成年後見人
三田清史郎は一人っ子だ。
結婚後なかなか子宝に授からなかった両親の元に、コウノトリからの最高の贈り物……。
それが清史郎だった。
両親の愛を一身に受けて、清史郎は成人し、そして菫に出逢った。
菫に夢中になった清史郎を両親は、目を細めて見ていた。
我が子の結婚がこれほど幸せを運んでくれるとは思わなかった両親だった。
もう一人愛らしい娘が増えたようで嬉しかった。
菫が「お義父さん。」「お義母さん。」と呼んでくれるだけで涙が出るほど嬉しかった。
嫌われたくない嫁だから、両親は距離を置いた。
「お父さん、こっちから連絡したら駄目よ。」
「分かってる。」
「菫さんから声を掛けて貰ってからよ。」
「分かってるから。」
「あぁ……それから……。」
「分かってる!」
「まだ、何も言ってないわ。」
「菫さんに頼って貰えたら、その時だけ菫さんが望むことだけする!
だろう?」
「ええ! その通りよ。覚えてくれてたのね。」
「毎日言われたら覚えるよ。
……それに、俺の母さんがお前を虐めたから……。
母さんがしたことは、したら駄目なことだと分かってる。」
「お父さん……ありがとう。」
「う……褒められるようなこと出来なかったな。
もっと守ってあげてたら……後悔しかない。」
「お父さん………嬉しいわ。その時にしてもらえてたら満点だったわ。」
「…………済まない。」
菫の両親は弁護士に相談した。
その結果を清史郎の両親は聞いた。
「先ず、成年後見人が必要だそうです。」
「そうでしょうな。
それは、こちらで手続きします。
誰にお願いするかも、こちらに任せて頂きますか?」
「ありがとうございます。
どうかお願いします。
……ただ………。」
「ただ?」
「年数が必要なようです。」
「年数?」
「看病の年数、介護の年数です。
認められた過去の判例は、4年だそうです。」
「清史郎を4年も看なければいけないのですか?
治る見込みが無いのに?
万が一、意識がほんの少し回復しても、元通りにはならないのに?」
「はい。」
「その間に、菫さんを支えて下さる方が現れても不倫になってしまうんですか?」
「そうですね。」
「そんな………それじゃあ菫さんの人生が………。
泣くな。母さん………。」
「済みません。」
「いいえ、菫を大事に想って下さって……ありがとうございます。」
「兎に角、成年後見人の選出を致します。」
「お願いします。決まられましたら、いずれ……どのくらい先になるか分かりませ
んが、成年後見人を相手に離婚の裁判を致します。」
「裁判!」
「母さん、落ち着きなさい。」
「済みません。」
「承知しました。」
「成年後見人につきましては、私から菫に話します。」
「そうして頂けると助かります。
会社は? 死亡退職扱いと同等の退職金だと聞きました。」
「はい。受け取ったようです。」
「そうですか……。」
「医療費……高額医療ですよね。」
「はい。
退職時に1年間だけ会社の健康保険を延長して貰ったそうです。」
「その後は、国民健康保険ですか?」
「はい。」
清史郎の父は思った。
⦅まだ、清史郎は生きている。生きているんだ!
だが、最早、人らしい……人間らしい日を過ごせない。
寝たきりで、意識も………人間としての暮らしを営めない。
そういう意味では、死んだも同然かもしれない。
親は年老いても子の為に頑張れる。
否、頑張る!
だが、妻は?
清史郎の妻の人生を壊してしまう。
出来得る限り早期に離婚を………。
……………清史郎、許せよ。
お前のことは、父さんが死ぬまで守ってやる。
だから……菫さんを解放してやってくれ。
なぁ、そうしよう……清史郎……せいしろう……。⦆
清史郎が倒れてから、3ヶ月が経っていた。




