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09話 暗殺者の選択

「――少し話をしよう」


 俺がそういうと、暗殺者三人は困惑する。


「話すことはない、早く殺せ」


 運んでいるときから気付いてはいたが――


 暗殺者は全員、少女だった。

 

 マスクで顔が見えないから、何とも言えないが俺より何個か年下だろう。



「――まあ、落ち着け。俺はあんた達を殺す気はない」


 この宣言はまずかったかもしれない。

 

 殺すという手札がない事を相手に教える行為――


 いや、俺は昨日までただの高校生だったのだ。

 拷問なんてできるわけもないし、見せしめに殺人ができるとも思わない。


 相手はプロだ。俺が小細工しても得られる情報はないだろう。


 それに中学の時の繰り返しはしない。


 ――俺に今できることは、正々堂々と正面からの交渉のみだ。



「我々は任務に失敗したんだ、お前に殺されなくても王によって裁かれる」


「俺が知りたいのはその辺だ。お前たちはなぜ王の命令を聞く? 俺はあの王様がこの国のことを考えているとは思わないぞ?」


 ――彼女たちは俺の質問に答えない。

 いや、答えられないのかもしれない。


 彼女たちはただ、下を向くだけ――


「質問を変える――お前たちは何がしたい?」


 俺が知りたかったのは、彼女たちが今ほんとうに欲しているもの。

 

 もし、彼女たちが王への忠誠心のみで動いているならば、交渉の余地はない。

 

 今すぐ王都から逃げるしかない。



 ――真ん中にいるロングヘアの子がこちらを向いて答える。


「故郷に帰りたいです……」


 どうやら交渉の余地はあるようだ。


 ――彼女たちの話――


 故郷というのは今、俺たちがいる国――グラン・ゾア王国の隣にある、龍月国という国らしい。

 

 かつては東に龍の国(・・・・・・)ありとうたわれたほど大きく強い国だったが、隣国のグラン・ゾア王国に戦いを仕掛けて大敗北。


 その敗北が原因で国力は減少し、領土を他国に奪われ滅亡しかけた。

 

 そして滅亡寸前でグラン・ゾア王国の属国となり、今の龍月国の領土は守られた。


 龍月国を属国とした理由は色々あるらしいいが、最大の理由は盾にすること。

 

 この世界において魔王領と接している国はこの国だけ。

 

 そのため、グラン・ゾア王国は魔王軍以外と戦争をする余力はない。

 

 そこで、龍月国を盾にすることによって、他国との戦争を回避している。



 ――また、属国の条件として優秀な人材を100名グラン・ゾア王国に提供するというものがあった。

 

 それが彼女たちである。


 彼女たちは王のために十五年間働くと、国に帰ることが許される。

 

 見返りは、故郷にいる家族たちの衣食住の安定。


「――なるほどな、大体わかった。一つ聞きたいんだが任務とかでお前たちが死んだ場合は故郷の家族はどうなる?」


「その場合も衣食住は保障される。逃げたり裏切ったりしたら殺される」


 つまり人質というわけだ。


「――提案だ、お前たち俺の部下にならないか?」


「私たちはおまえに恨みはない、そして任務に失敗した。だから質問にこたえたんだ。おまえに気を許したわけではない!」


「俺なら五年でお前たちを故郷に帰してやる。それどころか、かつての龍の国を取り戻してやる」


 俺の言葉に、彼女たちは困惑する。


 国に反逆なんて考えたこともないのだろう。



「それは――」


「この国の西には魔王領、東には龍月国なんだろ? まずは、魔王を倒して魔王領を(おさ)める。そして、魔王領と龍月国で挟み撃ちにする。龍月国にだって、反乱分子くらいはいるだろ? そいつらも操って戦争を起こさせる」


 ――三人とも顔を下に向け、何も言わない。

 考えているようだ。




「――無意味だ、私たちが裏切れば家族は殺される。このまま死ぬことが私たちに残された最後の任務だ!」


 たしかに人質に関しては考える必要がある。


 でも、こいつらならいくらでも方法はあるだろうに。


 王国最強部隊なんだろ?


「本当にそうなのか? 確かに、お前たちが死ねば家族は一生食っていけるんだろう。だが、お前たちの気持ちはどうなる? 故郷に帰りたいんだろ? 家族たちはどうだ? 子供を犠牲にして飯に困らなければ満足か? 娘に会いたいとは思っていないのか?」


「――そして、龍月国はどうだ? お前たちがここで立ち上がらなければ、この制度は続くんだぞ? 次に徴兵(ちょうへい)されるのはお前たちの姉妹しまいかもしれない、姉妹の子供かもしれない、友達の子供かもしれない。こんな現状を許していていいのか? お前たちには自国を憂≪うれ≫う気持ちはないのか?」


「そんなこと! 言われなくたって分かってる! でも……相手は世界最強の軍事力を持っている国だ! 私たち数人が立ち上がって何になるの!?」


 彼女の言いたいことは理解できる。


 ――でも、きっとそうじゃない。


 俺はこの一日で少しわかった。数人いれば充分なんだ。


 一人でさえなければきっと世界だってひっくり返せる。


 俺はあの三年間、間違え続けた。関係、選択、方法、全部間違えた。


 もちろん、そうなった原因もあった。でもそれは原因でしかない。


 行動したのは俺だから。そしてその間違いは一人じゃなければ起こらなかったはずだ。


 今日、ミトハと命がけで戦って、セレスタに助けられて気付いた。


 あの化物(かいぶつ)グラディスの魔力にも負けない、見えないエネルギーを俺はあの戦闘で確かに感じた。


 命がけだったからだと思ったが、こいつらを(むか)ったときは感じなかった。


 ただただ、不安しかなかった。


 だから、こいつらが一緒に戦ってくれたらもっと――


「俺たち数人は世界にとって、ちっぽけな存在か? 俺と勇者は召喚初日に幹部の右腕を倒したぞ? お前たちはどうだ? この国を守ってきた最強部隊なんじゃないのか?」


「――確かに、私たちは最強部隊だ。 でも、たったの五人ではあなたにも勝てなかった……」


「だから、その最強部隊の全員を仲間にするんだ。 俺たち勇者一行、この国を影から守ってきた最強部隊。世界をひっくり返す、その初動(しょどう)にしては過剰戦力かじょうせんりょくだとは思わないか?」


 ――自分で言っていて思う。きっとなんでもできる。

 

 あの魔女も頼み込めば力を貸してくれるかもしれないし。


「――私たちがしてきたことは無駄だったと? そういいたいのか?」


「無駄なことなんてこの世にない。きっとこの世界にも……、でも、家族や国を守りたかったのなら戦うべきだった。俺はそう思う。そして、それは今からでも遅くない」


「ムカつきますね。きっとあなたが正しいから、こんなに腹が立つんでしょう、自分に……」


 暗殺者は俺の目をみる。


「わかりました、私はあなたの部下として故郷のために戦います!」


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