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第三話 時は戻って告白後

「って経緯で一目惚れしちゃいまして」

「エピソードうっす!!!最後の方、よく分かんないのと仲良くうんこ掃除してたじゃん!?」

「一目惚れってそんなもんじゃないですか?」


 アリヨマさんってうんこって気軽に言うタイプなんだ。親近感湧くなぁ。ミステリアスな魅力振り撒いていたあの時よりも、もっとずっと好きになっちゃいそうだ。

 いやいや、それよりも知りたいのは告白の結果である。見た感じ彼女の反応は悪く無いと思う。だって顔は耳まで真っ赤だし!ぱっちりお目目は潤んでて、眉は困った八の字だもん。


「で!その反応はおっけーですか!?その顔、その目、その表情!おっけーって事で良いですか!?」

「な、何言ってるのよ!?」

「お付き合いさせて頂けるんでしょうか!」

「い、意味わかんない意味わかんない!」

「ダ、ダメって事ですか!オレ、フラれたって事ですか!?」


 どっちなんだ!?いったいどっちなんだ!?もうドキドキが止まらない。彼女の一言がオレの明日を大きく左右するのだから。

 しばらくあたふたしていたアリヨマさんが一つ大きく深呼吸をすると、たまにこちらをチラ見しながら何やら考え込み始めた。もしやオレを採点しているのか。念の為、考えつく限りの最高にカッコいいポーズをしておこう。


「…うむむ。話は聞いて無さそうだったし、アホっぽいし、ここは慈悲深く見逃して…」

「え?アリヨマさんが実はノスフェラトゥで吸血鬼って話ですか?」

「びっくりした!ちゃんと聞いてた!」

 

 人の話はちゃんと聞きなさいと言うのは深夜徘徊の末に『クソデカミンミンゼミのダンジョン』でメスのセミとワンナイト過ごしたお爺ちゃんの名言である。そんなオレが人の話を、それも惚れた相手の話を聞いていない筈が無い。

 クアッと八重歯輝く可愛いお口をあんぐり開けたノスフェラトゥで吸血鬼のアリヨマさん。びっくりした表情も実に可愛い限りだ。

 

 しかし、驚いていたのも束の間のこと。彼女はあの時見た様な冷たくてミステリアスな雰囲気と共に、神妙な面持ちになるとポツリと一言。


「なら死んでもらうしか無いわね…」

「え、それって…


 どしゅっ


「え?」


 何かがぶつかった様な感触。

 同時に胸から背中までを細長く冷たいものが突き抜けた。なんだろ?とんでもなくキュンとしちゃったのかな?


 あれ?


 気がついたらアリヨマさんがいない。銀の彼女を探そうとして気がついた。オレのすぐ真下で、アリヨマさんが深く腰を落としていたのだ。右足を大きく前に出し、反対に左足を後ろに引く、そんな体勢だ。


「うわっ!そんな大胆な…あれ?」


 どうしてかアリヨマさんの両手には剣が握られていた。確かに探索士シーカーには武器の所持が認められている。まぁ、人に向けちゃダメなんだけど。

 見ると彼女の持つ剣は、持ち手の部分に植物の蔦をあしらった装飾が付いていた。美しいアリヨマさんにピッタリの美しい剣だ。刀身はと言うと残念ながら見えなかった。

 だってオレの胸の中心におもくそにめり込んでるし。根元まで。ん?むっちゃ刺さってますやん。


「ぎ、ぎゃあああああああああ!!!!!」


 熱い熱い熱い熱い痛い痛い痛い痛い痛いあ…熱に魘され、痛みに脳が支配される中、彼女がオレを見つめていた。

 その面持ちは、なんというか今にも泣き出してしまいそうな子どもの様で、オレよりもずっと苦しそうで…彼女の口が僅かに動く。


「っごめんね」

「いいよ」

「…ん?」


 誠意を持って謝られたら許してあげるのが漢である。これは昔、うちで飼っていた犬みたいなおっさんの名言である。

 いやはや、びっくりしたなぁもう。はいはい回帰回帰。穴の空いた胸も突き抜けた背中も服に開いた穴も溢れ出た血液も元通りっと…あ、ちょっと剣抜いて貰ってもいいですか?治癒と破壊が同時に起きてて拷問みたいになってるんで。

 おっ、刀身には花の装飾ですか!いや、凝ってるなぁ。


「この花ってラフレシアとかですか?」

「百合だよ!目ぇ腐ってんのか!…ってえ!?なに!?何が起きたの今!」

「あ、そんなことよりさっきのセリフなんですけど…!それは死が二人を分つまで末永くって話ですか!?」

「え!なに!?ホントに意味わかんない…!」


 なんだかドン引きされている。「え、刺さったよね?」とか言いながら不思議そうな表情で剣先を見つめている。オレは早く告白の結果が聞きたいのに。たっぷり焦らしてくれるなぁ。


「アリヨマさ


 どすっ


「え?」


 アリヨマさんに声を掛けようとしたら、またもや視界から消失した。

 同時に鋭くて冷たい何かがオレを突き抜ける感触が…。なんだかお尻がキュンキュンする。なんだろ。お尻にヘビでも入ってきたかな?

 後ろに振り向こうとして気がついた。アリヨマさんはオレのすぐ背後でしゃがみ込んでいた。彼女の手に握られた刀剣はオレの肛門から脳天までを真っ直ぐと突き抜けて…


「ぎ、ぎゃあ「っごめんね」いいよ」


 誠意を持って謝られたら許してやるのが云々で、彼女の面持ちが泣き出しそうな子どもみたいでかくかくしかじか。


「え!?やっぱり気のせいじゃなかったの!?」


 回帰回帰しながらパパパっとお尻から頭にかけてをささっと直す。そんなオレの姿をまるで化け物でも見たみたいな顔で見つめているのはアリヨマさんだ。


「お味噌くん…。キミ、もしかして私と同じノスフェラトゥだったりする?」

「どう見ても人間です。17歳です。趣味はバイトと…」

「そこまで聞いてない!というかニンゲンだったらそんな簡単にキズは治らないでしょ!」

「あー、それはオレのスキルのおかげです。オレのスキル、直す系なんで」

「スキル…。いやいやいや!スキルと言ったらなんでも信じて貰えると思ったら大間違いだから!心臓を破られて、脳を破壊される程の負傷から後遺症無く回復するなんて、そんな強大なスキルある筈無い!」

「でも、回復してるのは事実ですし…」


「それが不思議でならないのよね」、と顎に手を当て「うむむ」と唸るアリヨマさん。ノスフェラトゥでも分からない事はあるらしい。なら一緒に解決していこうとか言えたらカッコいいかもしれない。


「死なないと来たら困ったわね…」


 アリヨマさんは困った様で、それでいてどこか安心した面持ちを浮かべている。オレが死なない事で喜んでもらえた様なら何よりだ。

 しかし、腕組みしながらまたまた考え込み始めてしまった。微動だにしない。

 …バイトの休憩時間がそろそろ危ういのだけれど。出来たら今のうちに答えを聞きたい。ドキドキともやもやが混在する心境でお仕事なんか手に付かないよ。

 時計を気にしながら、しばらく待っていると彼女は意を決した様に、ふぅと一息吐いてこちらに向き直った。


 …お。つ、ついに来たか!?


 ごくりと生唾を飲み込み彼女の言葉を待つ。…不安と緊張でクラクラしてくるぞ。

 アリヨマさんがオレの目を真っ直ぐに見つめながら、自身の胸に手を当てた。小さなお口が開かれる。


 …く、来る!


「残念だけど私は吸血鬼よ!」

「血を吸いたいって事ですか!?大丈夫です!オレ、性癖には理解ありますから!」

「性癖扱いすんな!…わ、私はノスフェラトゥなのよ!」

「大丈夫っす!オレ、外国人とかでも全然気にしませんから!」

「人種とかってレベルじゃないから!?…わ、私は貴方より300年は長生きしてるの!」

「大丈夫ですっ!!!オレ、年齢差とか全然気にしない派なんで!むしろ大歓迎です!」

「300歳よ!?年上で済む話なの!?……わ、わ、私は伝説級探索士レジェンドシーカーでぇ!」

「大丈夫です!オレ、共働きでも専業主夫でも構いません!」

「もう結婚前提まで話が進んでる!?」


 言葉を交わす度にどんどんアリヨマさんの顔が赤く熱っていく。こ、これは間違いない…!脈アリだ!じょく 溝味噌どぶみそのバラ色人生が今、幕を開けるのだ…!


「…え、えーーっと、わ、私、じ、実は彼氏いるのっ!!!」

「ガ、ガーーーーーーーン!!!!!!!」


 1週間ぶりに雷に打たれた様な衝撃が全身を走った。立ってられなくなったオレは、膝から地面に崩れ落ちる。


 お、終わった…。


 流石に彼氏持ちさんを横取りする様なゲスな真似はオレには出来ない。名前的には寝取りとかしてそう?怒るぞ?

 そうか…。よく考えてみたらそうだよな。こんな素敵な人にお相手がいない筈が無いよなぁ。あぁ、オレが後300年早く生まれてたら…。


 あり得ない事を考えながら、ゾンビさながらにふらふらと立ち上がると、物惜しそうにアリヨマさんへと振り返る。彼女は腕組みしながらバツの悪そうな表情を浮かべていた。


「うっ…」


 あ、目を逸らされた。

 う、うう…。じょく 溝味噌どぶみそはクールに去るぜ…。


「う、うう…ぐすっ、そ、それじゃ、オレ、バイト休憩終わりなんで…彼氏さんとお幸せに………」


 あぁ、今日はもう仕事が手につかないかも。アリヨマさんの視線を背中に感じながら、しょんぼりしたオレはお仕事に戻るのだ。

 こうしてオレ、じょく 溝味噌どぶみそは灰色の青春を送りましたとさ。めでたくなし。めでたくなし。


 〜完〜



「う、うううううっ!嘘よ!」


 壁によりかかりながらその場を後にしていたオレの耳を彼女の言葉が劈いた。

 耳を疑う彼女の言葉に思わず振り返ると、アリヨマさんは茹で蛸の如き真っ赤な顔で、オレを勢いよく指差した。彼女は地団駄を踏みながら、


「あ〜っ!もうっ!!!なんでこんな気持ちになるのっ!?ねぇ教えてよ!なんでこんなに胸がバクバク苦しいの!!?ねぇ、私ヘンになっちゃったんだけど!ねぇ!!私なんだかおかしいんだけど!!!」

「きゅ、救急車…?」

「行けるかぁ!ノスフェラトゥ舐めんな!実験台送りになるわ!」

「じゃ、じゃあどうしたら?」

「決まってるじゃない!!!責任取りなさいよ、このお味噌っ!!!」


 本日2度目の全身への雷的衝撃。


 こ、これはまさかまさかの大逆転…?よもやよもやの告白大成功と考えていいのか!?お付き合いさせて頂いてよろしいのかっ!

 改めてオレは右手を大きく差し出し、深々とお辞儀を繰り出した。そして、それはそれはダンジョンに大きく響き渡る様に勝利の宣言をおひとつ。


「喜んでお付き合いさせて頂きます!」

「喜ぶな!お味噌!!」

「はいっ!喜ばずお付き合いさせて頂きます!」

「喜びなさいよお味噌っ!」

「はいっ!!!喜ばず喜んでお付き合いさせて頂きます!!!!!」


 脳内にウェディングベルが鳴り響く。こうしてオレの幸せライフが幕を開けたのである。


 …

 ……

 ………


「あ、ちなみにマサナイさんとはあの後、NYAINE(ニャイン)交換して友だちになったんですよ」

「ぜんっぜん興味ないけど!?」

「ほら、これその日の配信に出させてもらった動画です」

「ダ、『ダンジョンでダチ作ってみた!』…?お、面白くなさそ〜…。うわ、動画時間2時間弱あるし…」

「ちなみに動画内容はオレとマサナイさんのフリートークです」

「…本当に誰がどういう経緯で見るのそれ」

「再生回数は9です。オレが7回見ました」

「な、なんか泣けてきた…」

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