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春の陽射しが心地よい朝だ。

蔵の鍵を開けて、風を通す。


「いい天気だ。」

天気が良いので蔵の掃除をして、付喪神達に日課の挨拶をした。


今日は、町まで出向いて蔵の掃除道具を調達しよう。

骨董品巡りもいいな。


途中でみたらし団子も買おう。

真朱は考えるだけで嬉しくて頬が緩む。


この間、臨時収入もあったことだしな。


浅葱からの依頼料は、3万円も入ってた。

封筒を開けて思わず、周りを見渡した。

こんな大金を何処に隠そう。


「浅葱、なんて太っ腹なんだ。」

真朱の中で浅葱の好感度が上がった。


真朱は、白の木綿のシャツとグレイのパンツを選んだ。

遠出をするのでブーツを履いた。

そして背中までの髪を後ろで、一つ結びにした。


財布を手提げ袋に入れる。

とりあえず、1000円分を小銭で入れておく。


真朱は脚に術を掛けると、町まで急いだ。



あの依頼から10日が経った。


付喪神の鑑定の仕事は、依頼がそんなに多くない。


副業でもしようか。

霊力の器を視る鑑定士はどうだろうか。


この間の依頼主がこの能力を特別だと言っていた。


真朱は目に霊術を施して視ることができるが、視れるのは大好きな付喪だけじゃない。


人の器は今までも視たことがあったが、どうやら結界も見れるらしい。


視るのは霊力を消費する。

普段は何でもかんでも視るわけじゃない。


だが、いろいろんな試してみるのもいいのかも。


山道を抜けて、しばらく進む。



だんご茶屋に到着した。

「だんご屋。吉」とのぼり旗が出ている。


吉の店主が店頭でだんごを焼いている。


茶屋傘の下に長椅子があってそこで食べれるようになっている。


口の中に唾液が溢れる。


「おばさん、団子くれ。」


だんご屋の店主をが真朱を見て意外そうな顔をした。

「おや、真朱ちゃんかい。前回来てからまだひと月経ってないよね。」

「うちはしがない団子屋だからね、ツケはないよ。」


「信用ないな、大丈夫。ちょっと臨時収入が…」

思い出し、またニマニマした。


あいつのお陰で、こうして時々思い出しては幸せに浸れる。


「とりあえず、串を3本とお茶をくれ。」


「締めて300円だよ。」


お金を財布から取り出し手渡す。


「本当に持ってたんだね。」

だんご屋のおばさんが、一緒に財布を覗き込んでくる。


真朱は長椅子に腰掛ける。


おばさんが、お茶と団子をのせてお盆で渡してくれる。

「まあ。ゆっくりしていってくれよ、天気もいいことだし。」

次の客が来ていたので、それだけ言うと立ち去った。


先ず、お茶を一口飲んで周りを見渡した。


湯呑をお盆に置いて、だんごに食いつく。

みたらしの餡が甘じょっぱくて美味しい。


遠くに山々が一望できる。

手前に視線を戻すと、木の間から湖が見える。


この団子屋はちょうど町へ出る時の途中の休憩にちょうどよい。


付喪神は、どれにでも簡単に憑く訳じゃない。


皆が年代モノの器物を持っているわけでもない。


時に悪さをするコも出てくるので、王宮なんかじゃ憑かないよう煤払いもやってるし。

仕事がなかなか来ないのだ。


結界師と組むのは悪くなさそうだと…思ったが。



真朱は10歳頃、訳あってツクモ鑑定士に弟子入りした。

80を超えるじじぃがただ一人の師匠だったし、世間と関わる環境じゃなかったので知識が偏っていた。


普通の常識に疎い。


接客業などは、到底自分には向いてないと思っていた。

生活費を考えると…


さて、どうしたものか。




「浅葱の恋人殿。」

最後の団子が喉に詰まりかけた。

しっかり飲み込んでから、声のする方を振り向いた。


斜め後ろに男が立っていた。


背中まである空色の髪が風になびていた。

立ち姿に品がある。


男は丈長の春用の薄手のコートとシャツ、ジャケットとパンツ姿だ。


どこかで、見た気が…。


「陰陽師さま?」

だったような気が…。

男が真朱に微笑んだ。


ここ最近で会ったことがある高貴で品のある人といえば、あの野狐の依頼の時に会った陰陽師しか思いつかない。


でも、だんご屋に来るかな。

高貴な人が来るような場所ではない。



陰陽師が手を上げて店主を呼ぶ。


「隣いいか?」

陰陽師が真朱に許可を求めた。


真朱は頷いたが、もうだんごを食べ終わってしまったので席を立とうとした。


「店主。私にも団子を1つ、それからこちらにも同じ物を。」


真朱は上げかけた腰を下ろした。


「私は、今だんごを食べ終わったところです。」

「奢っていただけるなら、まだ食べたことない汁粉で。」


「…店主。こちらに汁粉を1つ。」


「はい、ただいま。真朱ちゃん、臨時収入ってその人のことかい。」


「恐ろしいこと言うな、おばさん。」

「この人ではない、お気になさらず陰陽師さま。」


「他の客は後回しでいいから汁粉とだんごを早く。場がもたんだろう。」

最後のは唇の形で伝えた。


陰陽師が、真朱をじっと見て躊躇いがちに聞いてきた。


「君は、浅葱とはどこで知り合ったんだ?学院…ではなさそうだな。」


「ああ。警戒しなくていい。単なる興味だ。」


「嫌なら答えなくてもよい、ただ君は学院に通っているようには見えなかったから。」


ちょうど団子と汁粉が運ばれて来た。


それを受け取って箸を口を使って割る。


「汁粉いただきます。」

陰陽師に満面の笑みでお礼を言う。

ここの汁粉は初めましてだ。


そうだ、質問されてたな。

あの依頼主とどこで知り合ったか…だったか。


「この間、初めて会いました。」


横目で見て、顎をしゃくって陰陽師にも早く食べるよう勧める。


「君たち、あの日が初対面だったのか。」

陰陽師が大袈裟なぐらいに驚いた。


「そうですね。あの時は、ひどい目に合わされましたが、結果けっこうな額を上乗せしてくれたのでもういいんです。」


陰陽師が目を剝いた。


真朱がもう汁粉の団子を食べ終わった。

だんごは3個しか入ってなかった。

直ぐ食べ終わってしまった。

これで幾らぐらいなんだろう。


たまたま隣の客の注文を聞いていた団子屋のおばさんが、真朱の隣に座った男と真朱の話に聞き耳を立てていた。

真朱の金の出処が気になるらしい。


「君は、その。いや、出会って直ぐに恋人同士になるのに抵抗はないのか?」


真朱がお椀に残った小豆と汁を飲んだ。

もう無くなった…、意外と少ない。


「いや、でも…けっこうな額を上乗せしてくれた…ということは後腐れなく金で解決したという事か。その、彼のことは…もういいのか。」


陰陽師が串を手に持ったまま、なかなか口に運ばない。


食べないのだろうか…。


真朱は陰陽師のだんごを横目で見た。


食べてくれないと気になる。


真朱は陰陽師の手に握られた串に気を取られて、陰陽師の話しを話し半分で聞いていた。


恋人の話?

「なんですか、藪から棒に。出会ってすぐに恋人になるってこと?」


なんの話で出会って直ぐの恋人の話が出たんだろう。

まあ、いいか。


真朱は、自分が陰陽師から浅葱の恋人と勘違いされていることが頭からすっかり抜けていた。


「出会って直ぐ恋人のことですよね…。まあ、そういう人たちもいるんじゃないですかね。」

「私は別に偏見はありませんね。それとお金はあれば、あっただけいいです。大概のことは水に流せます。」


なんだ、恋愛相談か?出会って直ぐに好きなコでも出来たのか?

何で私なんだ。

お金の下りは何だ。

相手にお金を貸してるのか?


「とりあえず、恋人関係までなら良いのでは?結婚は出会って直ぐはお勧めしませんが。」


出会って直ぐの恋人に借金するようなやつと結婚はやめておくべきだろうと思いつい言ってしまったが、余計なお世話だったか。


もう汁粉も無いし長居は無用だ。


真朱は空のお椀と箸を長椅子に置いた。


「私は、先を急ぐのでこれで。汁粉ごちそうさまでした。」

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