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真朱が連れて来られた部屋は、20畳程の部屋で可愛らしいインテリアと色使いの部屋だった。
カーテンもベッドのカバーもパステルピンクのチェックだ。
ソファカバーも同系色で木目調のテーブルと合わせてある。
真朱は、目が点になった。
「お前の自室って、こんな可愛らしい空想的な感じだったんだな。」
「いや、いいんだ。人の趣味にとやかく言うつもりは無いが、ただ…贈った石が似合わんな。」
最後のは小さい声で独り言だ。
浅葱が信じられないものを見る目を向けた。
「真朱の部屋…だよね。どう考えてもぼくじゃないでしょ。」
真朱は呆れた顔をした。
「お前、目は確かか?このピンクの夢見るお花畑の部屋が私に合うと思うのか。」
真朱は気付いてないが、見た目だけなら似合う。
「それに私は、自分の家に戻るつもりでいる。」
「家の近くの結界が塞がれたら全て元に戻してもらうつもりだ。」
それは、昨日塞いだ。
が、しばらく黙っておこうと浅葱は思った。
そのまま、なし崩し的にここで囲う為に話題を変える。
父に意見した癖に自分のことは棚に上げていた。
「実は、あの洞窟から女の子が出て来たんだよ。」
「人間界の女の子だよ。」
真朱は目玉が飛び出るくらい驚いた。
「そうなの…か。」
背中に滝のような汗が流れる。
母が洞窟で転移を使ったのを思い出したからだ。
その影響では…。
「女の子1人だけか?」
「ぼくの家にいるんだよ。」
どう気になるでしょ、と浅葱の目が言っている。
食い付かずにはいられない。
「ここに?」
ヤバい、また浅葱に尻拭いさせている。
どうにもこうにも親子で浅葱に迷惑を掛けてしまうようだ。
真朱は動揺のあまり片言になった。
「ナニカテツダエルコトアルカ?」
「どうしたの?」
浅葱が覗き込む。
どうも直ぐ顔を近づけてくる。
癖なのか。
両手を突っ張って浅葱の顔を離す。
「私も手伝うと言っている。」
「じゃ、早速客間に行こう。」
浅葱が真朱を抱え込んだ。
「家の中なら転移じゃなくても__」
以前に一週間ほど滞在していたので、屋敷には少しだけ詳しいのだが、ここは初めて見る客室だった。
辺りを見回すと、落ち着いたインテリアの部屋だった。
あのお花畑の部屋は、私への嫌がらせか。
普通にこっちのほうがいいだろう。
「彗くん、お帰り。その子誰かな?」
奏がベッドに腰掛けていた。
真朱は声のしたほうを向いた。
ベッドが大き過ぎてそっちに先に目がいく。
大きいな何人用だ?
桔梗は、クローゼットの中を片付けていた。
真朱は浅葱がまだくっついたままな事に気付いた。
「離せ、浅葱。もう着いてるぞ。」
真朱が浅葱の腕を外そうとする。
なんだ今回はスッポンのように離さんぞ。
奏が2人の間に割り込んで引き剥がす。
「悪いな、ありがとう。」
真朱が奏に礼を言う。
浅葱が名残惜しそうに真朱を目で追う。
奏が浅葱に背中を向けて、真朱の前に立つ。
「私は、奏だよ。奏って呼んでいいよ。あなたは誰?」
「真朱という。何か力になれることがあれば是非とも言ってくれ。」
やましい事この上ないので最初から下出にでる。
浅葱が、諦めて1人掛けソファに座った。
「真朱、ぼくが彼女に常時結界を張ってるんだ。」
「視て。」
桔梗が浅葱に報告する。
「お食事は取られました。血管内の霊素量がちょっと心配です。」
真朱が目に霊紋を3つ展開して術練り上げを発動した。
奏をじっと視る。
「ああ、すごいな……編みの目が細か過ぎて一見すると結界だとわからない。境界に張ってるのとはわけが違う。」
「……霊素を通さないようにか。」
よく視ると霊素だけ弾かれている。
浅葱が嬉しそうな顔をした。
「よくわかったね、どう霊素を弾けてる?」
「ああ、そこは問題ないだろう。だがこのレベルのを長時間張り続けるのは集中力が切れそうだな。」
真朱がもう2つ霊紋を展開しその場で霊紋の配列をいじった。
そのまま展開して術を練り上げて発動する。
「ハハ、いけたぞ。」
「血液の霊素量が視えた。」
浅葱がソファから立ち上がり、真朱の側に転移した。
「君、今ここで霊紋作り替えたの!?」
「規格外でしょ。霊力量大丈夫なの?」
「真朱さま、奏さまの血液の中の霊素量はどうでした?」
桔梗が心配気に聞いてきた。
真朱が凝視する。
血液中の霊素は初めて視るがけっこう神経を使う。
「まだほとんど、混じってないな。」
「霊素が混じるとどうなるんだ?」
真朱が桔梗に何気なく聞いた。
「人間界に帰れなくなります。」
真朱は飛び上がった。
「奏、私がお前の力になるからな。気持ちを落ち着けるんだぞ。」
「真朱、私帰れなくてもいいよ〜。この彗くんが気に入っちゃたし。」
奏がヘラっとして答えた。
真朱は浅葱を見た。
クソっまた浅葱が犠牲か。
すまん浅葱…ここでも囮として期待していいか?
チラっと浅葱を見て、奏の方を向き直した。
「浅葱は男のわりに細かいところがあるが、いいのか?」
「細かい男、大好物よ。」
奏が狙いを定めた雌豹のような目をして浅葱を見た。
下から上まで舐めるように見る。
浅葱は背筋が凍った。
まさか自分を差し出したりは……と思い真朱の反応を見る。
真朱から人身売買組織の人間のような空気感が漂う。
「そうだな、細かいのも良く言えば気が利く言うことだし奏がいいなら……」
差し出す気満々の真朱の空気を感じ取った浅葱が強行手段に出た。
真朱の手を引いて、おでこにちゅっとした。
後が怖いので、おでこに留めた。
「残念だったね。」
「ぼくの相手はもういる。」
浅葱が真朱を腕の中に閉じ込めて、奏に流し目を送った。
ここぞとばかりに大人のお色気を出しまくった。
おこちゃまは手に負えない大人の男なのよ大作戦を敢行した。
真朱は浅葱に先手を取られたことに気付いた。
これでは貢ぎ物にはならないだろう。
高く売れるはずが今の発言で貢ぎ物としての価値を失ったのでは…なんとか挽回できないだろうか。
桔梗に助けを求める目を向けたが首を振られた。
真朱が恐る恐る奏の目を見た。
傷ついたのでは…と。しかし奏の目は予想に反して生き生きしている。
凄まじい色気に当てられた奏は自分のお株を奪われたと思い逆に闘志が湧いた。
今度は自分の色気に当てる番だと。
「彗くん、ますます私の好みだな!」
まさかの好評価に真朱は両手を上げて喜んだ。
そんな真朱を見て、浅葱は涙目でどこかへ転移して行った。
桔梗が不憫な目をして見送った。
真朱は、ちょっと動揺したが直ぐ考えを変えた。
浅葱の保身の為に、おでことはいえ唇が触れた。
なにせ、ツクモとしかしたことなかったのだ。
貢ぎ物としての対価としては十分だろう。