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コマーシャル編3

 そして、冬期バージョンの依頼が入ったと、里見先輩が事務所経由で聞いて来た。


「秋バージョンが流行ったから、冬バージョンもって言ってきているけど、どうする?」


 すぐ乗るかなと思っていた。ところが緒方先輩が俺に聞いた。


「ヒロシ次第だな。やるか?」


 今井先輩も井上先輩も里見先輩も俺を見ている。

 

「できればこれ以上恥を晒したくないです」


 井上先輩が俺の腕をポンポンと叩いた。


「別に恥じゃないよ。すごく魅力的に映っていたよ。このコマーシャルの冬バージョンの中心はヒロシだと思う。だからヒロシに任せようと思ったけど、そんな後ろ向きなことを言うなら、強制参加だね」


 井上先輩の何かに火がついてしまったようだ。


「でも、先輩方は受験を控えているし、そんなことに時間を割く余裕はないでしょう」


「全員Aランク取っているから大丈夫」


「え、すごいですね」


「私は工学部ね。宇宙ビジネスか、開発関連の勉強したいから」


「え~と。経済とか法学部かと思っていました。だって永田町のアルバイトは?」


「そっち関連の未来に永田町の協力は必須よ。伝手を作らなくちゃね」


 思っていたより、井上先輩は凄いのだ。凄いのは知っていたけど、俺のスケールが小さいせいで、大きさを見誤っていた。議員の方々は大きさを見抜いていたのだろう。


 そして結局、冬バージョンを受けることになった。

 今回も野口さんとの6人で取ることになる。この回は、クリスマスから年始にかけての、イベント感のある時期に合わせたものになっている。構造段階なので大雑把な流れとしてだが、全員でのクリスマスパーティーバージョンがメイン、恋愛編は俺と二人それぞれとで1本ずつだ。そして俺が花を渡して終わる筋書きになっている。


 今回は俺にだけ演技が求められるのか、と思ったがそうでもない。

 単に二人の元に向かい、各々に花を渡せばいいだけとなっている。それでは、物語にもならないと思ったが、CMプランナーは絶対に大丈夫だと言う。

 どこが大丈夫か全くわからないが、いいと言うなら、いいのだろうと開き直った。


 撮影は一週間後に行われることになっている。

 今日の放課後に、CMプランナーの事務所に集合し、全員での打ち合わせが行われる。

 いつもなら5人で一緒に行くのだが、今日は先輩方は受験に向けた説明会があり、一時間ほど遅れることになってしまった。先生方の都合で急遽この日に変更されたので、仕方が無い。


 俺は一人で向かうつもりでいたのだが、その話を聞いて、野口さんが学校に寄ってくれると言ってきた。自宅からの途中だし、他所の学校の雰囲気を見てみたいと言う。

 それで校門のところで待ち合わせすることになった。


 彼女はさすがにグラビアアイドルだけあって、すっぴんで学生服姿でも、光るほど目立っている。並みの人間ではない。

 その彼女が校門の前で、俺を見つけると、ぱあっと笑顔になった。その破壊力の凄い事。周辺を歩く生徒たちがビクッとして見とれた。

 勿論、俺もだ。近付くのが恐れ多い。そう思いながらも、俺は走った。


「約束より早目に来たのだけど、もしかして待ったかな」


「ううん。今来たところよ」


 うわ~。定番のやり取りだ。彼女との待ち合わせみたいだ。胸がどきどきする。

 だが、これを井上先輩に見られたら、またチョロシ君に逆戻りだな。

 俺は力いっぱい気持ちを落ち着かせて、彼女と並んで駅に向かって歩いた。


 ふと、これは俺の最大ミッション、彼女を作って一緒に下校、に近いと思ったら、更にどきどきが増した。

 いや、考え違いをしてはいけない。彼女は仕事仲間。今は下校してはいるけど、行く先は仕事先。どっちかと言うと同僚と一緒に現場に赴くところ、なのだ。

 そう考えたら、ドキドキはドの字もしなくなった。そして溜息が漏れた。

 高校に居る間に、その願いが叶うことがあるのだろうか。


「どうしたの。溜息なんか」


「あ~。ちょっと悲願が叶わなそうだなって思って」

 

「どんな願いなの」


 えへへと笑ってごまかした。口にするのは情けない。


「ヒロシ君は、学校で、もてているでしょ。彼女は妬かないの?」


「彼女いません」


 なぜか野口さんがびっくりしている。


「全部、振ってしまっているってこと」


「いいえ、全くもてません」


 なんとなく受け答えが、ロボットっぽくなってしまう。あまり突っ込んで聞いて欲しくないのだ。


「野口さんはもてて大変でしょ。緒方先輩たちの様に、狙われて面倒臭がっているのを見ると、もてるのも程度によりけりだって思うよ」


 野口さんはふ~ん、と不思議そうな顔をしていた。



◇◇◇


「おい、緒方。ヒロシの奴、野口さんと一緒に事務所に向かったんだろ。また二人の目が吊り上がることになるんだろうな」


「ああ、あいつ、いつまでたっても自覚が無いからな」


 生徒会室には緒方と俺の二人きりなので、気になっていることを聞いてみようと思った。

 ヒロシと里見の気持ちについてだ。

 由美は、相思相愛のはずだと言うが、俺にはよくわからない。


「里見はヒロシの事が好きなんだろうと思うんだが、そうかな?」


「今井、そこに疑問符を付けるなよ。中学で初めて会った時に、ヒロシの何かを好ましく思ったんだろうな。ある種の一目惚れだよ。ただし、里見に自覚は無かったみたいだけど」


 確かに、男除けをして、誰も近寄らせなかった里見が、すごく自然に間合いを詰めていた。あの時、ものすごい違和感を覚えたのは確かだ。しかしヒロシはまだ子供っぽかったし、弟扱いという雰囲気だったから、そうとばかり思っていたのだ。

 それが、高校に上がって、女の影がちらつき始めた辺りから、少し様子が変わってきている。

 だが、恋をしているようにも見えない。


「里見は、今は自覚しているのかな」


「いいや。どうもまだのようだな。あいつもとことん鈍いんだよ。どっちかまともなら何とかなるけど、両方だと、何も無ければそのままになりそうだね」


 CMフィルムの二人を見れば明らかなのに、当の本人達が気付かないとはね。

 なんでバズったのかわかっていないのだろうか。あのもどかしさと、控えめに漏れる恋心が、胸をキュンとさせるのに。二人揃って目が曇っているのか?


「何とかなるのかな。俺達が卒業したら、持ってかれそうだな」


 ヒロシは体がしっかりして、男っぽくなってきた。中学の頃から鍛えてあげたからな。顔つきもすっきりとして目を惹くようになった。


「由美が、ああいうのが次第にいい男になるタイプだって言っていたよ。今なら見る目の無い女でも、彼に気付くってさ。俺たちは付き合い始めてすぐに、あいつの不器用なほど素直なところや、賢さが気に入って仲間に加えただろ。魅力が目に見えるようになったら、群がるだろうな。おまけにあいつは、捕まったら一途になりそうだし」


「いいや、そんな事にはさせない。俺の為にも」


 それは里見の姉の麗子の厳命だった。

 幼馴染なので俺も知っているが、麗子は言ったことは覆さない。緒方と付き合う条件が、ユキの男嫌いを直すことなのだ。

 幼稚園の時にユキをいじめて、男嫌いの芽を植え付けのが緒方だ。

 小学生以降は、庇う方に変わったので、緒方に対するに苦手意識は無いが、ユキの男嫌いは、他の男子たちに構い倒された事で大きく育ってしまった。


 中学に入ってから、麗子に恋をした緒方が、麗子から与えられた条件がそれだ。

 現在麗子は19歳。緒方はじりじりしながら二人の進展を見守っているのだ。


「ヒロシは里見が好きだけど、あがめているような雰囲気だ。あがめている内は恋にならないだろ。どうしたら殻を破れるのかな」


「コマーシャルの告白を利用させてもらう」


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