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08話 敗北で才能はなくならない

 ――魔女がこの部屋を()ってから、数時間が過ぎた。


 外はとっくに暗くなっている。


 しかし、建物の明かりは消えていない。異世界といえば早寝早起きのイメージがあったが、そうでもないみたいだ。


 この様子だと暗殺者がくるとしたら、深夜だろう。


 ――ミトハはまだ、寝ていた。


 治療は自己治癒力を底上げするものと魔女は言っていた。


 彼女の体は今、自己修復中というわけだ。明日までは寝ているらしい。


 ミトハには暗殺者のことを伝えていないので好都合(こうつごう)だった。


 さっき、騎士のやつが食事を運んできたが、手を付けていない。

 

 受け取らないのも、怪しまれるのでテーブルに置いてある。


 見慣れない料理だが、それが逆に興味をそそられる。


 もちろん、毒入りの可能性も十分あるから、食べるわけにはいかない。

 

 しかし、部屋中が食事のにおいに包まれ、どうしても目が向いてしまう。


 正直、もう空腹が限界だった。


 この空腹の中、暗殺者を迎え撃つ準備をするのは大変だった。

 

 ――どれだけの時間がたったのかも分からない。


 だが、町中の明かりが消えはじめ、外は暗闇(くらやみ)に包まれている。


 そろそろか。


 俺は部屋の明かりを消し、暗闇の中で暗殺者を待つ。



 ――きたか。


 この戦いは、俺が相手に殺されるより先に、相手を見ることができるか。 

 それで、決着がきまる。


 俺のスキルは相手を見ないと、発動してもあまり意味がない。


 この暗闇で相手を見る方法は、考えてある。


 ――廊下に三人か、かなり慎重に進んできている。


 音を立てないためか、相手も夜目(よめ)かないのか。

 

 後者だと助かるんだが。


 ――どうやら、一人が止まったようだ。


 二人が侵入、一人が待機という形らしい。


 頃合いだな――



 俺は扉が五秒後に、廊下側に倒れるように編集する。


 そして、隣の部屋のドアに向かう。


 音がなった方の反対側から攻める作戦だ。

 

 あらかじめ、編集で壁に穴をあけておいた。


 ――五秒後、俺たちの泊まってる部屋の扉が倒れる。

 

 思っていたよりも派手な音が鳴る。


 それに、あわせて俺は隣の部屋から出ると同時に、スマホ――現代文明の結晶を投げ飛ばす。


 ――投げられたスマホは一秒後に閃光を放つ。


 そう、フラッシュ撮影である。


 タイマーをセットして、一秒後にフラッシュ撮影を連射させる。

 これが、俺が考えた暗闇で敵を見る方法だ。


 俺は敵の姿を確認する。白装束(しろしょうぞく)三人。


 すぐにスキル『編集』を発動させ、三人を拘束した。


 ――俺は次を警戒する。敵は王国の最強部隊。伏兵(ふくへい)がいる可能性は十分に考えられる。


 とりあえず、俺は警戒しながらミトハの寝ている部屋に戻る。

 

 ちなみに、ミトハが寝ている場所は俺の編集でシェルターのようになっている。

 

 全く見えないと、心配になるので窓付きだが。


 もちろん、可能性は低いと思うが、下の階からの攻撃の可能性もあった。

 

 その可能性を考えた俺は、まだ日があるうちに下の階に行き、床の厚さを三倍くらいにしておいた。


 上からの攻撃も一応考え、この部屋にある金属製品の形を剣状にして、屋根に刺しておいた。

 剣山というわけだ。


 暗殺部隊というからには、騎士たちのような剣士タイプだとは考えていたが、派手な魔法を撃ってくるパターンも考えられた。


 その場合、かなり面倒なことになっていただろうから、本当に助かった。


 

 ……いや、まだ油断はできないが。


 ――俺はスマホのライトを頼りに、もとの部屋に到着する。

 

 下の階からの入り口は、かなり分厚くふさいでおいたから、音を立てずに侵入するのは無理だろう。

 

 これで音を立てずにこの部屋に入るのは無理だろう。


 壁抜けの魔法とかあったら話は別だが。さすがにそれはないだろう。


 伏兵がいるとすると、さっきの扉が倒れる音で異変は感じているはずだ。


 見えない敵を相手にするのは、本当に神経がすり減る。



 ――数分後、何も起きない。


 コンコン!


 どうやら窓がたたかれたようだ。まさか窓からきたのか?


 俺は警戒しながら、カーテンを開ける。


 出来るだけ顔が窓に映らないように外を見る――


「何をしている? 私だ、早く開けてくれ。荷物が重いんだ」


 そこにいたのは『祝福の魔女』セレスタだった。


 ――窓を開けると、セレスタはフワフワと浮きながら入ってくる。


 どうやら、(つえ)ほうき代わりにしているようだ。


 彼女は杖から降りると、窓の外から大きな何かを入れた。


 俺は部屋の明かりをつける。もちろん電気などないのでロウソクだ。


 ――どうやら、彼女の言っていた荷物とは白装束の人間だったようだ。


「言っておいただろ? 後で治療代を受け取りに来ると。その途中で怪しい連中を見かけてな、襲い掛かってきたから倒してしまった」


 言ってたが、なぜこんな夜中に? 殺したのか? いや、息はしている。


「まさか、こんな夜中にくるとは――すまんが、俺たち金はないんだ。他に払う方法はないか?」


 彼女はニヤリと笑った。


「そうか、金はないのか。では、私の依頼を受けてもらおう。内容は明日に――そうだな、王都の正門を出て右に真っすぐ進むと森がある。そこに勇者と共に来てくれ、時間は夜中だと助かる。魔女は夜行性でな」


 依頼か。人体実験だろうか、解剖だろうか。いい予感はしない。


「わかった、生きていたら行く」


 セレスタは満足そうに笑うと、その荷物は好きにしろと言い残し、窓の外に消えていった。


 ――あの魔女の目的はなんだろうか、俺たちに興味があるのだろうが。


 無条件に二度も助けられると怖い。

 

 後でものすごい対価を要求される気がする。

 


 ――数分後、五人のうち三人が目を覚ました。

 

 俺はあれから拘束してた三人を気絶させ、部屋に運び拘束しなおした。


 本当に最悪だった……人を気絶させるなんて。


 要領(ようりょう)が分からないから、最初のやつなんて四回も殴ってしまった。


 三人とも目を見開いた。目の前にあるものを目にしたからだろう。


「――驚いたか? これでお前たちの居場所を把握したんだ、作るのに何時間もかかったんだぞ?」


 俺たちのいる部屋には、大量の(ひも)が円状に切り取られた、床から飛び出し、天井につるされているリングにかかっていた。

 

 紐の先には重りがついている。


 ――これは俺が作った侵入者発見装置(・・・・・・・)だ。


 俺はまず、このフロアにある布製品からナイフとスキル『編集』を使って大量に紐を作った。


 そして、このフロア全体の床を二センチほど剥ぎ取り、床の少し上に紐を張り巡らせる。クモの巣のように。


 その上に剝ぎ取った床を置いた。


 (正確には剥ぎ取ることはできないので、一部を伸ばして広げて、切り取る。新しい床の板を作ったと言った方が正しいだろう)


 人が踏むと、この部屋につるされている重り付きの紐が少し動く。


 どこの紐が動いたか、何センチ動いたかで場所と人数を把握することができる。


 もちろん、かなりの試行錯誤が必要だった。


 壁も浮かせ、ベットなどの家具も全て天井からつるしている。

 

 天井の耐久度も心配だったので、下の紐に当たらないように細工をした柱を何本も建てた。


 紐の先端には重りをつけているのだが、この重りの重さにも工夫が必要だった。


 重すぎれば紐は動かないし、軽すぎれば敵が床を踏んだ瞬間に仕掛けがあることに気づいてしまう。


 さらに、どのくらいの重さがどこにかかれば、紐はどのように動くか。

 

 これも、五十キロくらいの重りを作り、時間の許す限り確かめ続けた。


 ――なぜ、こんなものを作る時間があったかというと、やはりスキルのおかげだろう。


 俺のスキルは一度、切り取った時間をもう一度切り取ることはできない。


 十秒切り取り、十秒前にもどる。次に、十秒切り取れるのは、二十秒後だ。


 だが、それでも、時間を二倍にすることはできる。


 その伸ばした時間を使って俺はこの超大作を作ることができた。


 食事を持ってきた騎士に、作業を見られそうになった時は肝を冷やしたが、何とか完成した。


 もちろん暗殺者たちも違和感はあったはずだ。床が柔らかいことに気付いただろう。


 最悪、装置だと気づかれても暗殺者がきたことさえ分かれば、スマホ作戦でなんとかなったと思うが。


 結果的には気付かれなくてよかった。



 ――俺は五人の目の前に用意した椅子に座り、言う。


「少し、話をしよう」




 

 ――王都周辺上空――


 ほんとうは依頼のことも昼間済ませるつもりだったんだがな。


 夜中に来たせいで余計な戦闘を二回(・・)もさせられた。


 ほんとうにめんどくさい都市だ。


 でも、夜中に出直してよかった。あの面白い装置をみれたし。


 魔法を使えるものに、あんな発想はでない。


 私はそんなことを考えながら、自宅の扉をあける――


「おかえりなさいませ、セレスタ様」


「――起きてたのか。いつも言っているだろう?様はやめてくれ」


「そうでした、すみません。ついうっかりしていました、師匠」


「それで、勇者には会えましたか?」


 私は今日の出来事を思い出す。久しぶりに楽しい一日だった。


「ああ、中々面白い二人組だったぞ」


「二人組? そうですか。でも、わたしは……」


 本当に精神が弱い子だ、あの勇者とは反対だな。


「大丈夫だ。きっとあの二人なら、お前を受け入れてくれる。今日は、もう遅いから寝なさい」


 ――私はそう言い、寝室に向かった。



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