15話 クロナミ隊
――俺は街の外に出た。
クレイザの街は王都と違って外壁があるわけではないので、明確に境界線があるわけではないが。
俺は街から少し離れたところにある、林に入る。ここが02たちとの集合場所となっている。
「ソウマ様、お待ちしておりました」
やっぱり、様と言われるのはむずがゆい。
「02報告を頼む」
「この街に来るまでの道中の襲撃者25名、本日の襲撃者5名全て、仲間に引き入れることに成功しました。これで我々の部隊は35人となりました」
素晴らしい、はじめは俺と最初の5人で対処していたから大変だった。
だが、ここまで人数が増えてしまえば、もはや襲撃者というよりドラス王からの援軍だな。
「で、この前30人いればこの国全体から情報を仕入れ、他国への介入もできると言ったな、その準備はできているか?」
「すでに作戦として開始しております。国全体からの情報収集、国所有の図書館からの情報収集、他国への情報操作すべて順調に進めております」
さすがだ、俺が指示するまえに、もう完了している。
ちなみに図書館というのは国が所有している施設で、あらゆる情報がそろっている。
この世界の歴史、魔物の種類、魔王軍幹部の戦闘スタイルまで豊富な情報があるらしいのだが、俺たちは王に勇者一行として認められていないので利用できない。
だったら、忍び込んでしまおうという魂胆だ。
「了解した。――それでだな、お前たちの部隊の名前をクロナミ隊に決めた。俺の苗字つまり、族名の黒瀬から取ったものなんだがどうだ?」
「我々の部隊名にご自身の名前を…… 感動しました!今すぐに部隊全員に知らせます」
「ま、まて。それは明日からで大丈夫だ。あともう一つ、お前たちは今日から暗殺者ではなく、忍びと名乗れ」
02は聞きなれない言葉に困惑している。
「忍びっていうのは俺の故郷の言葉で、人に知られないように隠れて物事をする、そして我慢すること、こらえること、という意味がある。お前たちが真の意味で自由になれるまで、忍びとして陰で耐え、そして戦い続けろ」
「忍び…… いい響きですね、ありがとうございます!」
「あと、ここに来るまでの道中に決めた部隊編成だが――」
「なにか問題が?」
「部隊それぞれに名前を付けたんだ、それと02、不本意かもしれないがおまえは今日からエルナと名乗ってくれ」
02は俺の護衛部隊の隊長で一番話す人間だ。
俺が番号で呼ぶのに慣れていないので毎回少しタメが入ってしまう。
それに――
「うれしいです、でも私だけ名前を名乗るわけには――」
「おまえにはクロナミ隊全体の隊長をやってほしい、エルナというのは光と言う意味だ。おまえにみんなの希望であってもらいたいんだ。そうすれば、たとえ俺が死んだとしてもクロナミ隊は一切の迷いなく進み続けられる」
正直、俺に100人(最終的に)の部下をもつ自信なんてない。
器でもない。
「隊長ですか…… 分かりました! エルナという名前を拝借します!」
これでクロナミ隊はより円滑に任務をこなすだろう。
「では、私が隊長ということは―― ソウマ様は総隊長? いや、総帥ですね!」
「え? いや、俺は――」
「そうと決まれば、みなに報告しましょう! 各部隊の名前も考えてくれたんですよね? 教えてください!」
――翌日、ミトハの部屋に行ったが旅立った後だった。
部屋には書き置きが残されているだけだった。
久しぶりに見る日本語に俺は少し、懐かしさを感じてしまった。
ちなみに、俺たちはこの世界に来てから異世界語を話せているが、読み書きはできない。
この数日で数だけは覚えたのだが、文字や文法は日本語とは全く違うので中々頭に入ってこない。
ミトハにはエルナに頼んで護衛をつけさせたので、大丈夫だとは思うが心配になる。送り出したのは俺だが……
――昨日のエルナの話によると、この国の剣術は集団で戦うことを想定されたものなので勇者向きではないとのことだった。
そして、ここより東の地に霞野村という村があり、龍月国出身の人が多く暮らしている村らしい。
なんでも、その村に勇者に剣術を教えるのにピッタリの人が住んでいて、ミトハがその村に向かうように誘導してくれるようだ。
剣術を習えと言ったのは俺なんだが、まさか街の外まで旅立っていくことは想定していなかった。
本当に一か月後に戻ってこれるんだろうか。
――俺はユフィナと朝食を食べた後、別れてギルドにきた。
ユフィナは元気になっていた。ボソボソと魔法について独り言を言っていたのは少し怖かったが、戦い方のほうも問題なさそうだ。
――ギルドに入ると昨日の受付嬢を見つけたので話しかける。
「お姉さん、ゴールドで一番難しい依頼を達成出来たら、五個達成しなくてもゴールドになれたりしませんか?」
お姉さんはこいつ正気かという目を向けてくる。
「そういった決まりはありませんので、簡単なものを選ぶことをお勧めします。まあ、ゴールドの依頼に簡単なものなどありませんが――」
俺は仕方なく依頼ボードの前まで来たが。
――読めないんだよな。
ユフィナを連れてくるべきなんだろうが、依頼が難しいと分かれば一人では行かせてくれないだろう。
俺は目の前にある依頼書を見る。
魔物のイラストがあるから討伐系なんだろうが――
数は1から100と色々だ。
ゲームだったら、強くても一体倒す方がいいんだが、ゲームはモンスターの場所が最初からわかってるからな。
まあ、俺は02たちのサポートだから悩んでも仕方ないか。
俺は目の前にあった三枚を適当に選んで、受付嬢に持っていく。
この国ではアルミラの森にしか魔物が出ないので、一度に複数の依頼を持っていくことは珍しくないらしい。
行って帰って来るだけで五日はかかるみたいだ。
もちろん取りすぎはもめごとの原因になるが、今の時期は依頼も豊富なので三枚くらいじゃ怒られないだろう。
俺は街の外でエルナたちと合流した。
今回、俺と共に森に入るのはエレナを含むクロ――近接戦闘隊の五人だ。
エルナ以外の四人は俺たちが王都を出た初日の夜に襲撃してきた四人だ。
会うのはそのとき以来だな。
それより――
「お前たち何で黒装束なんだ?」
「図書館を調べていた小隊からの報告がありまして、かつて龍月国にも忍者と呼ばれる影の存在がいたようでして、その者たちは黒装束だったという記録が残っており、私たちもそれに合わせてみました!」
昨日の今日でか……
こいつら、いつ寝てるんだ?
「いいじゃないか、白だと目立ってたし、これで王国のやつらとは明確に違う部隊だって見ただけでわかるしな」
たしかに忍びは黒だよな。なんで思い浮かばなかったんだろう。
「それで…… ミトハは無事、旅立ったか?」
「はい、現在も霞野村に向かっていると情報が届いております」
「――そういえばお前たちどうやって情報交換してるんだ?」
俺の質問にエルナは腰に着けている荷物入れから、何かを取り出す。
「このクロズクを使って情報を送りあっています」
うわ、ネズミか…… ネズミ苦手なんだよな。
あの尻尾がムリなんだ。あれ?
「ネズミかと思ったら違うな、そのギザギザの尻尾とトゲトゲした体毛」
「はい、魔物ですのでネズミとは根本的に違う生き物です」
エルナが言うにはこのクロズクという魔物は人間になつく数少ない魔物で、ギザギザした毛と尻尾には見る人間の認識を阻害する効果があるらしい。
そこにいると確信してみなければ認識することすらできないみたいだ。
このクロズクに情報を持たせて、情報交換を行っているということだ。
――そんな話をしているうちに森の入り口が近づいてきた。
もっと詳しく聞きたかったのだが、ここからは慎重に行かないとな。
俺たち六人は森へと入る。
――同刻、クレイザの街――
やっぱり、人を殺すときは首絞めだよなぁ。
「ヴァリディア様、これ以上この街の住人を殺すのはやめてください。そろそろ騒ぎになります」
私が日課の殺しを終えると、世話係のエシラスがまた説教してくる。
「しかたがないだろう、殺さないと外見を奪えないんだ。欲しくなったら殺すしかないんだ」
「それならば、街の外に探しに行きましょう。勇者もこの街にはいないようですし」
勇者ね。
「それにしても、相変わらずお前は醜いねー、そのままでいてくれよ?私は醜いものが大好きなんだから」
私が褒めてやるとエシラスは喜ぶ。ほんとにかわいいやつだ。
「まあ勇者は一か月後には現れるだろう、それまで適当に遊んでいるよ」




