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ぴゆうちやんととんちやん

〈雨上がり夕焼けに目を疑ふ日 涙次〉



【ⅰ】


 テオはサブスクに上がつてゐる、Eyeless in Gazaの「Changing Stations」を聴いてゐた。猫に無いもの、で、人間を羨ましいと思へるのは、音樂の才であらうか。そのナイーヴな音に暫し聴き惚れるテオであつた。

 その甘美な時間を破る者があつた。普通なら、テオ、怒るところだが、その(ぬし)が鎌鼬のぴゆうちやんだつたので、結局音楽の甘美さがぴゆうちやんのイノセンスに替はつた、と云ふ事に過ぎず、怒りはしなかつた。言葉の變な使ひ方となるが、テオにとつて、ぴゆうちやんは目の中に入れても痛くない、そんな存在だつたのだ。


「どうしたの、ぴゆうちやん?」‐「僕ておチヤンノオ友達見付ケタンダ」‐「友達? ならぴゆうちやんがゐれば結構だよ」‐「違フノ。動物ナノニ天才ナノ」‐「天才?」‐「ウン。ダカラておチヤンノオ友達」



【ⅱ】


 ぴゆうちやんが「發掘」してきたのは、「とんちやん」なる♂豚だつた。確かに天才だ。テオが出す髙等數理の問題も難なくこなすし、人間語でテオに(然もテレパシーで!)語り掛けて來る。こゝにも「過知能児」ありき、か。IQ200!!

 然し、彼・とんちやんが云ふに、「テオさんみたいに僕は周囲に惠まれてゐないんだ。屠殺場送りが関の山だよ」。テオは、彼より、より人間サイドに立つてゐる。極端な話、とんちやんが精肉にされたら、それを味はふ側なのである。テオはその事にショックを受けた。


 ぴゆうちやんの思ひ遣りが、新たなテオの悩みと化したのは、運命の皮肉だつたのだらうか。テオには、カネを支払つてとんちやんの身柄を確保する事は出來たけれど、彼がそれを断るだらう、と云ふ事も分かつてゐた。大勢の彼の仲間たちが屠殺される中、獨り自分だけが救はれるのは、正直云つて、「救ひ」ではないのだ。



【ⅲ】


「結局、きみはだうしたい?」‐「僕は出來れば、魔道に墜ちたいよ」。自暴自棄にとんちやん、陥つてゐる。テオには彼が自棄(ヤケ)になる理由は、分かり過ぎる程分かつてゐた。

 テオが、人間のやうに、カネで彼一匹助けたところで、同胞たちは、豚のホロコーストへと吞み込まれてゆくしかない。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈氣付きけり豚には豚の天國がつまりは豚の迷信ありけむ 平手みき〉



【ⅳ】


 魔界の者らは、耳聡かつた。所謂地獄耳である(これは洒落でも何でもない)。とんちやんをこの儘、魔道に引きずり込んでしまへば、今後色々と「使ひ手」がある、と踏んだのだ。

 魔界から、その名も「飼育係」と云ふ【魔】がやつて來た。「猫よ、お前如きにこの『とんさま』を渡してなるものか」-「とんさま」か。テオは、不謹慎だとは思つたけれども、薄く嗤う自分を押さへきれなかつた。


 養豚場の經營者と話し合ひ、とんちやんの命は、だうやら長らへる事が出來さうだつた。邪魔なのは、勝手に彼を崇拝してゐる、【魔】のみだ。テオは、この事は仕事(ヤマ)にせず、ご法度ではあつたが、「私闘」として片付けるつもりだつた。即ち、今回のエピソオドには、カンテラもじろさんも登場しない。



【ⅴ】


 テオには「飼育係」が、大した實力を持つてゐない、つまり【魔】としては恐るゝに足らぬ者である事は分かつてゐた。自分一人でも、()れる- その自信はあつた。


 秘密兵器「破邪の爪」を装着し、自らの夢に沈潜する... テオは、「飼育係」が姿を現はすと、獸の本性を露はにし、彼の頸動脈を「破邪の爪」で、切り裂いた。「ふぎやーお!!」【魔】は、呆氣なく斃れた。



【ⅵ】


 そして、知り合ひのペットショップに、とんちやんの身柄を移送した。こんな圖體のでかい然も♂豚を、誰が買ふのだらう、誰が飼ふのだらう、と思ひつゝも。


 ぴゆうちやん「ておチヤン、オ友達、助カツテ良カツタネ」-「うん。これもみんなぴゆうちやんのお蔭だよ」優しくテオは云つた。が、心には疾風が吹いてゐる-


 さて、今後、豚の「とんちやん」とテオが、だう触れ合ふか。天才動物ゆゑの悲哀を、とんちやんは負つてゐる。心の傷を癒すのは、テオの役割だ、と云ふ事ばかり、明白だつた。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈裏庭などある家ならよい竹落葉 涙次〉



 お仕舞ひ。NEKOさんに感謝します。

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