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超・急接近


 山吹と両思いが確定した旭は、「云っておくけど」と前置きすると、足をのばして壁にもたれた。


「おれ、童貞なんだ」

「そうか(だと思ったよ……)」

「だからさ」

「だから?」

「ユウタをがっかりさせるかもしれない」


 受け身側に快経験がない場合、初めてのベッドインは厄介といった見方が一般論のようで、うまくできるかどうかわからない旭は、念のためその旨を伝えてきた。


「やっぱり、最初はあれだろ。(ケツ)をグリグリするやつ。直腸って云うんだっけ?」


「あ、旭くん……、なにを云いだすかと思えば、いきなりどうした。ひょっとして、怖気(おじけ)づいたのか」


 座椅子にもたれる山吹は、なるべく冷静なふりをして会話をつづけた。


「んー、べつにこわくはねぇよ。おれを好きにしていいのは、ユウタだけだし……。うまく云えねぇけど、何度イメトレしても、おれ、ばかみたいな顔で()がっててさ……」


「いったい、どんなイメージトレーニングをしているんだ」


「だって、世界でいちばん好きな男に抱かれたら、ふつう昇天するだろ。おれ、ユウタとセックスするたび、メロメロになっちまうと思うけど、最悪の場合、気絶とかするかもしれねーけど、ユウタはなにも悪くないからな」


「不安な気持ちはわかるよ。初めは、誰でも緊張するものだからな。おれだってそうだよ。やさしくできるかどうか……」


「無理やりでも力づくでも、おれは、ちゃんと最後までしてくれたほうがいい。ユウタが満足しなきゃ、おれも不完全燃焼なんだ」


「そんなにおれと寝たいのか?」


「うん、寝たい。直接つながって、おれ専用のユウタを感じたい。……今まで、好きな(やつ)ができても、どうせフられると思ってなにもしてこなかったけど、おれの気持ちを知ったあとも、ユウタは避けずにいてくれただろ。それが、すごくうれしくてさ。……そんなユウタが、おれの彼氏とか、マジで信じられねぇよ」


 めずらしく声を低める旭は、山吹に甘えているのかもしれない。手に入れたからといって、よろこんでばかりはいられない。むしろ、先へ進むたび課題は山積みだ。どう乗り越えていくかは、ふたりの問題であり、時として、しあわせな悩みも含まれた。両思いになった途端、不安がつきまとう旭は、深い溜め息を吐いた。



「わりィ、ユウタ。こんな話を聞かされても、気分よくないよな。ユウタのこと、ちゃんと信じてるから、よろしくな」


「ああ、おれたちはこれからだ。仲良くやっていこう。それに、云いたいことがあれば吐きだしていい。がまんする必要はないよ」


「サンキュー。なあ、風呂はいってきていい?」


「いいよ。置いてあるバスタオルを好きに使ってくれ。脱いだ服は、洗濯カゴにいれておけば、おれのといっしょに洗うよ」


「じゃあ、ちょっと行ってくる」



 持ちこんだスポーツバッグをあさり、着がえを取りだす旭は、「あっ、そうだ」といって、山吹をふり向いた。


「どうかしたか」


「あのさ、誕生日のことなんだけど……」


「きみたち双子のだね。もしよければ、なにかプレゼントを贈らせてもらえるかい」


「やったぜ! おれ、ユウタと猫カフェに行ってみたい。おそろいのキーホルダーとかグッズがほしい。犬も好き!」


「猫カフェか、わかった。調べておこう(意外だな。動物が好きなのか?)。……(あかね)くんのほしいものは、なんだろうな」


「そりゃ、ひとつしかねぇだろ」


「それはなんだい?」


「ユウタって鈍感(どんかん)なの」


「どうだろう、あまりそう思ったことはないが……。旭くんは、なにか知っていそうだね。教えてくれないか」


「あいつがほしいものは、ユウタだよ」


「おれ?」


「まちがいなくな」


 立てた人差し指をビシッと顔面に向けられた山吹は(そうだったな)と、茜に告白された事実を意識した。


「あいつはおれの分身だから、たしかめなくてもわかるんだ。あいつは、ユウタをほしがってる。このさい、弟のことも頼めるか?」


「頼むとはどういう意味で?」


「ユウタはさ、両手に花ってやつになればいい。茜に譲るつもりはねぇけど、おれだけしあわせなのは、ずるいだろ」


 兄は弟の思いを見ぬき、寛容さを示す。茜が山吹に告白したことも、察しているような口ぶりだった。山吹は一瞬、驚きの表情を浮かべた。とはいえ、冴えない会社員をめぐって、双子兄弟(ツインズ)による争奪戦は避けたい。今は旭の意見に耳を貸すとして、茜の考えも確認すべきだろう。



「きみは、かわいいだけでなく、いい子だな」


「は? なんだよいきなり。ほめことばに聞こえないンだけど!」


 

 ムッと眉を寄せる旭だが、着がえを抱えて風呂場へ向かった。夕食にはまだ早い。山吹は、旭がシャワーを浴びる音に耳をすませながら、近場の猫カフェを調べた。商業ビルのテナントに、キャッツランドという猫喫茶がある。早速、予約の空きをメモ書きすると、バスタオルを腰に巻いただけの状態でもどってきた旭に、「どうかな」と訊いた。



「キャッツランド? なんか、猫の遊園地みたい」


「ソフトドリンクなら注文できるようだが、午前中に予約して、昼は、どこかへ食べにいくかい?」


「ユウタにまかせる。夜は、ホテルに行ってもいいぜ。二十歳(はたち)になった日にユウタと初セックスとか、ロマンチックじゃね?」


「それを実現するには、事前準備が必要になるな。……今から少しずつ、うしろ(、、、)を慣らしてみるか?」


「ば、ばか! そういうことは眼鏡をはずして云えよな。心臓とまるわ!」


「おおげさだな」


 

 いつもはコンタクトレンズだが、休日は細縁の眼鏡をかける。すると、山吹の値打ちは上昇するらしい。シャワーを浴びて躰が火照(ほて)る旭は、ほぼ全裸の状態だ。山吹が腰のバスタオルへ手をかけると、「にゃあ!?」と猫のように叫んで、「マジで今からすんの?」と、あたふたした。


「きみがいやなら、しないよ」


「い、いやって云うか、……指だけ、なんだよな?」


「もちろん」


「……くっ、それはそれで(絶対、頭がおかしくなる)」


 ためらう旭をよそに、山吹はバスタオルを取りはらって床へ置くと、細い腰を引き寄せた。


「さわるよ」


「ユ、ユウタ……、あっ」


 じかに下腹部を撫でられた旭は、ガクッとひざの力が抜けた。背中を支える山吹の腕にとまどういっぽう、恋人として扱われるよろこびを感じて、のどがふるえた。



❃つづく

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