表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/85

43

枯野を出て、商店街を2人でなんとなく眺めながら歩く。

お昼時が過ぎて、飲食店の客足が引いてきたところだった。

枯野で思った以上に時間を使った。


ちょうど蕎麦屋と軽食屋の前で浅葱が真朱に尋ねた。

「何か食べる?」

「さっき骨董品をたくさん見たからな、まだ胸がいっぱいであまりそういう気分では無いが…」


通りすがりの若い女の子らが浅葱を見て頬を染める。

彼女らの手にはカップが握られていて、苺色に染まっている淡雪のような氷が入っている。

もう片方の手には木のスプーンを持っている。

「あれはなんだ?」


「ん?あれはいちごのシャーベットだね。食べてみたい?」

「初めて見た、興味がある。」

お店は直ぐに目で探せる距離にあった。


店は可愛らしい外観だ。


入口付近に立看板が出ていて、水風船の模様が描いてあり『氷菓子屋(こおりがしや) あんず』と色彩豊かに書いてある。


全体的に白の壁紙に赤やピンクの水風船模様で統一されている。

客層も若い女の子が多い。

皆一様に浅葱を見てざわつく。


店頭には大きめの水風船柄のパラソルがあり、

その下にテーブルと長椅子があった。



浅葱が、真朱をパラソルの下の長椅子に座らせた。

「そこに座ってて、ぼくが買ってくるよ。」


「いいのか。」

真朱に尻尾が見える。

嬉しくてブンブン振ってるように見える。


「フフ…わかりやすいな。」

浅葱は可笑しくて笑いを零した。


俯いて笑ったせいで浅葱の濃紺の髪が同色の睫毛にかかる。その奥のアンバーの瞳と濃紺の髪の色が対象的で美しい。

周りの女子が騒ぐ。


「そこから絶対動かないでね。」

しっかり念押しをする。


浅葱が屈んで、真朱の耳元に囁くように伝える。


「防御の結界を3重に掛けて離れるからね。真朱が動くと他の人に迷惑を掛けることになるからね。」


そのまま直ぐ術を追加で発動した。


すごい念の入れようだ。


「浅葱さま、過去に置き去りか何かされた経験でもあるのか?」

他人事じゃなく心配になった。


5分後ぐらいに、浅葱が愛らしいデザインのお盆にシャーベットの入ったカップを2つ載せて持って戻って来た。


真朱がそこにいるのを見て安心したような顔をする。


「お待たせ。」

カップの載ったトレーをテーブルに置いて、真朱の横に座る。


シャーベットを1個を真朱に手渡す。


「ありがとう、浅葱さま。」

真朱の目がキラキラする。

「いただきます。」


「うん、溶けないうちに。」

浅葱も極上の笑顔で答える。


周りの女子がそのやり取りを見て、自分のシャーベットを同じタイミングで口に入れた。


「甘酸っぱくて、冷たくて美味しいぞ。お前も溶けないうちに早く、早く。」

初めてのシャーベットに浮足立っていて、年相応に見える。


浅葱もシャーベットを木のスプーンですくって口に運ぶ。

「うん、美味しいね。」

動作がきれいだ。


周りの女子が、それに答えるように笑顔になる。


それからも浅葱の一挙手一投足に歓声が上がる。


「え、と。落ち着かないよね…ごめんね。」

浅葱が申し訳無さそうに謝ってきた。


確かに、店に入った時から周りの女子の視線がうっとおしい。


浅葱も苦労してるんだな、気の毒に。


しかもさっきよりギャラリーが増えた。



真朱はようやく、浅葱のシャーベットの氷の色が自分のと若干違うことに気付いた。


「浅葱さま、それ何のシャーベットだ?」

「気付いた?これは新商品らしいんだ。」

「新商品?」

「ぶどうらしいよ。」

「……」

それも欲しいとは口では言わないが目が言っている。

「半分食べたら、交換する?」

浅葱が提案してきた。


「い、いいのか。」

真朱は、感動した。

中等部の売店で女子同士がやってるのを見たことあった。

真朱はお金がなかったのでやったことが無かった。

実はちょっと憧れていた。


向日葵は真朱に輪をかけてドライな方なので、そんなことを言い出すこともなかった。


真朱は、溶けては交換出来ないと思い、できる限り急いで食べた。


浅葱はそれを見て、交換などと言わずもう1個ぶどうを買えば良かったと後悔した。


「浅葱さま、早く食べないと溶けてなくなっちゃいますよ。」

うきうきして知らず知らず普段より優しい口調になっている。


「良かったら、ぼくはもういいからお食べよ。」

餌付の感覚になってしまった。


先程と打って変わって機嫌が急降下した。

「浅葱さまは……半分こが嫌なのか。」


浅葱は自分の発言が失敗したことに気付いて、急いで軌道修正を掛ける。

「そんなことない、急いで食べるから待っててね。」


浅葱は、かき込むように必死で氷を口に運んでいった。

「よし。ちょうど半分だ。」

真朱はちょうど半分になるのを監視していた。


それから待ってましたとばかりに交換した。


「浅葱さまいちごの方をどうぞ。」

ニコニコしながらカップを交換する。


「ああ、ありがとう。」

どうやら正解だったようで浅葱は安心した。


真朱が手ぐすね引いて待ってる中で氷を食べるのは、浅葱の考えていたシチュエーションとはだいぶ違ったが、真朱は喜んでいるようなので細かいことを考えるのを放棄した。


周りにいた女子は、浅葱が氷を必死に食べるのを憐れみの目で見た。

彼女達も思っていたシチュエーションと違ったらしい。

後はそのまま散り散りになっていった。

気が付けば見物人もちらほらと2〜3人に減っている。

2人が店を出る頃、夕方に差し掛かっていた。


浅葱が手を繋いで2人に結界を掛ける。


「そろそろ戻っていい頃かな。」


「真朱先生。」

後ろから声を掛けられた。

振り返ると、蘇芳と梅芝が一緒にいる。


「先生達、デートですか。」

蘇芳の目が光った。


「蘇芳と梅芝は何してるんだ?」

2人けっこう一緒にいるよな。


「私達はデー」

蘇芳が待ってましたとばかりに答えようとする。

梅芝が蘇芳を遮った。

「単なる、係の仕事ですよ。買い出しです。」


「先生、それより家どうなりました?」


そうだった。

梅芝は一万円も募金してるんだった。

どうなったか気になるよな…。


「ああ…実は今は執務室に寝泊まりしてる。」


梅芝は耳を疑った。

「浅葱家、あんなに広いのに執務室ですか。親戚なのに屋敷に泊めてもらえないんですか?」



「梅芝くん…いろいろ事情があってね。」

浅葱が困っている。


「先生達、手を繋いでデートって堂々としてますよね。見られたのが私達じゃ無かったら噂になるところですよ~。」

蘇芳が話の流れをぶった斬る。


梅芝が蘇芳を無視して真朱に話しかける。

「先生家無いなら、ウチに来ますか?」

梅芝が同情してくれている。


そうだよな。


本当に親戚なら、被災してるのに家に呼んでもらえず執務室って体裁が悪いか。


「梅芝くん、一応ぼくも真朱も考えがあるのでその気持ちだけで。」


「そうです…か。」

梅芝は真朱の家の外観を見ているので心配していた。

「梅芝、私が行こうか?」

蘇芳が落ち込んだように見えた梅芝を気にして筋違いの提案する。

「蘇芳の家は立派だろう。蘇芳の家が募金が必要なほど被災したらな。」


「蘇芳、私は明日から3日間訓練室に行けないが桔梗さまから聞いたか?」


「聞きました!でも私、まだ先生の霊紋覚えてません〜。」

「そうか、お前には期待している。しっかり覚えろよ。」

「真朱先生、オレが責任持って暗記させますんで。」

「梅芝が?」

急に蘇芳が嬉しそうな顔をした。


「頼むぞ。」

真朱が梅芝を見て、一つ大きく頷いた。


「任せてください。」


「じゃ、蘇芳が覚えたら訓練再開だな。」


「ぼくたちもう帰るから、君らも遅くならないように帰ってね。また学院で。」


浅葱が2人挨拶をしてから真朱を抱え込んで転移した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ