01話 勇者処刑
「私は王国騎士団! 隊長クロイス・ヴァルデイン! 王の命により、召喚者二名の処刑を開始する!!」
――俺が異世界に召喚されてから数分、俺は処刑宣告を受けていた。
なぜこうなったのかは俺にも分からない。
分からないので、俺は起こった事実だけを整理する。
――数分前――
俺と赤毛の女子高生が召喚される。
キレだす魔法使い。睨みつける王様。
割と状況を把握していた俺。なにも分からず混乱するJK。
スキルを鑑定させろと言い出す、魔法使い。
渋々、水晶――鑑定装置に手をあてる俺たち。
俺のスキルは『編集者』、彼女は勇者だった。ここまでは良い感じだ。
俺は要するに手違いで召喚された人間。このまま追放されて異世界スローライフの始まりだと、俺は思っていた。
しかし……
――現在――
俺たちは突然、部屋に入ってきた騎士団に処刑宣告を受けている。
意味が分からない。
――百歩譲って俺だけならまだ分かる。なぜ勇者も処刑?
勇者がほしくて召喚したのでは? その勇者を殺す?
マッチポンプにもなってなくないか?
「オイ! 処刑とはどういうことだ? 勇者も処刑するのか?」
――俺の質問に答えるやつはいない。
それどころか、さっき処刑宣言をしたクロイスさんとやらが、羽織っていたマントを脱ぎ捨てる。
どうやら殺る気満々らしい……
クロイスに続き騎士団も隊列を組み、こちらに進行する。
100人くらいか―― さすがに、この人数は厳しい。
俺は援軍を求め、後ろにいる勇者を見る。
彼女は呆然と立ち尽くすだけだった。いまだ混乱中。
こういうのは、ちゃんと人を選んで召喚してもらいたい。
――あ、そういうことか。
俺はこの状況を何となく理解した。
――だが、それで目の前の騎士団が止まるわけではない。
「私が殺る! お前たちは援護しろ」
クロイスはそういうと剣を抜き、ものすごいスピードで突っ込んでくる。
――しかたない、やるか。
次の瞬間、クロイスの前に壁が出現する。
「なっ……」
急に現れた壁に反応できるわけもなく、壁に衝突する。
衝突した勢いで壁は半壊し、クロイスは倒れこむ。
そして、石の床が形を変えヘビのようにクロイスに巻き付き拘束した。
これらの現象は、俺のスキル『編集者』によるものだ。
『編集者』の能力は自分が見ていたものを映像として切り取り、自由に編集することができるというもの。
動画編集の要領だ。
もちろん制限はある。なんでもできるわけではない。
俺はクロイスが自分の目の前まで突っ込んできたところでスキルを使用して、その映像を切り取る。
約1.5秒の映像が頭の中に流れ始める。
映像の真ん中あたり(0.7秒くらい)、クロイスが元居た場所と今俺がいる、中間地点。
そこに彼が到達したところで映像を停止して、床を伸ばして壁を作った。
伸ばしてというのは、この能力では新たに物質を作り出して映像の中に出現させることは、できないということだ。
質量を変えることもできない。
物質の形は頭でイメージするとその通りの形に変形してくれる。
俺はスキルの使い方を水晶――スキル鑑定装置に触れたときに知った。
――知ったと言うより、分かったと言った方が正しい。
能力を理解したとき鋼の錬金術の漫画を思い出したが、それとは違う点もある。
映像を止めてから編集し、再生すると編集された内容は突如おこる。
つまり、予備動作がないから回避することはできない。
逆に、映像を停止せずに編集すると変化しているのが目で見える。
さっきの床がヘビのようにうねり、巻き付いたのは停止せずに編集したからだ。
こっちのほうが例の漫画の能力っぽい。
だが、この方法だと変化しているのがわかってしまうので、回避されやすいだろう。
実際、壁をこの方法で出現させていたら――
床が盛り上がり変化して壁になるというプロセスが一瞬とはいえ、ある。
その一瞬のスキに避けられたに違いない。
まあ、実戦で2パターン試せたから、そこは収穫なのだが――
問題はここからだ。
援護を命じられた騎士たちは呆然としている。
無理もないだろう。
隊長が壁に衝突し難なく拘束されてしまったのだ。
なにが起きたか分からないといった感じだ。
――俺はその隙に隊長が落とした剣を拾い、剣を隊長の首筋にあてる。
この剣、重すぎるんだが……
「さあどうする? 隊長さんはこの通り大怪我だ。すぐ治療しないとまずいんじゃないか? とりあえず、この一方的な処刑をやめろ」
思いのほかスキルの使い勝手がよく、ここにいる百人くらいなら一人で倒せそうだ。
しかし、そうなると国家反逆罪だろう。
さすがに国全体を敵に回すわけにはいかない。
処刑をやめさせて、王様と交渉する。
王様はおそらく俺たちの実力に不満をもっている。
正確には俺ではなく勇者だろう。
スキルの鑑定をしたとき、あの魔法使いは勇者が女であることに激昂していた。
そして勇者のスキルの横に書いてあったレベルはほとんどが1だった。
(俺のスキルにはレベルはなかった。最大レベルということだろうか)
ようするに、こいつらは俺たちを殺して次の勇者を召喚したいのだ。
おそらく前の勇者がいると次の勇者は召喚できない。
そして現在の勇者は弱い。スキルレベルの高い勇者がでるまで勇者リセマラをしてる。
そんなところだろう。
日本人使って勇者リセマラとはな。ずいぶんなことをしてくれる。
俺は久しぶりに怒りの感情が自分の中にうごめいているのを感じる。
「――なぜ動かない? 早くそやつらを殺せ」
低い声のする方を見ると、王様が片肘をひじ掛けにのせている。
ムカつく態度ではあるが人相の悪さも相まって威厳を感じる。
「しかし、隊長が人質に――」
「ほう、きさまは我の命に逆らうのか。いい度胸だ」
絵に描いたようなイヤな王様だ。
「我に逆らう愚鈍も人質に取られる足手まといもいらん! 早くその四人を殺せ!」
どうやら人質の効果は消えたらしい。
ギィ、キキキィッ!
再び鈍い音と共に扉が開かれる。
騎士団の援軍だと思ったのだが、入ってきたのは一人だけだった。
「報告します!! 王都南方より、魔王軍襲来! 魔王軍襲来!!」
「……」