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コマーシャル編5


 撮影現場は普通の一軒屋のリビングとダイニングキッチンだった。

 ちょっとおしゃれな感じの家かと思ったら、とても普通の家だった。俺の家と余り変わらない。

 俺以外のメンバーの家だったら、もう少し豪華版の様な気がする。つまりここは俺の家設定なのかもしれない。

 リビングには三人掛けのソファとテーブルとテレビ。

 ダイニングには4人掛けのテーブル。

 セミオープンのキッチンには洗いカゴが置いてあり、皿が三枚立てかけてある。


「ここにある物は、何でも好きに使っていいよ。冷蔵庫の中にはフルーツやアイスクリームなんかも入っているからね。こっちは気にせず、普通にパーティーしてくれ」


 プランナーの言葉に歓声を上げ、全員が思い思いに散った。

 俺はまずソファの前のテーブルを拭いて綺麗にした。里見先輩が花のアレンジメントを持って来て、きれいな布のランナーを敷いて飾った。それだけで、一気に華やかさが増した。


 このアレンジメントから花を選ぶのかな。はて、どの花がいいのか。ピンクの大きいバラは野口さんかな。里見さんは白いユリのイメージか。あれ、逆かな? 

 今井先輩なら、このかわいらしいピンクのスイートピーか。う~ん、横のごつくてとげとげの何かの方が合っている?

 考え出すと決められなくなった。


「ヒロシ、何考えこんでいるんだ」


 今井先輩がケーキを持ってやってきたので、ごつい花の名を聞いてみた。すると、すぐにプロテアというんだよ、と教えてくれた。

 さすが今井先輩だ。知っていそうな気がしたんだ。


 う~ん、プロテアかあ、とつぶやく俺に、これを渡すのはお勧めできないな、と小声で忠告された。


「あ、そういうわけではないです。ちょっと気になっただけで」


「だよな。これだと強そうですねとか、存在感ありますねというメッセージを思い浮かべそうだから、ギャグバージョンになってしまう。まあ、それも面白いかもしれないけどな」


 はい。すみません。今井さんの彼女に渡す花の想定でした。ぴったりです。

 そう心の中で言い訳した俺は、つい横目で井上先輩の姿を見てしまった。

 今井先輩の手が俺の頬に伸び、横にぐにゅーっと引っ張られた。そして、更に小声で、失礼だぞ、と叱られた。

 でも、離れて行ってから、こっそり笑っているのを俺は見た。やっぱり先輩も、似合うと思ったんじゃないか。


 温められたおでんが山盛りになっている。チキンとポテトも山盛り。

 そしてスナック菓子は更にてんこ盛りだ。乗り切らない分はダイニングテーブルに置かれた。

 そして緒方先輩が飲み物を抱えてやってくると、パーティーが始まった。


 まずは清涼飲料水が一人に一本宛で手渡された。

 次々にプシュッという気持ちの良い音がして、気分が上がって行く。屋外での時と違い、楽しさがこの室内に詰まって濃くなっていくような、ワクワク感があった。


「私、大根とがんもどき欲しい。いいかな」


 最初に井上先輩が言い、今井先輩が俺は何でもいいと言いながら、皿に二つを取り、井上先輩に渡した。


「私は、こんにゃくとジャガイモ頂戴」


 里見先輩もいつものチョイスだ。俺達5人は互いの好みを知っているので、この宣言は野口さんに向けたものだ。


「野口さんはどれにする?」


 なので、そう声を掛けた。どれも数個ずつあって、別に早い者勝ちなわけではない。だけどそう言った途端、小さな緊張感が漂った。


 えっと思ったが、すぐに霧散したので、野口さんに向き直った。


「私は卵と白はんぺんください」


 今井先輩から、ありがとうと言って皿を受け取り、俺に向かってニコッと笑った。

 部屋の隅のスタッフ側から、声が漏れて来る。


「あれえ、もう恋愛編に入ってるかな。おい、3台で細やかに撮ってくれよ。いい場面一つも逃すな」


 あれえ、はこっちだ。どこが恋愛編なんだ。無理やりこじつけ編集する気なのだろうか。

 その後は楽しく時間が経ち、お腹がいっぱいになった辺りで、野口さんが俺をゲームに誘った。そしてジェンガを取り出す。俺達は二人でダイニングテーブルに移った。


 里見先輩は、テーブル下からごそごそとオセロを取りだし、緒方先輩の腕を掴んで、オセロに付きあわさせようとしている。緒方先輩は、苦笑しながら里見先輩に向き合い、オセロの準備を始めた。その様には大人の余裕が漂い、少し拗ねている里見先輩の兄のようだ。

 ああ、あの二人は兄妹みたいな仲なんだ、と突然思い至った。今井先輩と井上先輩がカップルだと聞いてから、そうとしか見えくなったのと同じく、二人の事も兄妹の様にしか見えなくなった。


「野口さん。あの二人、兄妹の様に見えませんか?」


 俺はジェンガを整えながら、野口さんに聞いてみた。


「ん? そうですね。仲のいい幼馴染って感じですよね」


「恋人同士には見えませんか?」


「ちょっと、違うでしょ」


 付き合っているとは思わないけど、友達以上恋人未満な関係かと思っていた。そんなのは俺だけなのだろうか。付き合いの浅い野口さんでも、すぐにそうと気付くのに。


「ええと、だからヒロシ君と里見さんのカップル編でしょ。清潔感が大事な清涼飲料水のCMで、三角関係を扱うはずないじゃないですか」


 はい。仰る通りです。

 ということは、世間一般もそういうイメージで見ているってことか。鈍いのは俺だけなのか?


 ジェンガを始める前から、精神的に負けた気分になっていた。三回やったけど、もちろん俺のぼろ負けだ。動揺が指に伝わり、あっけなく山が崩れていく。

 そんな俺に、野口さんが飲み物を持って来てくれた。キャップをプシュッと開けて、一本を俺の前に置いてくれる。ありがとうと言ってからちびちびと飲んだ。

 そして、はっと気付いた。これはこの飲み物の宣伝用だった。こんな塩たれた顔で飲んではいけないんだ。

 そう思った俺は、思いっきりニカッと笑って、ぐいっと一口飲んだ。

 

 野口さんが、思わずという様子で、ブハッと笑い出した。そしてジェンガを摘み直して、もう一回勝負しよ、と言った。


 最後の勝負でやっと勝ち、皆の所に戻ると、そちらはオセロで盛り上がっていた。

 今井先輩と井上先輩の勝負は、意外なことに今井先輩の圧勝だった。今井先輩なら、勝負事も井上先輩に譲りそうな気がしていた。


「じゃあ、今度はヒロシと私でやろうか」


 里見先輩が俺を誘ってくる。皆に囲まれたままでいいのかなと思い、緒方先輩を見ると、軽くウインクされた。いいみたいだ。

 では、ということで、二人の対戦が始まった。


 そしてすぐに負けた。里見先輩強い。むちゃくちゃ強いんじゃないか。俺だって、オセロはスマホでやっていて、弱くはない。でも3回やったけど、速攻で負けた。

 俺は何だったら勝てるのだろう。ポーカー、無理そうだ。ウノなら運次第か。

 

「ウノとか……無いか。あ、じゃあジェンガしましょう」



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