◆ベティ・ジェイ
ダッ ッスーーーーーーン ンンンンンン……
俺は地面に叩きつけられた。サワサワと風の音がすると若草の匂いが漂ってきた。どうやら俺は草むらのなかに埋もれているらしい。すると、カタカタっと何か歯車のような音が遠ざかって行くのが聞こえた。
「篝!」
勢い良く起き上がると俺は、またその場に倒れてしまった。
薄れてゆく意識の中で斜めになった地面の向こうに馬車が去ってゆくのが見えた………
パチパチパチパチ……
つぎに、木が燃え落ちる音に俺は、目を覚ました。
「アイタタタ」
頭が割れるように痛い。ココはどこだろう?どこかの家の中のようだが……俺はたぶん手当をされて寝床に寝かされているようだった。意識は戻ったが、どうにも体が動かせない。
「イオールギャクマクラ」
「アー、デ、イルソクミグラデ?」
声がする。声がするが、何を言っているのかサッパリ分からない。誰かが近づいてきて、額に置かれたタオルを取り替えてくれた。ヒンヤリして気持ちがいい。そして、また気を失ってしまった…………
チュン チュン チュン チチチチチチ
やがてまた鳥の声と陽射しに目を覚ました。
今度はどうにか体が動くようだ。首を回すとそこには美しい女性の顔があった。
「キミが……手当してくれたの?」
「ん?んんんん~~!あ!気がついたのね!ヨカッタ~」
外人?……てか、なんで言葉がわかる?というか、ココはどこだろう?
いや…………俺はどうしたんだろう?……というか…………
「ちょっと貴方大丈夫?なんであんなトコに寝ていたの?あんなところに一晩いたら今頃、魍魎に喰われて骨も残らないわよ?って話しだし~それとも何者かに襲われたとか?でも傷はどこか高いところから落ちたんじゃないか?ってドクトルは言っていたけれど~あそこに高い建物なんか無いし……あ、ゴメンナサイ!喋りだすと止まらないのが悪い癖なのよねえ~。私の名前はベティ、ベティ・ジェイ、貴方は?」
「俺?俺の名前は……アテテテテ。えっと俺の名前は……」
名前を言おうとすると頭痛が激しくなり、思い出せない……名前を……自分の名前を。
「あ、いいのよ。いいのよ。無理しなくて、なんてったって三日は寝ていたんですもの」
「三日も!あ、キミが助けてくれたのか?……あ、ありがとう」
「気にしない、気にしない!さ、起きられるなら、栄養取らなくちゃね!食べられそ?」
「う、うん……」
俺は記憶の断片をかき集めようと必死だった。俺は、ココの住人ではない。そして、何かを探しにきた。それは間違いない。しかし、どこから何を探しにきたのか、となると皆目見当がつかない。とても大事なことのハズなのに……
「ええと……ベティさん」
「ベティでいいわよ」
俺は暖炉の前に置かれた木製のテーブルに座り、木製の皿、木製の食器で食事を食べながら尋ねた。
「じゃあ……ベ、ベティ。俺の倒れていた場所へ連れて行ってくれませんか?」
「え、ええ……イイわよ。でも……もう少し待って」
なぜかベティは少し困惑したようだった。
「なぜ?」
「アンジェリカ隊長に見つかると面倒だから」
「アンジェリカ?」
「え?知らないの?アンジェリカ様の名前を知らないなんて!貴方本当に頭の打ちどころがヤバイかも!」
「い、いやあ、ゴ、ゴメンなさい。どうやら記憶が曖昧なんです。分かることと、分からないことがチグハグというか、繋がらない感じなんです」
俺は、この世界の住人で無いことをバレてはイケナイ。そう直感していた。
「そう、そうよね。アンジェリカ様は偉大な方よ。生きた伝説。英雄と呼ばれているワ。大魔大戦で、あの大魔王、殲滅のルシファルを倒したと言われるほどの……」
魔王?その言葉が心の奥に重く引っかかった。
「だけど、アンジェリカ様は男嫌いと言われているのよ。女好きってワケではないのだけれど……たぶん……ね」
そこまで言うとベティは自分のカラダをさすった。
「あ、話が唐突でゴメンね。私もヴァルキューレ隊の隊員なのよ!」
「ヴァルキューレ隊?」
聞き返すと、明らかにベティはガッカリしたような表情を浮かべた。
「そ、そうよね……アンジェリカ様も分からないのですものね。ヴァルキューレ隊のコトなんて知るわけ無いわよネ」
「ご、ごめんなさい。教えてください」
「知りたい?」
「うん」
「本当に知りたい?」
「うん、なんだかとっても……」
知りたい、と言うよりも明らかにベティは話したそうだった。命の恩人の想いには応えねばなるまい。
ベティの話によると、ヴァルキューレ隊というのも先の大魔大戦時に作られた、対魔王軍専用の組織だったらしい。それは一部の女に弱い魔族のために、女だけで編成された部隊だという。実際に隊長のアンジェリカを筆頭に先の大戦では活躍し、アンジェリカの名前とともに英雄視された憧れの部隊なのだ。大戦が終わって部隊も解散となったのだが、つい先日、クイーン・リティシアの名のもと再び徴集をかけられたんだという。
「そうか。ベティは名誉あるヴァルキュリー隊の隊員というワケか」
「にへへへへ~そう、なるかなあ~」
どうやら喜んだらしい。だが、ベティはどちらかというとおっとりして見えるが、こんなんで戦士がつとまるのだろうか?間が抜けている、と思ったのはもうひとつ理由がある。アンジェリカ隊長に見つからないように、と気にしているくせに、この建物はその隊の宿舎だというのだ。そんなところに、どこの馬の骨か分からないような男を連れ込むなど、なんともアンバランスな行動だ。
そして、今日はそのアンジェリカ隊長による閲兵式があるというのだ。




