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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

召喚系ファンタジー

醜い女が書かれた旗

わりかし暗いです。痛い表現がしょっぱなから出てきます。

ダメな方は回れ右をお願いします。

 

 

 

 数百年ぶりに召喚を成功した『花嫁』とその伴侶となる偉大な国王の目出度いお披露目のために、頑張って練習したので初めては一人で挨拶したいのですとはにかんだ私になんの疑いも持たずなんて立派な『花嫁』よと感涙を浮かべて見送られて登った階段の先にある、立派な城に作られた高いバルコニー。


 しんと静まった広間で、最初は『花嫁』らしく優雅に頭を下げ、私の声と仕草に油断しきって聞き惚れていた者たちに、一転。

 召喚されてからの苦しみや悲しみや本心すべてを晒し、万が一の身を守るすべにと頼んで忍び持たされていた、数滴でも重度の火傷を負う小瓶にはいった液体をすべて顔にぶっかけた時の、唖然としたあの男と一歩後ろに控える目を見開いて口を手で覆った女と顔色の変わった大臣と青ざめた騎士と慌てふためく魔術師とどよめいた国民の顔を見て、ざまあみろ、と痛みに悲鳴を上げながら思った。



 なぜ、私がそんなバカなことをしたかって?


 簡単に言ってしまえば、花嫁という『道具』として利用されるために生まれ育った場所から勝手に召喚され、なんのことかわからず右往左往していた私を逃さないように閉じ込め、覚えたくもない知識や教養を詰め込まれ、それが終わればあとは表向きの飾りとして据え置かれ、伴侶となり支えるべき夫は別の、真実愛する『花嫁(一歩後ろに立っていた側室の女だ)』と共に過ごす『予定』になっていたからだ。


 そしてそれを、国民は知らずとも迎合し、内情を知る大臣達は『二度と帰れませんが不自由はさせません』と嗤い、見守る騎士や兵士はそれが召喚された『モノ』の幸せだと信じて疑わず監視者の約目を奪い合い、『会えるのを楽しみにしていました。どうか、この国に平和を』と太陽のような笑顔で言い放った。



 ふざけるなという怒りと、もう戻れないのかという悲しみと、逆らって殺されたくないという思いと、この世界で生きていくしかないのかという諦めと、誰も彼も私を『わたし』ではなく『花嫁(どうぐ)』としてしか見ないのかという絶望と、言葉にならないすべてが交じり合って、狂気に変わったのはいつだろう。



 笑顔で固定された、自分の顔が嫌いだった。

 心の底から大声を上げて笑えない、嘆けない、怒れない、穏やかな自分の声が嫌いだった。

 しとやかな動作が美しいと、優雅に動く自分の体が嫌いだった。

 伸ばされた髪も、手入れの行き届いた爪も、感情を表さない瞳も、飾り付けられておうつくしゅうございますわと絶賛された姿も、何もかもが息苦しくて、ココロが砕けて壊され立派な『花嫁(オキモノ)』へ作り直されて『わたし』が殺されていく音を、確かに私だけが聴いていた。


 

 そうして、丹精込めて作り直された『花嫁(おもちゃ)』を、着飾って振り回して壊して飽きて捨てたら、また次の『花嫁(おもちゃ)』を呼び出せばいいと考える、なんて素晴らしい『セカイ』だろう!!



 痛みに悲鳴を上げ転げ回りながら狂ったように笑う私に近づいたのは、私が『花嫁(イケニエ)』であることに疲れて騎士すら遠ざけてひっそりと膝を抱えていた頃に、私が誰かしらずに知り合い時折会話しただけの、まだ医師見習いの十をやっとすぎたばかりのちいさな、けれど貴族だけあって賢くやさしい、この国で初めて召喚に対する疑問を持っていてくれた子供。


 異世界補正なのか頑丈な作りになった私の肌は、只人が同じ量をかぶったら間違いなく即死だった液体をかけても顔や首や抑えた手を焼けただれさせただけで、嫌だ死なないでと叫んだ子供が泣きながら水の魔術で液体を洗い流し、氷を当てて火傷の薬を遠慮なくぶちまけ、棒立ちになっていた他の魔術師を怒鳴りつけて治癒の術を掛けさせたおかげで、二度と人目にみせられずとも一命をとりとめられた。



 無論、お披露目の惨状はめでたい日だと大々的に広めまくって集めまくった諸外国の王や王子たちや大臣や護衛の騎士や使用人から我が国の国民から一週間もかからないうちに全土に話が伝わり、私は私を治療してくれたちいさな医師見習いとともに、私の扱いに困った王たちがとりあえず用意した豪華な一室に閉じ込められて優雅なティータイムと洒落込んでいた。

 無論使用人もいないし私も煎れ方を知らないので、給仕してくれたのは共に座って紅茶を飲んでいる子供である。貴族だからこそ一通りはこなせるようにしたのだとか。


 食事は日に三度、豪華な扉の下に作られた小さな穴から差し出され、洗濯物は専用のダストボックスに入れれば外に滑り出てこれもまた小さな差し出し口から綺麗になって戻ってくる。

 トイレと風呂などの掃除は自分でやるしかないが、なにもかも管理されていた頃に比べれば快適そのものである。

 言いたいことも全部言ったし、もしこれでまた国が『花嫁』を呼ぼうとしても前夜こっそり忍び込んだ召喚の部屋や資料は異世界補正で手に入れた魔法のチカラで完膚なきまでに燃やし流しすっかり綺麗にしたので、もしもう一度作り直すのなら最低でも数十年はかかるだろうと心の底でにんまり笑って、これすごくおいしいよと私は医師見習いの少年に遠慮なく笑いかけた。










「ねえおかあさん、どうして『はなよめ』さまはきたくもないのにこっちにきたの?ぼく、おとうさんとおかあさんといきなりはぐれたら、まいごになっちゃうよ」


 最初に、料理をする母親の服の裾を握って言ったのは、お披露目会のかなり近くで演説を聞いていたちいさなこどもだった。


「『花嫁』さまがかわいそうよ。だって、大好きなママのケーキも、一緒に遊んでくれるパパも、やさしいおばあちゃんもおじいちゃんも、こうやって集まるお友達も居ないところに連れてこられたんでしょう?」


 大人びた少女は友人と眉を寄せ合い、胸に手を当てて悲しみを共有した。


「迷子になったらそこからあんまり動かないこと。大きな建物に騎士や兵士が集まる場所にいって自分の名前とこのメモを見せて、困っていることを伝えること、だな。そうしたら兄ちゃんが迎えいってやるからな!わかったか?チビスケ」


 はぐれて泣きじゃくる年下のきょうだいをなんとか見つけた兄は、書き付けたメモを肌身離さずつけているように守り袋に入れて首にかけてやり、しがみつく子供を肩車して自分が迷子になった時の冒険話をしながら共に家路に着いた。


「もしも私たちの子供たちが突然攫われたり、行方がわからなくなったら、心配で夜も眠れないわ」


 夫にそう訴えたのは、四人の子供を育てている母親だった。


「哀れなものだ。……ちょっと出てくる。帰りは遅くなるから、先に寝ていてくれ」


 きゃっきゃと愛らしい笑顔を振りまく子供の髪と心配そうな妻の頬を撫でて、貴族の身分を持つ父親は意を決したように家を出た。


「これは、間違いなく拉致事件です。早急に解決法を見出さねば、また今回のような事件が起こります」


 分厚い書類の束を抱き抱えて気難しい顔をした文官が、元々召喚を快く思っていなかった別の国の王や大臣に訴えかけるため説明会を開き、その重大性をその舌鋒で説き尽くした。


 声は日を追うごとに大きくなり、いかな大国の王とても、周辺国だけでなく自国の国民からすら批判を向けられれば無視することは許されない。





 そうして、お披露目会から十数年後、『花嫁』の手によって召喚の術は復活したものの様々な条件を加えられて、その上、王族と魔術師と貴族と平民の多大な犠牲なくば召喚できないような、まさしく切羽詰まった時用のそれに書き換えられた。


 これを作り出した『花嫁』へ、人の命をなんだと思っているのだと批判が出されることもあったが、ではあなたたちは何人の『花嫁』を犠牲にしてこの国を豊かにしましたか?と静かに問われたとき、答えられる人間は誰もいなかった。


 召喚陣は完成したが、もしも召喚を実行するのならばこの身を砕きその欠片を持って召喚せよと言い残し、二度と惨事を忘れないように自分自身に石化の術と、万が一砕かれた場合全土にいままで召喚した『花嫁』の苦しみと悲しみが流れる映像の術を掛け、二度と起きることのない眠りに就いた。


 以降、獅子と剣と盾が象徴であった国旗は石化して陣の上に立ち尽くす醜い顔の女のドレス姿にかわり、召喚は数百年もの間一度も行われていない。


 無論像を壊し、召喚を実行しようとする者もいない訳ではない。

 だが、そうした者たちが陣に足を踏み入れた瞬間、最後の『花嫁』の実体験をまるで自分が『花嫁』その者になったかのような苦しみを感じ、像をどうしても壊せないまま今日に至っている。


 その管理人を自ら受け入れたのは当時医療の麒麟児と言われ、もっとも慈悲深き貴族と呼ばれたダハニアン・ルムキリ・リ・ウファニクダ公爵ただひとり。


 変わり果てた『花嫁』を癒しきれず、己の力不足を後悔し医術だけではなく魔術などにも研鑽を積み重ね世界第一の賢者であり医者と呼ばれるようになった彼は多数の弟子をとり、魔術及び医学の進歩を百年早めたと噂されるほどになったが、自身は結婚をせず、遠縁の親戚の子供を養子にして跡を任せた後、『花嫁』の召喚陣の近くに建てられたちいさな家でその生涯をひっそりと閉じた。

 その跡を継いだのは、彼の人の賢者としての力や知識すべてを受け継いだ養子。

 賢者に血のつながりも貧富も差別も必要なく、ただその才だけが条件であると記され、実行しているそれは現代でも尚続いている。


 かの賢者が離れないのは『花嫁』を愛していたからだという者も、いいやあの火傷を癒せなかった後悔からそばにいたのだという者も、はたまた単なる出不精だったんじゃないかと言う者など、多種多様な噂話がかの人の耳に届くこともあったが黙して語らず、真相は全て墓の中、闇の中である。









『顔どう?痛くない?薬効いた?』

『うん、もちろん。すごく良く効いたけど、あれどうやって作ったの?この火傷、城専属の薬師がくれた奴でもぜんぜん効かないのに』

『あれね、まず火傷の元になった火トカゲってそういうのかけても全然変わらないから耐性とかそういう成分が多い肝臓をすりつぶして火を通すと水っぽくなって扱いやすくなるんだ。それでそのあと冷やさなきゃいけないから氷ヤモリの乾燥さしたやつを粉にして団子みたいにまとめて、鎮静効果のある土蛇の鱗に塗って二、三日置いとくと湿布みたいに柔らかくなるからそれを更に『ごめんもういい』なんで!?』

『なんでも何も、うちの世界はヤモリだのなんだの使わないの!!』

『そうなの?わりと一般的な治療薬だよ?』

『え、ってことは今まで飲んでた薬も……』

『うん、えーっと一番効くのはやっぱり沼ガエ『っぎゃー言うな言うな聞きたくない!!』ええ…?』

『と、とにかく材料に関しては何も言わないしきかない!効果はあるんでしょ?』

『うん!軽傷の所なら結構治ってきたよ!今度また溶けた皮膚も削るけど、痛くないようにするからね!』

『あー…あれ凄いよね削ったあとも全然痛くないし。うちの世界だったら仰天ものだなー』

『ほんと!?』

『う?うん。だってあっちだともっと痛いし副作用もひどいし。そう思うとダンってすごいよ。あっちでも十分天才だと思う』

『じゃ、じゃあもっと頑張っていつか全部治すね!!約束する』

『ん、ありがとう。頑張れ未来のお医者さん』








『あれ?ひっさしぶりじゃん』

『おひさしぶりです。「  」様』

『堅っ苦しいなあ。人いないしもっとフランクでいいよ?』

『ふらんく…?』

『ああえっと、気楽に、ってこと』

『そうで……そうか、なら傷の具合は?』

『もー全然痛くない。見かけひどいけど、気にしてないよ。薬もちゃんと毎日飲んでるし』

『そうか、また新たに改良したんだ。飲みやすいように丸薬にした。保存もきくから数ヶ月分は大丈夫だろう』

『ありがと。そういえばさっきメイドの子がきゃあきゃあ言ってたぞ。よ、この男前!』

『まあ、嬉しいが今は医術を学ぶほうが楽しいな』

『こんの…っくそ、モテ男め!!余裕ぶったってカッコイイだけなんだからな!!』

『ははは』






『王、陣の管理は私にお任せを』

『確かにそなたは優秀な賢者だが、医師としても優秀だ。今お前が抜ければ……』

『ご安心を。公爵の座は養子に引き継ぎました。医療も今は未熟ですが私を超える逸材は何人も育っております』

『……そうか。ならもう何も言うことはない。賢者『ダハニアン』を召喚陣の管理者とし、かつその後継もまたその責を負うこととする。書面は後に届けさせる』

『ありがたき幸せ』

『……俺の、最大の後悔はきっと死ぬまで終わらん。……だから、あとは頼む』

『はい』







『……おまえ、こんなに背低かったけな』


『なあ、なんか、喋ろよ……いつも、ぎゃーぎゃー言って笑ってたじゃねぇか……』


『バカ野郎が…ぜんぶ、一人で持って行っちまいやがって……』


『……今まで、一人にして……一人で全部背負わせて、ごめん……っ……』







『『  』様から、伝言を承っております。……ありがとう、と』





 

読んでいただいてありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言]  これも真実。自分の為に誰かを利用することの一側面。  利用された彼女は酷く傷つき、そして、それ故に少年と出会う話ですなあ。  人間関係は持ちつ持たれつと言いますが、召喚に見合うだけのものを…
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