9 お迎えが来ました②
「ふむ、彼らなら、ハルーンから来た救助船に保護されて行ったぞ」
「ああ、良かった。でも、救助隊の方々は私たちのことは助けてくれなかったんですね」
「私のマルツィアに触れようとしたのでな、神の焔で脅かしてやったところ、尾を巻いて逃げ去った」
「そんな乱暴な!」
マルツィアの全身から、さあっと血の気が引いた。
魔術都市ハルーンの始まりは、かつて、本土の王が敵国に追いつめられていた戦乱の時代にさかのぼる。
敗北を覚悟した王は背に腹は代えられないと思ったのか、当時、国中から迫害されていた魔術師たちの力を借り、干潟に陸を作り結界を張らせて逃げ込んだ。その後、争いは無事終息。王を助けた褒賞に、魔術師たちは安住の地を手に入れたという経緯がある。
つまり、ハルーンに住むのは強力な魔術の使い手たちであり、ついでに、過去迫害されてきた歴史からか、かなり排他的な価値観を持つ。見知らぬ青年が魔術で攻撃をしてきたと知れば、大挙をなして敵を成敗しに来るのではないか。
「見つけたぞ、例の不審者だ!」
ほら見たことか! 何ともタイミングが良すぎる。
干潟の泥濘を魔術で焼き固めて足場を均しながら、数人の魔術師が迫って来る。すっかり晴れた青空から降り注ぐ陽光を浴び、彼らの指に嵌った金の指輪が光っている。魔術都市ハルーン総督府公認の高位魔術師の証である。そしてその一団の中には。
「……お父様」
いつでも魔術を放てるように身構えたまま、魔術師たちはマルツィアとミネを取り囲む。マルツィアの父、火の魔術の名門であるヴィスアニ家当主アウレリオが、感情の薄い冷たい青色の瞳でこちらを見下ろしていた。
父から愛情を注いでもらった覚えはほとんどない。もちろん、暮らしには不自由しなかったし、虐待されていたわけでもないのだが、およそ父子の情とは無縁の生活だったのだ。
だからマルツィアは、父のあの氷のように冷たい瞳が苦手だ。今も、父が何を考えているのかわからないし、背筋が冷えて微かに震えが這い上がって来るようだった。
そんな父アウレリオが一歩踏み出して、魔術師たちを代表して言った。
「マルツィア、その男は何者だ」
「えっと」
マルツィアはミネの顔を見る。そこで、ずっと彼の腕の中にいたことに気づき急に恥ずかしくなり、すっくと立ち上がった。
「この人はミネさんです。船が難破する時に私を助け」
「マルツィアの魂の伴侶だ」
「ちょっとミネさん⁉」
話をややこしくしないで欲しいのだけれど。
ミネの衝撃発言に周囲が騒つく。けれどアウレリオは一瞬頬を引きつらせただけで、次なる質問を放つ。
「伴侶。そうか、伴侶。……しかし我が娘は背中に刻印を受けし者。周知の通り、魔術師になれない者は本土送りになる規則だ。一方君はハルーンの魔術師なのだろう。それも、強力な火の魔術を扱う優秀な使い手と見た。魔術師は本土で暮らせず、非魔術師はハルーンでは暮らせない。つまり、添い遂げることはできないのだ。だから今すぐ離れろ」
「お父様、違うんです。この人は」
慌ててぶんぶんと両手を振り回すマルツィアをよそに、ミネが火に油を注ぐ。
「ほう、人間風情が神の行いに口を出すとは」
「神だと? なんと不敬な。戯言はもう良い。皆、この不届き者と愚かな娘を拘束せよ!」
アウレリオの言葉と同時に、魔術師たちの側にいた使い魔から陽炎のように魔力が滲み出て、人間らの身体を覆う。
「放て!」