表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/40

◆エイミィ・バレンタイン

ーー ミスガル、遠い遠い昔のある日 ーー


「エイミィ、エイミィ起きなさい」

「ふぁあ~~~なに?もう朝?」


 エイミィの一番古い記憶はそこから始まる。その記憶が強烈すぎて、その前の記憶はけし飛んでいるのだ。


「そうよ。今日はお別れの日でしょう?」

「やだ!やだ!やだやだ!絶対やだなの!」

「そんなこと言わないで。仕方の無いことなのだから。ね」


 母親だろうか、エイミィは頭上からポタポタと落ちる温かい雫を感じたのを覚えている。


「なんで?ね~なんで姉様は行かなくてはならないの?」

「そ~いう決まりなんだよ。双子の姉妹は6歳の年にいずれかが魔王に捧げられなければならないというね。話しただろう?」

「そんなのイヤよ!」


 エイミィは手を振り払い駈け出した。姉のもとへ。

 双子と言っても二卵性双生児であり、あまりエイミィとは似ていない姉はベッドに寝ていた。病気がちだったからだ。それだから選ばれた。エイミィでなく、病弱な姉の方が選ばれたのだ。そう、エイミィの姉は生け贄として魔物に捧げる供物として選ばれたのだ。そんな大人の事情など知らないふたりは仲が良かった。大きくなって、姉の体が強くなったら一緒に湖のほとりを走り回ろうと誓い合っていた。

 しかし時は来る。必ず時は訪れるのだ。


「なに!一緒に行くだと?ダメだダメだダメだ!」


 エイミィは引き渡し場所である、村外れの洞窟まで付いていくといって聞かなかった。


「最後の最後の最後のお願いでも?もしダメだってんなら、私家出する!」


 頑固なエイミィの願いは、その一言で叶った。しかし、本当はエイミィの中には別の決意があったのだ。

 洞窟の前まで来ると、洞窟の奥底の闇から何者かが這い出してくる気配を感じた。


「さあ、今回はこの子だ」


 そういって大人がエイミィの姉の手を引こうとした。その時、エイミィはその前に身体を投げ出した。


「いいえ。私よ!私が行くわ!」

「な、何を言ってるんだ!決めたはずだろ?」

「そ、そうよエイミィ。わ、私が行くのよ……コホン、コホン」


 この時、エイミィはニカッと笑ってみせた。


「ね?おねえちゃんは早く病気を治してね!約束でしょ!」


 そう言うと、エイミィは姉は病弱であり、連れ去るのなら健康な自分の方がよいだろうと闇の者に向かって叫んだ。はたして、その要求は受け入れられることになる。


「エイミィ~!エイミィ!エイミィ~~~~~~!」


 姉の叫びは虚しく洞窟の暗闇にこだました。


 闇の者はなんだったのか?本当に魔王だったのか?

 いや、それは魔王の名を語った偽物だった。

 しかも、こともあろうか同じヒト族の悪党が魔王のフリをして子供をさらっていたのだ。連れ去られてはじめてエイミィはそのことを知った。その者達の会話から自分の運命を理解した。それまでその洞窟に消えていった子どもたちと同じように奴隷として売られていくというのだ。


「な、なんで?なんでなの?同じ人間じゃない!」


 その叫びにも悪党どもは笑うだけだった。

 しかし、その夜は違った。奇跡、そう呼ぶべきなのか。救い、そう思うべきなのか。連れ去り人の隠れ家を襲う影があった。悪党といっても、それは少数ではなく思いのほか大きな野党の軍だった。しかし、影はそれをものともせず、一瞬の間に悪党どもを壊滅させてしまう。その影こそが真の魔王であった。


「あなただ~れ?正義の味方?」

「フンッ 正義だって?人間どもが自分を正義だというのなら、俺は悪の味方だ」

「じゃあ私も悪になる!」


 それは魔王の戯れなのか、魔王はこの少女を連れて行った。

 はたしてエイミィは、本来、連れ去られるべきだった場所へと行ったのだ。

 ヒト族への恨みを胸に……



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ