02話 魔王軍襲来
「――魔王軍だと? どういうことだ、なぜ進行に気がつかなかった?」
流石に王様なだけあって、取り乱したりはしないようだ。見たかったんだがな。
周りの騎士たちは動揺して、さっきまでの攻撃態勢が崩れている。
今のうちに逃げ出してしまいたいが、今逃げても指名手配だろう――
この流れ、まさか俺たちも戦うのか? 騎士団のほうがマシなんだが。
「それが―― 100体ほどの隊のようで少数で潜入されたものと――」
「少数? ここは国の中心だぞ、100体も入れるわけがなかろう。まったく、砦のやつらはなにをやっているんだ!」
――王様は立ち上がり、あごひげを撫でながら歩く。
そして、王様はイヤな視線を向けて言った。
「そこの雑魚勇者とガキ、魔王軍を討伐できたら処刑はなしにしてやろう」
――こいつ、絶対後で懲らしめる!
――王様をブラックリストに入れた俺は、勇者と案内人役の騎士と共に地下道を進んでいた。
それにしても、この地下道は複雑すぎる。
知らずに逃走していたら確実に迷子だった……
「――あ、あの自己紹介しませんか? わたしの名前は希鳴ミトハといいます……」
今まで黙っていた勇者が、そんな呑気なことをいった。
この状況にやっと慣れたようで、情報収集に乗り出したようだ。
「すまん、確かに自己紹介してなかったな」
俺は続ける。
「俺の名前は黒瀬ソウマ。よろしく――」
俺は自己紹介がてら、異世界について簡単に教えた。
「――なるほど、異世界召喚とは本来そのようなものなんですね」
すべて、ラノベやアニメの話なので本来もクソもないのだが……
だが、中々に理解が早くて助かる。
「では今の状況はそのテンプレ? とはかなり違う状況ですね」
ミトハは自分がポンコツ勇者かもしれないと知っても落ち込む様子はない。
こういう場合は異世界に詳しくないほうが、気落ちしないのかもしれない。
「そうだな、かなりまずい状況だ。少しでも勝率を上げたいんだが、あんた戦えるか?」
「もちろん戦います! そのための勇者なんですよね!」
――呑み込みが早いな。
「でもあんた意外とおっとり系なんだな、とげとげしい見た目だから意外だった」
――彼女は意外そうな顔をする。
「とげとげしいですか? あんまりいわれたことないんですけど……」
どう見たってギャル感満載なんだが、赤なんて女子高生が染める色か?
「だって、高校生で赤い髪なんてギャルくらいしか、しなくないか?」
俺は適当な偏見をいう。
「――え?」
ミトハは自分の横髪を手に取り、顔の前にもっていく。
信じられないのか、目を上に向け前髪を確認する。
彼女は顔を青くした。今日一番の混乱ぶりだ。
「わ、わたし染めた覚えなんてありません! 黒髪だったはずなのに、どうして――」
「もしかしたら、勇者のスキルの影響かもな」
俺はてきとうな予想を言った。
――つい長く会話してしまった。
作戦を考えなければ。
まず、戦力の確認をしなければならない。
「おい、案内人。騎士団は一緒に戦うんだよな?」
「そんなわけないだろう。戦うのはお前たち二人だ」
俺の質問に吐き捨てるように答えた。
「お前たちの国だよな? ここは王都なんだろ? 王国騎士団のくせに見捨てるのか? 家族だって住んでいるんだろ?」
「もちろん、お前たちが討伐に失敗して死んだあと、国のため、王のため職務を全うする」
俺の挑発も効かないし、俺たちが死ぬ前提で動いてやがる。
俺たちが勝てない相手に、こいつら騎士団が勝てると思わんがな。
――俺たちは王都南方の城壁の上に到着した。
王都は壁に囲まれているようだ。
「魔王軍がくるまで、あとどのくらいだ?」
俺は案内人に聞くのが釈だったので、壁上で見張りをしている男に聞いた。
「あそこだ。もう時間がない、早く下に降りろ」
見張りは土煙の上がっている場所を指さす。
「スキルの練習をしたい、すこし時間をくれ」
俺は勇者のスキルの内容を詳しく知らなかったし、自分のスキルでも試したいことがあった。
「そんなのは下に降りたあと、勝手にやれ!」
俺は時間稼ぎを頼んだつもりだったんだがな、仕方ない。
俺と勇者は下に降り、正門の前で魔王軍を待ち構える。
まさか、正門めがけて進行してきているとは思わなかった。
――しかし、このバカでかい門を見ていると、さすがにテンションがあがる。
状況は最悪だが、やっと異世界らしい景色をみれた。
正門の外は荒野だった。
一応、道のようなものはあるが。
王都はそこそこ発展しているように見えたが、街道を整備する余裕はないのだろう。
隣の勇者を見ると、さっきよりも鋭い目つきをしている。
「緊張してるのか? 気楽にとは言えない状況だが、俺もサポートするから…… そんなに心配しなくていい」
俺は一応、勇者様にフォローを入れておく。気休めにもならんだろうが。
俺は人を励ますのが嫌いだし苦手だ。
しかし、戦力は少しでも欲しい状況だ。
勇者には戦ってもらわないと困る。
「――心配していただき、ありがとうございます。でも、大丈夫です! 王様や騎士団の方々はともかく、その他の都市の住民の命は我々にかかっていますから。弱音は吐けません!」
さっきまで状況が呑み込めず、頭を抱えていたとは思えない発言だった。
根性があるというか、度胸があるというか。
なんにせよ、うれしい誤算だった。
前方に見える土煙は徐々に近づいてくる。
ミトハ(勇者)のスキル
現在のレベルでの能力(レベルが増加するにあたり、効果上昇したり新たな能力に開花します)
光纏剣こうてんけんレベル1:勇者の剣を顕現させる
光刃こうじんレベル1:剣に光をまとわせ、切れ味や強度を増加させる
神気転化しんきてんかレベル1:あらゆる属性、スキル攻撃への耐性を得る
身体神化しんたいしんかレベル1:筋力増加、反応速度上昇、物理的な耐久力増加、視力強化
光輪識破こうりんしきはレベル1:魔力の可視化
統一顕現とういつけんげんレベル1:スキルを最適な状態に統合(前回の勇者はこのスキルで魔王の力の一部を奪いました)
光焔衝こうえんしょうレベル5:最強の一撃、エネルギーチャージに多少の時間がかかる、日に一度しかうてない