生徒会での日々2
そしてふと気付いた。
「先輩。里見か井上のどっちかって聞かれて、俺が井上先輩に告るって言ったらどうしたんですか」
「あ~。見守る。井上ならうまい事お前をあしらうから、問題ない。里見だったら、全員で囲んで見守る。どうなるかわからないから」
うわっ。なんかひどい。
「どっちに行っても、どうせ振られるから、見守らなくてもいいです」
緒方先輩は黙って俺を見ている。何かを探るような表情をしているが……何だろう。
事務室に到着すると、ダンボールを一箱渡された。一人一箱ずつ抱え、生徒会室に向かって戻り始めた。
「お前さあ、好きな子とかいないの。そういえば、小山さんに一目ぼれしたんだよな。ああいうのが好みか?」
うっ、痛い。確かに俺は小山さんにコロッといかれた。頬に泥を飛ばして仕事してる美少女に、好みの中心近くをズバッと打ち抜かれた。
でもそれは、男全般そうじゃないの? 下心を知っている今なら避けるけど、情報ゼロなら緒方先輩だって、間違うんじゃないの?
俺はそんなことを思いながら緒方先輩を見上げた。この人180cm近くあるんだよな。里見先輩が172cmだからちょうどぴったりじゃないか。あんた達も付き合えよ。そして大っぴらに見せつけてやるんだ。そうすれば、ややこしい奴らの何割かは、大人しくなるだろう。
「おい、どうなんだ。考え込む話じゃないだろ」
「あ~、俺は、可愛い女子は好きです。たぶんどんなタイプでも。もてたことないから、選ぶなんて贅沢はしません」
かなりひねくれた気分で、本音をぶちまけてしまった。俺と真逆で、ゆとりで選べるだろう緒方先輩への、ひがみが炸裂したといもいえる。
緒方先輩は、そんな俺を見てくすっと笑い、そうか、と言った。
生徒会室に戻ると、女子の先輩二人はすっかり機嫌を直していた。
「チョロシ君、今日里見と下校するんでしょ。もう小山に捕まっちゃ駄目だよ。他の子も、親し気に寄って来るのは、危ない奴の可能性大だからね。他所見せずに帰ること。いいね」
まだ、チョロシ君のままだった。
「はい。ぜひよろしくお願いします」
里見先輩が、任せて、と明るく言った。
放課後になって、里見先輩にラインしようとしていたら、教室にずかずかと里見先輩が入って来た。
「チョロシ君、帰ろう。迎えに来てやったよ」
うわあ。なんか凄く目立つ。俺は慌ててリュックを掴み、行きましょうと言って教室から出た。クラスメイトと、廊下を歩いていた一年生たちの驚いたような目が、いたたまれない。
「先輩、クラスまで来るのは無しです。勘弁してください」
「そう? じゃあ、明日からは校門で待ち合わせもいいねえ」
「いや、普通ラインでしょ」
「ところで、今日突然モデルの仕事が入ったんだ。スタジオは帰る途中の駅だから、一緒に行こう。面白いよ」
え、と思ったが、ちょっと興味はあった。俺だけだったら、絶対に垣間見ることの無い世界だ。それで、見学させてもらうことにした。
途中駅で降りて、五分くらい歩いたところにあるビルに先輩と一緒に入って行く。そこの一室にスタジオがあった。
「やあ、今日は急に頼んじゃって御免ね、里見ちゃん。助かるよ」
「こんにちは。学校の後輩を連れて来たので、見学させてもらっていいですか」
「いいよ、珍しいね。こっちどうぞ」
俺は事務所のスタッフに紹介され、事務所に入った。
「今日は、これね。カジュアルウエア」
着る服の打ち合わせをしている里見先輩は、学校や、遊びに行った時に見るのとは、また違う顔をしている。それが新鮮だった。
そして、スタジオで撮影が始まった。化粧をしてカメラマンの要望に合わせて色々なポーズを取り続けている。大変だなあと思いながら見ていると、撮影の合間に先輩が戻って来た。
「どう。私イケてる?」
「はい。すごくきれいでカッコいいです」
里見先輩は満足げに笑う。その様子をカメラマンが撮っていたようだ。
「なあ、里見ちゃん。これいい顔しているよ。男性モデルとの絡みでは、いつもクールビューティーしているけど、この子とだと自然だね。ちょっと一緒に撮ってみない?」
慌てて俺は断った。
「いや、無理です。俺そういうの照れくさくてできません」
「でも見てよ、これ。里見ちゃん、可愛いでしょ。この可愛い里見ちゃんをもっと見てみたくない?」
カメラマンが見せてくれた里見先輩は、なんていうか無邪気できれいな顔をしていた。確かに抜群に魅力的だ。
俺がグラッときたのを感じ取ったカメラマンは、さっさと俺をスタイリストさんに押し付けた。そこからは里見先輩も混じって、あっちこっちいじられ、とっかえひっかえ着せ替えをされて、振り回された。その合間に、何やら写真を撮られていたようだ。
後日、その時のグラビアが雑誌に載った。
これがかなりの評判をとったらしい。里見先輩が生徒会室で雑誌を見せてくれた。
「え~。かわいい。いつものモデル・サトミとは全然違うじゃない。抱きしめたくなる感じ。こっちがいい」
井上先輩がまず食いついた。
「この回はかなり評判が良くて、反響がすごいって。ヒロシのおかげだよ。スタッフたちと一緒に、ヒロシのスタリングをしながら撮ったんだ。絡みの写真も評判出てるって」
どれどれと言って、緒方先輩と今井先輩が覗き込んだ。
「おお~、他の男と絡んだ時とは大違いだな。あの、ツンとした感じも悪くないけど、これは良いね。緒方と一緒に撮った時とも違うよな」
「緒方先輩とも撮った事あるんですか」
緒方先輩が雑誌を取りあげて、ページを繰った。そこには俺が里見先輩と一緒に写り込んだグラビア写真が載っていた。俺の髪のスタイリングを変えようと、頭に手を触れて笑っている里見先輩と、困ったような表情の俺が、なぜか二人きりで写っていた。
「いつの間にこんな構図が出来ていたのかな。俺は全然気付いていなかったです。ずっと周りを数人に取り囲まれて、いじり倒された記憶しかないですよ」
「それがプロの腕よ。スタッフが一瞬さっと離れたの。そこは阿吽の息ね。ヒロシは意識したら固くなっちゃうから、気取らせないようにしていたんだよ。初めてで、決め顔作れるのなんて、緒方君くらいしかいないよね」
あ、そうですか。緒方先輩は出来るんだ。やっぱり人種が違う。
「見る?」
生徒会室の書棚から雑誌を一冊引っ張りだして、付箋のページを開いて見せてくれた。こなれた感じのセーターにジーンズ姿の緒方先輩と、ニットワンピースのおしゃれな里見先輩のツーショットだった。素敵なカップル、そのものだ。
「うわー。えらい違いだ。並べて置くの勘弁してください」
井上先輩が体をねじ込んできた。
「私はこっちのヒロシと撮っている方が好きよ。里見が魅力的に撮れているもの」
まあ、そういう意味で言えば、俺もこっちの方がいいと思う。里見先輩単体で見ればそうだな。男の方に目が行かないと言う意味でも、そうだ。
「ヒロシと一緒のグラビア、またやろうって話が上がってるの。やろうね」
「いや、何回やっても、俺には決め顔も、ポーズも無理だと思います」
「それは求めていないんだ。私の小道具的立場での写り込みね。ちょっとしたお小遣い稼ぎになるし、魅力だと思わない」
その言葉には少し心惹かれた。小遣い稼ぎのためのバイト探しを、夏休み前にしようと思っていたのだ。
「決まりだね。事務所に言っておくよ」