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人型陸戦兵器「|武士《もののふ》」   作者: 荒井尾 麓
第一部 プロローグ 堅田攻防戦編
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第七話

 しばらくした後、今度は静かに扉は開かれ、楠さんと男は入ってくる。

 そして、楠さんはまた椅子に座り、男もさっきと同じようにドアに背をあずけて立っている。


「いや、待たせてしまったね。では話の続きをしようか」


 そう言って楠さんは話し出す。


「まず僕がここに来たのは、君の話を聞くためというのが、主な理由であることに変わりはないのだけれど、ホントのところは君の持つ能力を見込んでスカウトしに来た、という目的もあったんだよ」


 そう言うと楠さんはこちらをのぞき込むように言う。


「で、さっきの話を聞いた限り、君は俺の求める人材だと思ったからとりあえず合格ってことで。うちのラボにこない?」


 確かにこんな人物、がわざわざ事情を聴くためだけにこんなところに来るなんて、おかしいとは思ってはいたけど、この人は俺がスパイ容疑で尋問受けてるってわかってるのだろうか?

 というかさっきの話って、ロボットが好きか、どのくらい好きかしか話してなかったような気がするんだけど。


「いや、そんな急に言われても」

 

 俺は純粋に戸惑い、難色を示す。


「まあ、そりゃそうだ。だけど、君にとってもこれはそんなに悪い話ではないと思うけど?

 別に俺たちもただ働きしてもらおうとか、そんなブラックなことは言ってないよ。ちゃんと給料はだす。その上、君には嘱託扱いで働いてもらって、学校に通うことも認めよう。

 あ、心配しなくても学費は国が負担してくれるから」

「それは...」


 破格だ。かなりいい条件なんだろう。これは。だからこそ、きな臭い。


「君には良い条件だろう?タダで学校に行けて、その上安定した職も得られる。破格の条件だと思うけどなぁ」


 この人は俺が施設育ちってことを知ってる。そして、今の学校も奨学金で何とか行けてることも、バイトでプログラム関係の仕事をしてることも。

 その上で言ってるんだ、君には良い条件だろう?と。

 これは、この条件は罠なんだ。俺がスパイなら食いつく、そうでなくとも食いつかざるを得ない罠。でも、この話にはきっと裏があるんだ。


「ラボで働くって、プログラム関係の仕事をしろってことですか」

「うん、それもあるよ。ただ、それだけじゃなくて君にはテストパイロットとしても働いてもらおうと思ってる」

「それって、また、あの機体に乗って戦う可能性もあるってことですよね」

「...まぁ、無くは無いかなぁ。俺も実戦データは欲しいしねぇ」


 これは危険の伴う選択肢だ。楠さんのラボってことは軍直下の施設で働くってこと、それには小さくない危険が付きまとう。それは今回の襲撃事件からも予測できる。

 確かに破格の好条件だが、これは手に取らなくても大きな問題のない選択肢。もともとなくてもなんとかなっていたんだ。わざわざ危険を冒してまでも得る必要のないものだ。


「それなら、俺は―――」

「でもねえ、君には、関係のない話じゃないかなぁ?」


 楠先生は俺の言葉を途中で切って、自分の言葉を割り込んでくる。


「だってさぁ、君、もう、こっち側の人間でしょ?」

「なにを言って?」

「ははっ、わかんないかなぁ?君は俺ら軍人と同じなんだよ?」

「......?」


 俺は混乱する。

 俺が軍人と同じ?どういう意味だ。何をこの人は言っているんだ?


「それは演技なのかな、それとも意図的にそのことから意識を外しているのかな?

 どちらにしても、あえて俺の口から言わせてもらおうか。

 そう、だって君、もう戦闘も、殺人も経験しちゃってるじゃないか」


 その言葉を聞いた瞬間、俺の頭の中には一つの景色がフラッシュバックする。

 あの日、あの時、俺はあの『大蜘蛛』をあの機体の刀で両断した。その断面はまるで熱したナイフでバターを切り裂いたかのようで、でも俺が切り裂いたのは機体だけじゃなくて、その機体の胸部のコックピットには人が、人間が......。


「うっ...おうぇっっっ」


 その光景を思い出した瞬間、俺は耐え切れずに胃の中のものを残らず吐き出していた。


「そう、思い出したようだね。君は人を少なくとも一人は殺している」

「で、でも!あれは仕方がなく!」


 俺は必死に言い訳を紡ごうとする。

 だが、目の前の人物はそれを許してくれないようだった。


「果たしてそうかな?君には逃亡の選択肢もあったはずだ。なのに君は戦闘の選択肢を取った。そうだろう?」


 楠さんはいやらしく笑いながら言う。


「っつ!...でも!」

「そうだねぇ、それは決して間違いであったとは言えない。追撃される可能性もあったわけだし、何より君はその時は必死だっただろうしねぇ」

「そ、そうだ!俺は、ただ、必死で...」


 俺は楠さんの口から洩れた同情的な言葉に縋りつくように言葉を続けようとする。


「だろうねぇ、でもさぁ、君、わかってる?たとえ、仕方がなかったとしても、君が人殺しをしたってことに変わりはないんだよ?」

「そ、それは」

「まぁ、可哀想ではあるけどねぇ。客観的には君は被害者だ。人を殺したことに関しても、その瞬間は興奮状態であまり何も感じなかったんだろうし、その後落ち着いてからは、自分の精神的な安定のために無意識に考えることを避けていたんだろうね」


 そこで楠さんは一拍、間を置き、そしてまた語りだす。


「でもねぇ、世間はどう考え、どう捉えるだろうね。極論、君が人殺しだっていうことには変わりないからねぇ。この高度に情報化された社会で安寧無事な生活をおくれるかなぁ?」


 俺の頭の中で楠先生の言葉がぐるぐると回り、反響する。

 そして、急に後ろから両肩を鷲掴みにされビクっとなる。


「でも、これを解決する方法がひとぉーつある。なにかは、わかるかな?

 そう、君が軍人であったならば、あれは国防のための必要なことだった、職務の一環だったといえるんだよ?君は職務として、仕方がなく殺すしかなかったんだ。そうだろう?」


 楠先生は口を俺の耳元に持ってきて、囁くように言う。

 これは提案でも、罠でもなかったんだ。そう、これはただの、脅迫。俺に選択肢なんて初めから用意されていなかったんだ。


「......わかりました。その話、受けます」


 俺にはこの時こう言うしかなかった。

 俺の視界には楠さんの顔は半分しか見えていなかったけど、その顔にははっきりとニヤァといやらしく自分の計画通りに事が運んだことに対する喜びの感情が浮かんでいた。


「よぉぉうこそぉ、こちら側へ。斎藤祐司君、君を歓迎するよぉ」


     *********



 2074年6月1日

 俺は身の回りのものをまとめ、住んでいた施設を出てきて、日本海側にある港町の一つに来ていた。

 ここにはフェリー乗り場があり、とある島に向けての往復便に乗るために来ていた。


「ってか、学校にも通っていいって言ってはいたけど、学校は指定されるのかよ」


 俺はあのトラウマに残りそうな尋問のあと種々様々な事務処理を受けて晴れて軍所属の嘱託兵になった。正式には、日本自衛軍兵器開発部門特別技術顧問付き特殊任務官だそうだ。

 つまりはあの楠さんの直属の部下で、プログラム開発に加わったり、テストパイロットとして自分の書いたプログラムでちゃんと動くかを確認しろって話らしい。

 そして、俺の新しい職場と学校はこの海の先にある。俺の大嫌いな歴史の教科書に何度となく登場する島、対馬なのであった。

 ついでに言うと、俺の通う学校はそこにある、国内に九校しかない特殊な高校。

 『国立対馬防衛高等学校特殊陸戦兵器操縦科』

 これが、これから俺の通う学校だった。

 というか、技術職の方じゃなくてパイロットのほうなのかよ。


「仕方がない、行くか」


 俺は新たな一歩を踏み出す。





 『第一部 プロローグ 堅田攻防戦編』 終了

ここまでが、導入部となっています。

次回から第二部開幕です。

ちなみに第何部とか思い付きでつけているので、次回も第二部が終わるころに章のタイトルがつくと思いますので、どうかご容赦を。

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