第13話:黒船、降臨す!(前篇)
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ゴールデンウィークを若干過ぎ、5月も中旬になろうとしていた。それぞれのプレイヤーが地道に練習をしていく中、ある人物が注目を浴びていた。
4月末に差し掛かった頃に注目を浴びる事になった大淀はるかとは違い、こちらは名前に関してはある程度知られている状態だったのが唯一の違いだろうか。
【遂に、音楽ゲームのリアルランカーまでも姿を見せる事になるとは】
【格闘ゲームの有名プレイヤーがAR格闘ゲームに挑んで玉砕したという前例がある以上、こちらも二の舞か?】
【狩りゲーの上級プレイヤーであれば、そうなったかもしれない。しかし、ミュージックオブスパーダは音楽ゲーム要素の比率が高い】
【つまり、それを踏まえると格ゲーや狩りゲー、ARゲーム経験者が玉砕したようにはならないと?】
【そう言う事になる。ARゲーム経験者でも積んだ理由は、後半の猛攻と言うべき部分だろう】
つぶやきまとめの『後半の猛攻』とは、音楽ゲームで言う所の発狂地帯や『わけのわからないもの』と言うような譜面を意味する。
ミュージックオブスパーダの場合、譜面と言うよりもボスラッシュと言えるような敵の出現を指す物だが……。
話題となった動画の投稿日は5月10日だったのだが、この動画が話題になったのは一週間経過した辺りの17日である。
『アクエリア・BSC』
動画のタイトルは曲名と難易度である。難易度はBSC、EX、EX+の3種類存在し、更には一部で高い難易度があると言う噂も――。
その中でも、BSCは慣れていないプレイヤー向けに用意されたものであり、一般的にプレイが目立つような物ではない。
音楽ゲームの場合、高難易度譜面に関しては需要が存在する一方で、低難易度に関しては譜面確認用等でしか需要はないのだ。
それが注目を浴びると言うのは、相当なプレイヤーがプレイしている可能性も否定できない。
【プレイヤー名が確認出来るような記述は――】
【これって、もしかして?】
一部のユーザーは、この動画でプレイしているプレイヤーに気付いていた。
曲の最初、イントロ部分では登場する敵も数体程度、暴れプレイ等でない限りは苦戦する相手ではない。
初心者の場合は、チュートリアルの1体だけでも苦戦する場合がある。ギャラリーからすれば、下手なプレイを好き好んでみるような事はしないだろう。
そう言った事もあって、ミュージックオブスパーダではプレイヤーのスキルに左右される形でギャラリーの数が決まると言ってもいい。
有名人がプレイする場合は違うのかもしれないが、そう言ったような事はミュージックオブスパーダに限っては通用しないだろう。
【あれで本当に初心者か?】
【チュートリアルをプレイして、その後のプレイをアップしたのかもしれない】
【ドの動画をアップするかはプレイヤーで選択出来るはず。数十回位プレイした中から、スコアの高い物をアップすると言う事も可能だ】
さまざまな声もあったのだが、この動画の右上に表示されているステータスを見て、誰もが驚いたのである。
【プレイ回数1回?】
【初見プレイだと言うのか?】
【あのプレイ回数は、該当譜面に対しての物。つまり、他の譜面を粘着後に気分転換で……と言う路線もあり得るだろう】
イントロ部分でビームダガーを振り下ろし、一発でターゲットを撃破している。
これが意味する物、それはジャストタイミングで的確にリズムを刻んでいることだ。
ターゲットのモンスターは、基本的に数撃で沈む。しかし、それは上手くリズムを刻めているかどうかにもかかっている。
単純な連打で倒す事は不可能ではないが、そこまでしていると体力の減少スピードが速まり、プレイ途中でも演奏終了を宣告されるだろう。
【即閉店は――ゲージ設定を変えている時だけ。最初は演奏失敗でも保障があるだろう】
【あのプレイヤーは、初心者から中級者の間なのだろうな】
動画を見たユーザーは、あの的確な動きを認めたくないというのもあった。明らかに、自分達が自信を失う可能性もあったからである。
【あの体格で動けるとか……どういう事だ?】
【重装備であれば、体力の減りは少ない。つまり、初心者救済用装備である可能性も……?】
あるプレイヤーのコメント、それは動画内のプレイヤーが装備している物にも理由があるのではないか、と考えているようでもあった。
しかし、このプレイヤーはインナースーツと軽装のギアのみ。これで重装備に見えるのには、一つ理由があった。
「あの体格で、あれだけの素早い動き……もしかして?」
この動画を見ていた大淀はるかは、何かに気付いていた。彼女の体格、それはぽっちゃりと言われるような体格だったからだ。
これでも一般女性より少し……という体格だが、周囲からはぽっちゃりと認定されてもおかしくはない。
「やっぱり、彼女は――」
大淀は、ようやくあの動きの正体に気付いたのである。動画の説明文で何となく予想出来る物もあったが、彼女が曲のメイン部分で見せた機敏な動き、それは実際に踊るリズムゲームで見せる物と類似していたからだ。
動画内のプレイヤーの名は長門未来、音楽ゲームではぽっちゃり音ゲーマーとしても有名なプレイヤーであり、現役音ゲーランカーでもあった。