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◆背徳の予感

ーー 時はもどって、今…… ーー


「姫様!」

「あらアンジー。どうしたの?というか職務外は名前で呼んでっていってるじゃない」

「そ、それはちょっと……できません」

「もう!あなたまでそうやってワタクシを独りぼっちにしようというのね!」


 大戦以降、ともに身内を無くした二人は親しくなっていた。とくに、対等以上に話すことができる人物がいないリティシア姫はアンジェリカのことを唯一の友達と思い、親しみを持ってアンジーと呼ぶのだった。


「ちがいます!ちがいます……」


 リティシアはアンジェリカをじい~~~~っと見ている。


「ちがいますよ……リティシア」

「敬語!」

「ちがうよリティシア」


 アンジェリカはしぶしぶ言った。


「あははは!ありがとう!アンジー。ワタクシの気持ちを分かってくれるのは、アナタだけなのよ!あなたもそうでしょ?」

「う……ん」


 やはりアンジェリカはぎこちなかった。


「アンジーには本当に申し訳ないことをしたと、今でもそう思ってるし。だから、なんでも相談してよね!」

「そ、そのことは言わないでください」

「でもね~そのせいであなたは一生……」


 リティシアは少し悲しい顔をした。


「だから、それは言わない約束だろ!」


 アンジェリカは真っ赤になって怒りだした。

 リティシアが気にしていたのは、自分が魔王は処女に弱いと言ったせいでアンジェリカは決して外すことの出来ない戒めを自分のカラダにしてしまったということ。そのせいで、女として生きていく道を捨てざるを得なかったということだった。


「そう。ふたりだけの秘密……だから、ワタクシたちの間では隠し事はナシよ!で用は何?」

「う、うん。実は……」


 アンジェリカは街の外れの魔王センサーが作動しているようだとリティシアに伝えた。他の者は気づかないのか、気にしないのか、騒ぎ立てるものはなかったが。

 アンジェリカもリティシアのことを自分と似ていると思っていた。魔王によって親や兄弟を奪われ、女性として生きる道を閉ざされたのだから。だから、一番にリティシアに伝えに来たのだ。


「そ、それはどういうこと?」

「故障でなければ……」

「ま、魔王の復活?」

「の可能性もあるかと……」


 ふたりがそのことをどう考えていたのか分からない。しかし、ある種の高揚感が二人の間に漂った。望んではいけない、望んでも絶対に満たされることはない、と思っていた願望が、突然目の前に現れたのだ…………



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