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平松敬と奇妙な保護者達

わっしょい

作者: 豆板醤

 俺は今、新しい赴任先である小学校へ来ている。十日程前から来ているが、生徒が登校してくるのは今日からだ。

 俺は一年生を任された。一番幼いため一番大変だろうと思う。まあ頑張ろうとは思うが。


 実は俺は小学生以下の子供が好きではない。だからといって嫌いではない。躾のなってないガキは嫌いだがな。


 そして目の前には20人の子供が座っている。俺のほうを見ている生徒数名、キョロキョロしている生徒数名、近くの生徒と会話している生徒多数、奇声をあげているガキ数名。


「キエエエエエ!!!!」

 果たして何処の星の言葉なのかと思う。こいつらには魑魅魍魎という語が相応しいのではないかと思う。


「皆さん、静かにしましょうね」

 ここまで読んで頂いて分かる通り、俺は内心ではガキ黙れと思っているが、それを表情と声色に出さないようにする位は出来る。

 まして小学一年生に本音をぶつければ悪魔の化身、モンスターペアレンツによる攻撃が始まり、成す術もなく討たれるに違いがない。


「しぇんしぇい!早くあしょびたい!」

 お、おう。こっちだって早くおさらばしたいよ。

「それはすることが終わってからだよ?」

 我ながらウィズマザーに出てくるお兄さん的な口調で言えたと思う。

「うぇえええええええん!!!!」


 出ましたガキの必殺技、『泣き』。

「やること終わったら一杯遊べるからね?我慢しよ?」

 と言ったら泣き止んだ。ちょろいぜ。


 というか何で俺がガキの機嫌取りせなあかんねん。





「では、自己紹介をしましょう。まずは先生から。先生の名前は、ひらまつ けい。漢字ではこう書きます」

 俺は黒板に平松敬と書いた。

「じゃあ次はあいうえお順で明石麻美ちゃん」

「はい!私はあかしあさみって言います!よろしく!」

「よろしくね。じゃあ次は伊藤孝雄くん」


 という具合に自己紹介を進めていく。

「じゃあ次は坂東らく君かな」

「うぇえええええええん!」

 何故泣きだした。まさか坂東楽と書いてばんどうらくじゃないとか?

「ああ、ごめんね、がくくん」

「うぇえええええええええん!!」

 はいもっと泣いております。お涙好評垂れ流し中。


「名前間違えちゃった?ならばんどう君の名前教えてくれない?」

「うぇえええええええええええええええええん!!!!」

 ああもう、もどかしい。ほって置くか。

「じゃあばんどう君の自己紹介はちょっと後にしましょう。皆で楽しみにしておくからね?」


 あ、これ励ましになってねえよ。いやでもまあこれ以上大きな声で泣き出してもないしいいだろう。

「じゃあ次は船越英一君」

「えいいちです」

 くそ。警戒し過ぎて、ひでかずと読んでしまった。

「ごめんね。じゃあ英一君、どうぞ」




「それでは今日の学校はこれで終わり。帰っていいよ」

 俺がそう言うと殆どの生徒が走って帰って行った。


 奇声をあげながら。



 しかし一人、帰らない生徒が居る。

「ばんどう君?早く帰らないとお母さんが心配しちゃうよ?」

 そう言ってもまだ泣きつづける。

 誰か、誰か攻略本をくれ!スーファミ世代には最近のゲームの謎解きが苦手なんだよ!



 苛々してきたので俺は車で坂東の家に送ることにした。


 ピンポーン。

「はーい、どなたでしょうかー?」

「雛形小学校の教師の平松と申します。お子様が泣いてしまったのでお送りさせて頂きました」

「分かりましたー。少々お待ちください」


 10分経過。

 うん長いよー?どうしよっかなー?どうしちゃおっかなー?


 などと考えていると母親らしき人物が出てきた。

「一々私の息子を届けてもらってすみませんねー」

 届けてやったと言うのにその態度は何だね。何か気に触ることしたか?


 そして母親は急に声色を変え、で、と続ける。

「何故私の可愛い息子が泣いてるのですか?」

 親馬鹿なのがひたすらムカつく。というよりは気持ちが悪い。


「申し訳ありません。自己紹介でばんどう君の番になった時に急に泣いてしまいまして」

「は?」

 え、何。ピキってるやつやで。怒るまでの過程のあなたの頭の中を教えろ。

「その、何か?」

「何か?じゃないでしょう!ばんどうじゃないです!ばんどうではなくて、さかひがしです」


 分かるわけねえよ!まず学校側に言っておくべきなのではないか。まあ学校が俺に言い忘れていた可能性あるが。

「も、申し訳ございません!今後は気をつけます。そして、今日坂東君が泣いたのもそのせいである可能性が高いであろうと思う節があります。本当に申し訳ございませんでした」

「まあ、いいでしょう。今まで間違えられたことも幾つかありますし。しかし、あなたのような学のない人に我が子を預けるのは気が引けます。貴方には教師の職を辞めていただきたい」


 余りの馬鹿らしさに呆れた。俺は内心の呆れを顔に出さないように注意する。その時。

「ママ、みよじだけじゃないよ。僕のことを、がくくんとか、らくくんとか呼んだもん」

 と、車内で泣いていた筈の息子坂東が涙目で言う。そして馬鹿親を見る。


 激昂。脳裏に浮かんだのはその言葉だった。


 顔は真っ赤になり膨れ上がっている。視線は俺を突き刺し、拳は握りしめられている。殺意すら感じる怒り様。

「すぐに学校へ連絡して貴方には辞めてもらいます!」

 そう言うと楽を引っ張り家の中に帰って行った。


「はあ」

 車の中で大きな溜息をつき、自宅に向かって発車させた。




 らくでもなく、がくでもない。果たして楽は何と読むのか。明日他の教師に訊くか。



 翌日。

 気は咎めたが、俺は学校に行った。そして生徒が登校してくるまでの時間。他の教師に訊いたがやはり、がく、またはらくしか出てこなかった。

 この学校は事務が雑で、読み仮名も書いていないので坂東達にしか分からないだろう。


 そしてやってきた最後の一人、他の教師からはDQNネームキラーと呼ばれる教師に訊いた。

「楽をそのまま読むのではなく、楽しい物の名前が入るかも知れんぞ」

 その助言をもとに暫く考える。その時職員室のドアが開かれた。


「平松先生はおられますか!」

 そこには、坂東親が立っていた。


「平松先生ならそこに」

 先輩の先生がそういうと、坂東親は許可も貰わずにドシドシと職員室の奥に居る俺のところに歩いてくる。


「何故辞めていないのです!」

 坂東は既に校長か教頭に電話で頼んでいるのだろうが、馬鹿馬鹿しくて上で処理したのだろう。

 激昂する坂東を教頭が宥める。

「まあまあ、ばんどうさん。一度落ち着いて話し合ってみてはいかがです?」

 あ、教頭死んだな。それと、話し合う価値は無い。


 案の定教頭は坂東に怒鳴られている。


 ある程度教頭に怒鳴ると、坂東はまたこちらを見た。

「ばんどうでは飽き足らず、がくだとか、らくだとか。私のわっしょい君を泣かせる者は全員死刑です!」


 わっしょいという名前に泣いていることも考えられるが確証が無いので一旦スルー。まずはわっしょいという名前について考察しよう。

 楽しい物→祭り→神輿→わっしょいという考えなのだろう。恐ろしい程にセンスを感じられない名前だ。逆にセンスを全く感じさせない名づけに敬意を表したい。


「は?」

 さすがにブチギレたらしく同僚がそう言う。

 そういうと、坂東親の顔が膨らんでいく。そう見える。破裂するんじゃなかろうか。

「キエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!」

 そう言って坂東親はパタリと倒れた。

「うおおおおおおおおおおお!!!! 万歳!!! 万歳!!!」

 職員室からは15分間叫びが聞こえた。



一箇所、雛形中学校と表記していた所を修正しました。

ご指摘感謝致します。

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったです。 が、居住地にもよるのでしょうが、たぶん麻美ちゃんとか孝雄くんとか英一くんなんて普通の名前はほぼ絶滅危惧種なのです。 1年から6年までの児童約400名中「◯子」みたいな子のつ…
[一言] 読ませていただきました。 とにかく主人公のツッコミが面白かったです! 教師って大変ですよね~。 細かいことですけど、1か所、雛形中学校って書いてあったような。 ありがとうございました。
2014/04/23 20:36 退会済み
管理
[良い点] 分かりやすい読めるものでした [一言] もしよかったら、二階堂刹那の小説よんでください
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