第16話:バウンティハンター、その名はビスマルク(前篇)
>9月19日午前2時50分付
誤植修正:とある運営に付きだされて→とある運営に突きだされて
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秋葉原の貸しビルで発見されたサーバー、そのデータ量が異常なのはネット上でも話題だったが、それ以上に電力消費も常軌を逸していた。
その電力消費は電気代換算で月10万円を超える。ゲームセンター等では、これよりも上と言う事もあるかもしれないが……。
しかし、それ程の電力消費のするサーバーを誰にも気づかれずに隠し通せたのには太陽光システム以外にも電力を発生させるシステムがあったからだ。
「なるほど。これが、ARガジェットの動力源の正体か」
バウンティハンターとして動く人物の一人、彼女は黒のARガジェットアーマーを装着し、その重装備は無敵艦隊を連想させる。
しかし、彼女には別のコードネームが存在していた。その名は、ビスマルク。
「あれだけの電力消費で太陽光、風力の自家発電だけで補えるとは思えない」
ビスマルクの懸念していたのは、ARガジェットの動力源が非常に危険なものである事だった。それは、魔力とも言われている。
【魔法を動力源とか、大手Webサイトの小説じゃあるまいし】
【SFでも米粒程度の大きさで異常な量のエネルギーを発生できる物もあるが……】
【それこそフィクションの世界だ。この地球でクリーンなエネルギーが存在するとでも?】
さまざまな議論がつぶやきサイト上で起こるのだが、目の前にある事例を見た後では否定出来る人物は皆無と思われた。
「賢者の石でも存在するかと言われれば、それこそあり得ない。全てはアカシックレコードの技術とARゲームで解決できる」
ビスマルクは賢者の石等のオカルトを信じるような気配はなく、アカシックレコードの技術とARゲームの技術を融合させたものとして考えていた。
5月も下旬になり……6月も近づいたある日の事。その事件は発生した。
5月26日、別のタダ乗り便乗勢力がミュージックオブスパーダに姿を見せ始め、こちらも理論値を次々と叩きだす案件がつぶやかれた。
【あの時と同じだ】
【どうせ、バウンティハンターが片づけるだろう】
【しかし、超有名アイドルの宣伝目的だった勢力とは何かが違う】
【政治的なデモなのだろうか?】
【それこそ、なおさらあり得ない。奏歌市で政治的な案件を持ち込むのはタブーとされている】
【バウンティハンター以上に恐ろしい敵を回すのであれば、地雷を踏むような事はしないだろう】
【それほど恐ろしいのか?】
【ネット上では『ご都合主義』とも言われているが、真相は不明だ】
しかし、今回の勢力は外部ツールを使っている気配はない。ブラックリストに入っている物を読み込ませると、即座にエラーを吐く仕組みになっている。
これは一連のチート行為が広まった事に対応する為の物であるのだが、ブラックリスト外のチートガジェットが出回れば……どうなるかは想像に難くない。
「理論値をたくさん出せれば、いずれは大金が入ってくる環境になるだろう」
「このダークガジェットさえあれば、それが実現出来る! この圧倒的な力があれば……」
「この発言って、もしかしてかませ犬フラグか?」
チートガジェットを使っていたプレイヤーはつぶやく。この手の発言がフラグなのは、過去にも同例が存在する。
《乱入フィールドが展開されました》
ダークガジェットを使用していたプレイヤーに、あるメッセージが表示される。彼らがプレイしていたゲームはFPS系のサバイバルゲーム。
それに加え、乱入システムも実装されているのが逆に仇となった。
「お前達か。外部ツールを使用したガジェットを売りさばいている転売業者は」
目の前に姿を見せた乱入者、それは元祖バウンティハンターだった。彼らにとっては想定外の乱入者だ。
「だったら、どうする気だ! バウンティハンター」
「丁度いい! 彼を倒せば、外部ツールを更に拡散させる事が出来る。チートを取り締まる存在は消滅するだろう!」
「外部ツールを売りさばき、今度こそ我々の推しアイドルを信仰対象として――」
ある人物の不用意の一言、それはバウンティハンターを本気にさせるだけの発言になったのは間違いない。
「お前達――」
次の瞬間、バウンティハンターの重装甲アーマーは消滅した。ARガジェットで言う所のガジェット交換という具合だろう。
声もボイスチェンジャーで変換されていたらしく、この声は先ほどの男性とは異なるトーンの声だ。
そして、バウンティハンターの装備したのはワンオフ型の青色のガジェット、あの時に長門未来が使用した物と類似する物はあるが……。
バイザーのメットが装備される瞬間、バウンティハンターの素顔が見えた。どう考えても女性である。
「その発言を軽はずみに拡散させようとした事、後悔させてあげるわ!」
彼女の名は加賀ミヅキ、アカシックレコードにも似た名前が存在する人物だった。
そして、次の瞬間には外部ツールを転売していた業者は警察ではなく、とある運営に突きだされていたのだ。その運営とは……ミュージックオブスパーダの運営である。
何故、加賀がFPSの運営ではなくスパーダの方へ突き出したかは定かではない。