミや投資家ファンの作りだしたマッチポンプと聞く」
加賀が冷静に分析している内に騒動は鎮圧され、ようやくニュースでも報道された。
【やっぱり、あのアイドルの仕業か】
【超有名アイドル商法に便乗すれば、タダで宣伝できると考えたのだろう】
【超有名アイドルによるディストピア、この次元でも実現させようと言うのか?】
ニュースでは中堅所のアイドルファンが暴走し、デモ活動を起こしたと報道されている。
しかし、現場に置かれた横断幕などは不自然なほどに新しく、どう考えてもすり替えられているのが明らかだ。
「別のバウンティハンターと言うより、このデモを鎮圧したのは超有名アイドルファンが演じているバウンティハンターか」
加賀はタブレット端末をチェック、近辺で別のARゲームによるマッチングが行われていたのを確認する。
どうやら、デモ活動を一種のクエストとして指定、バウンティハンターに討伐を依頼させたのが真相だろう。しかし、このような回りくどい作戦を展開したのは何故か?
一番有力なのは、ARゲームに悪い噂を流し、それを利用して買収を行い、超有名アイドル関係のコンテンツを独占配信、更には全世界規模、全次元規模の配信を行うのだろうか。
それこそ、超有名アイドルのディストピアであり、過去の世界線でも繰り返されて来た歴史でもある。
「これは、まさか……?」
タブレット端末を確認した加賀が見た物、それは偽物のバウンティハンターを撃破していく山口飛龍の姿だった。その装備はミュージックオブスパーダで使用されている物。
しかし、こちらも何者かのなりすまし、CG加工と言う路線も考えられる。それを考えた加賀は、現場となっている谷塚近辺へと向かった。