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星に願いを〜寄居町

この物語は、埼玉県寄居町の星空から生まれました。


中間平展望台の夜景、荒川の河原、鉢形城の夜桜。

この町には、空を見上げたくなる場所がたくさんあります。


もし、そんな場所で

「宇宙へ行きたい」と願った少女がいたら――


その夢は、どんな人生を連れてくるのでしょうか。


これは、宇宙飛行士を目指したひとりの女性と、

彼女の心の中にずっと残り続けた「約束」の物語です。

【ペルソナ】

・聖夜(せいや:25歳/CV:中野さいま)=2026年5歳だった少女が宇宙飛行士を目指す

・王子さま(ぼく:CV:堀籠沙耶)=聖夜が夢の中で出会う不思議な少年


【中間平の夜景 (埼玉県大里郡寄居町) - こよなく夜景を愛する人へ】

https://yakei.jp/japan/spot.php?i=chugen



【シーン1/中間平展望台/2026年冬/5歳の聖夜】


■SE/冬の風の音


「アタシ、あのお星様まで、行きたい!」


埼玉県寄居町の中間平ちゅうげんだいら展望デッキ。

パパと一緒に天体望遠鏡を覗きながら、5歳の私が声をあげる。

天空の宝石箱をひっくり返したようなふたご座流星群。

その背景にひときわ輝く一等星。


「パパ、あのお星様なあに?」


シリウスだよ、と言って

パパは水筒からミルクティーを注ぎ、私の前へ。


「ありがとう」

「ねえ、あれ、持ってきた?」


パパがニッコリ微笑むと、ポケットから丸いみかんが現れる。


「やった!」


ひと皮剥けば、甘酸っぱい柑橘の香りが広がっていく。

顔をくしゃくしゃにしてほおばる私。


夜空の星たちと同じくらい、少女の瞳は煌めいていた。


その日の夜。

不思議な夢を見た。


「ねえ、ボクのことが見える?」


自分と同じくらいの年、同じくらいの背格好をした少年。

宇宙服?みたいな服を着てる。


「だあれ?」


「いつかボクのところでおいでよ」


「うん、いいよ」


「約束だよ」


「うん、約束」


少年の小指が私の小指とつながる。

窓の外には、冬の大三角が輝きを放っていた。



【シーン2/鉢形城/2039年春/13歳の聖夜】


■SE/春の虫の声


「すごい!

桜って流星群みたい」


2039年、13歳の春。

私は、鉢形城跡はちがたじょうあとの夜桜を見上げていた。


樹齢150年を超えるエドヒガンザクラ「氏邦桜うじくにざくら」。

淡い桜色の花びらが夜風に誘われ、私の頬をかすめて舞い落ちる。


私の瞳に映っていたのは、桜のはるか上空、満天の星たち。


「パパ、見える?

あそこ、いっかくじゅう座だよ」


”そっちか”

といった笑顔で、パパが微笑む。


いいの。

どうせ私、星座ヲタクなんだから。

今からちょっと説明っぽい話をするね。


いっかくじゅう座は、冬の大三角の中にあるの。

4等星以下の暗い星ばかりだから、

見つけるのは難しいって言われてる。

寄居のように、空気が澄んでて、

人工の灯りが少ないとこじゃないと見えない。


それにほら、冬の星座だから、

春の訪れとともに沈む時間が早まっていくんだ。


私のお気に入りは、いっかくじゅう座の中にある、ばら星雲。

まるでばらの花が夜空に咲いているみたい。

地上の桜と夜空のばら。

ロマンティックでしょ。


神話の通り、いっかくじゅう、ユニコーンは

心のきれいな少女にしか見えない。


私もいつか必ず見つけるわ!



【シーン3/かわせみ河原/2046年春/20歳の聖夜】


■SE/川の流れと夏の虫の声


「見て、パパ。

天の川がキレイ!」



2046年、20歳の夏。

荒川河川敷のかわせみ河原でソロキャンプ。

見上げる夜空には、

ダイヤモンドを散りばめたような天の川が広がっている。


高校を卒業したあと、私はアメリカの工学系大学へ留学した。

目的は、アメリカの市民権をとることと、修士号の学歴。

それが、NASA宇宙飛行士選抜の必須条件。


2年ぶりに寄居に帰ってきたのは、実家の片付け。

いろいろあって、いまは私ひとりだから。


でも、それよりなにより、この星空が見たかった。


そう、私の原点。


ヒューストンの湿った風とは違って、

どこまでも清々しく澄んだ川風。


このあと、花火を見てからアメリカに戻るつもり。

寄居玉淀水天宮祭 (よりい/たまよど/すいてんぐうさい)花火大会。

水神様にお願いするの。


「私を宇宙へ連れてってください!」って。


秩父の稜線から立ち上る銀河の淡い光が

静かな水面に溶け込んでいく。


右手を空へ伸ばしてみる。

指先が星に届きそうな感覚。


目を閉じると

川面を渡る風が、私の髪を揺らしていった。



【シーン4/中間平展望台/2054年冬/28歳の聖夜】※少々説明多し


■SE/冬の風の音


「パパ、ただいま。

帰ってきたよ、寄居に。

やることは全部やった。後悔はない。

あとは結果を待つだけ!」



2054年、28歳の冬。

帰国して真っ先に向かったのは、中間平展望台。


23年前、パパと見上げた星空。

それは星の一生に比べたら、瞬きするほどの時間だけど。


見上げる夜空には、あの日と同じ冬の大三角。

そして、いっかくじゅう座。


よかった。

私、まだ見えてる。


大学院を卒業して修士号を取得した私は

アメリカの航空宇宙・防衛産業へ就職した。

そこはプライム・コントラクター。

NASAと直接仕事をする企業だ。


ここで三年間の実務経験を積んで初めて、

宇宙飛行士選抜の公募・選考プロセスに応募できる。


「アルテミス計画」に参加して、

日本人宇宙飛行士が月へ行く、という道もあったのだけれど。

そっちはもう火星探査へと進んでいる。


私は、あえて厳しい道を選んだ。


あの日見た、あの星へ行きたい。


まだ兆しすら見えていない恒星間飛行。

反物質か。磁気プラズマか。


届かぬ願いを冷たく突き放すように、シリウスはただ青白く鋭い光を放っていた。



【エピローグ】


「大切なものは見つかった?」


え?


「ほら、いつか見つけるって言ってたじゃないか」


ここは・・・・・

夢?


ああ、そうだ。

昔見たあの夢。


目の前には、宇宙服を着た少年・・・


「きみはすごく頑張ってたでしょ」


そうよ。だって私・・・

宇宙飛行士になるために、

市民権、修士号、キャリア・・ぜんぶ取得して・・・

一生懸命成果を残してきたんだもの。


「じゃあもう、見つかったんだね」


ううん。まだ。まだよ。

だって、結果はこれから。


それに、もし宇宙飛行士に選ばれたって、

恒星間飛行なんてずっとずっと先の話。

私が生きてるうちに実現することなんて・・


「よかった。見つけられて」


まだだってば。

私の夢は、シリウスに行くことなんだもの。


「きみの夢って、シリウスなの?」


そうよ。だってあのとき約束したんだから。


「じゃあもうかなってる」


え?どうして?


「ボクはもうここにいるよ」


あ・・


「それにね。

本当に大切なものって、目には見えないんだよ」


そんな・・・


「手を出して」


え?なんで?


「いいから」


そう言って、私の手のひらに彼がのせたのは・・・


みかん!


「それでしょ」


パパ!



そうか。


私がずっと探していたのは、これだったんだ。


手のひらに残った、かすかな柑橘の香りと、ぬくもり。


これがあったから、

何度も空を見上げて、

何度も立ち止まって、

それでも歩いてこられた。


大切なものは、

目には見えない。

夢を追い続ける人生には、

長い時間がかかります。


時には遠回りに見えたり、

届かない願いのように思えたりすることもあるでしょう。


それでも人が前へ進み続けるのは、

きっと、心のどこかに忘れられない記憶があるからなのだと思います。


寒い夜の星空。

差し出された温かい飲み物。

手のひらにのせられた小さなみかん。


そんな何気ない瞬間が、

人生をずっと支え続けることがあります。


この物語を読んでくださった皆さんにも、

きっとそんな「見えない大切なもの」があるはずです。


もしよかったら、

今夜、少しだけ空を見上げてみてください。

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