◆ある日、地球にて
ーー 二週間ほど前の地球、日本、郊外のとある町 ーー
「ソウちゃ~~~ん」
花の高校生活一回目のクリスマスが何事も無く過ぎ、バレンタインのチョコ攻撃で腹を壊すこともなく、この世の春も俺の目の前を素通りしていった五月も終わりの頃。
万事いつもどおりの俺は家を出た途端、背後から気の抜けるような声を聞いた。
この声は間違いない……
「篝か……なんだ?」
俺はふりむきもしないでめんどくさそうに言った。
「あのねぇ~お願いがあるんだけどぉ~~~」
背後にパタパタと駆け寄る足音が聞こえる。それは俺の家の近所に昔から生息している、舌っ足らず系小娘、長瀬篝16歳だ。
「言いたいことは分かった」
「え!何も言ってないのに分かったの?スッゴーイ!愛のテレパシー?」
「だが断る!」
「へ?」
「いっしょに学校に行こう!だろ?どうせ」
「ピッンポーーーン!だけどブブブゥーーーー」
篝はホッペをふくらませたまま口を尖らせてみせた。
「な、なにがブブブゥーーーなんだよ!」
「正解は~~~~~一緒に腕を組んで学校に行こう!でしたぁ~~」
「い、いっしょじゃねーか!」
「ちがうもーん。ハズレたので従うように!」
言うが早いか飛びついてきて俺の腕をつかんで歩き出した。
「正解だったらどうしたつもりだ!」
「うへへへへ……」
「いや、いい!言わないでイイ!」
何を言い出すのか分かったもんじゃない。手も振り払おうとしたが、なかなかどうして力強い。というか必死で食らいついてきている。仕方が無いので腕を振り回しながら駅へと向かう。これがだいたい最近、いや二年になってからの俺の毎日の通学風景だった。
俺の名は桜田蒼汰。恋に恋する純情派高校生、17歳だ!恋がしたいのだったら篝はどうかって?たしかに、篝は別に性格が悪いわけでも、容姿が悪いわけでもない。実際、よく見れば、よく見ればだが、目はパッチリとした二重で適度にふくらんだちいさな唇も見ようによっては整っている。その証拠に男子からもわりと人気がある。そしてなぜだか、いつも俺にまとわりついてくる。一般的に考えれば脈アリというやつだ。しかし、しかしだ。さすがに子供の頃から家族ぐるみのつきあいで色々と知っていると、なかなかそういう気にはならないものだ。
俺が篝を避けるのには大きな理由がある。俺の大青春時代にとって、とてもとてもとても重要な問題だ。篝はひとつ年下だが、今年から俺と同じ高校に通っている。そして登校、下校時のみならず、休み時間まで俺にひっついてくるのだ。たとえそれが恋人だとしても……ウザいレベルだろう?そして案の定、オレの回りには女っ気が無い。いや、昔からそーだったんじゃね?とか、そんな話はどーでもいい。オレの言いたいのは未来についてだ。
「オレは彼女が欲しいんだよーーーー!」
やべ、思わず心の声を叫んでしまった。
「ふに?なになに?私に彼女さんになれって?」
篝は上目使いに目を大きく見開いてパチパチしてみせた。か、カワイイじゃねーか……が、負けない。
「おめーじゃねーし!」
少しキツメに言い放ってしまった。
「え?」
「あ、やべ。うそ、うそ、うそ、うそ~」
篝はその大きな瞳にみるみる涙を溢れさせた。こ、このままじゃヤバイ。
「う、う、ううううう~……うわぁ~んうわぁ~~~~~~~ん」
間に合わなかった……ちきしょう、篝のやつ、この大声で泣き出すのは子供の頃からちっとも変わってない。いや、子供の頃ならまだしも、学生服姿の男女がいて、女のほうが泣いてたら、それはすなわち、朝っぱらから別れ話してるバカップルに見えるだろう。そ、それは避けたい。いや、避けなければならない。我が青春のために!
「うそ、うそ、うそ!嘘じゃないけど嘘だよ~。は~い、篝ちゃんはいい子でしょ~。いっしょに学校に行こうね~」
「えっぐ えっぐ えっぐ じゃ、じゃあ腕組んでもいいの?」
「ああ、もちろん!いいよ~さあ泣き止んだら行こう!学校へ!」
「うん」
ああ~~もう!!!オレの青春がぁ~~~~




