第18話:バウンティハンター、その名はビスマルク(後篇)
>9月23日午後3時57分付
誤変換修正:子の仕様⇒この仕様
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5月28日、重装甲ではなく私服にサングラスという服装で姿を見せたのはビスマルクだった。
「成程。他のARゲームの様に重装甲型ガジェットは特に必要ではないのか」
順番待ちの間に他人のプレイを見ていたビスマルクも驚きの声を上げる。
【スパーダに新規参戦が増えている件】
【超有名アイドルの宣伝行為をしているプレイヤーは、確実に魔女狩りのターゲットになるだろうな】
【それを踏まえて、偽装エントリーしようとしていた人物がエントリー拒否されたらしい】
【エントリー拒否の理由は、芸能事務所関係者だったらしいという事が公式で発表されている】
【芸能関係だと、その辺りを疑われてもおかしくはない】
【超有名アイドルのタダ乗り宣伝行為、それを問題視しているのが……ARゲームの運営と言う事か】
他人のプレイを見ていたビスマルクの持っているスマホには、一連のつぶやきが流れている。
ビスマルクのプレイ順序が回ってきたのは、20分後だった。
「装備自体の持ち込みは不可能だが、デザインを同じにすることは可能か」
別のARゲームで使用している都合上、彼女が使う重装甲アーマーを持ち込む事は出来ない。その一方で、スーツデザインをコピーペーストする事は可能のようだ。
しかし、いくらコピペしたとしてもFPSゲームで使用するスキルを使用出来ない事には変わりない。
この仕様に関しては、他のARゲームプレイヤーが圧倒的なアドバンテージを得る事がないようにと言う南雲蒼龍の設計による物だった。
本来であれば他社のARゲームでない限りはガジェットの共用は可能となっている。これは複数アカウントを所有させないようにする為の苦渋の策でもある。
【あのスーツデザインは、鉄血のビスマルクなのか!?】
【いくら何でもスーツデザインが似ているとはいえ、あの鉄血のビスマルクがエントリーしているとは到底思えない】
【なりすましプレイヤーは、未申告も含めれば無数に存在する。デザインが類似するだけの別人説は存在するだろう】
【ビスマルクと言っても同名プレイヤーは多数いるだろう? 鉄血のビスマルクがミュージックオブスパーダに……】
ネット上でもビスマルクの出現に関しては偽物説が多く、本物と考える人物はごく少数だった。しかも、本物と発言しても否定されると言う繰り返し。
この状況は、まるで超有名アイドルの宣伝行為やコンテンツ炎上狙いの炎上屋を思わせた。
ビスマルクとマッチングしたプレイヤーはレベル10未満が3名、どう考えても上級者のなり済ましとは考えられない。
「そう言う事か。いくら別ゲームで有名なプレイヤーだとしても、ここでは新人同様か」
1曲目に選曲したのはロックバンド系の曲だったが、ビスマルクとしてはテンポがつかめずに苦戦すると言う結果となり、順位を付けるとしたら最下位だった。
周囲のプレイヤーが決して上手と言う訳ではなく、ビスマルクに関しても落ち度があった訳でもない。しかし、これが現実だったのだ。
「演奏は失敗した訳ではない。2曲目に賭けよう」
2曲目に選択したのはクラシックアレンジのジャンルだったが、こちらも特に見せ場なくプレイを終了した。
2曲ともギリギリで演奏クリアだったのだが、スコアとしてはボーナスステージに到達できる物ではない。
演奏を終了したビスマルクは落胆をするものかと思われたが、逆に清々しい笑顔でフィールドを後にした。この反応が周囲のプレイヤーに不快感を与える事はなかった。
そうした理由の一つに、ビスマルクがFPSで使用しているアーマーのコピペデザインと言う事もあり、バイザーの下の素顔が見えない仕組みでもあったから。
バイザーのシステムに関してはゲームのバランスに考慮されないという事で、コピペされたシステムがそのまま使われた説も大きいが、その辺りは本人に聞かないと分からないだろう。
【見かけ倒しだったか?】
【もしかして、大淀の様なミラクルが起こると思ったのか?】
【おそらく、彼女は音ゲーのプレイ歴がないのだろう】
【確かに音ゲー経験者がミュージックオブスパーダで有利なのは、大淀以外にも数人いる】
【FPSで知られる鉄血のビスマルクだったとしたら、アクション面はFPSから生かせるはずだ。ああも後手に回る事がおかしい】
【格闘ゲームだったら、アクションゲームの技術も生かせるだろう。しかし、これはアクション要素はあったとしても肝になるシステムは音楽ゲームの方だ】
ネット上のつぶやきでもビスマルクのアクションを期待していたら、逆に期待外れと考える意見が大半だった。しかし、それでも冷静に分析を行う人物もいる。
同日都内某所、これらの動きを複数のモニターで監視している人物達がいた。
「遂に我々が動く時が来たか」
「政治家連中は一斉逮捕や強制捜査等で、当面は動けない」
「デスゲーム禁止法案という重要案件は通過してしまった。これ以上、あの勢力に遅れはとれない」
円卓を囲むように複数の男性がいる。外見は色々とあるが、彼らに共通しているのは素顔を見せていないことだ。
「レジェンドアイドル、超有名アイドルが不祥事などで評判を落としている以上、我々の推しアイドルが復活する時が来たか」
「この状況こそ、我々にとっては都合がいい。ARゲーム勢を炎上させ、超有名アイドルが成り代われば……!」
彼らの推すアイドルはゴッドオブアイドル……かつて、神として有名だったが失踪してしまったアイドル。
しかし、それが真実かどうかを調べる手段はない。
同日、バウンティハンターは別勢力の転売業者を捕まえる際、ゴッドオブアイドルと言う単語を聞いていた。
「そう言うことか。全ては超有名アイドル勢による大々的な宣伝行為を規制され、それに恨みを持つ者の――」
ゴッドオブアイドルとはアカシックレコードでは邪悪と言ってもいい存在として記述されている。
「どちらにしても、外部ツール勢と超有名アイドルがイコールである事を証明しなければ」
加賀ミヅキ、彼女が何故にバウンティハンターを名乗るのか。山口飛龍に対しては、未だに素顔を見せる気配はない。