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依頼主は仕度の為に屋敷の中に一人戻り、真朱は中庭で待つように言われた。



野狐(やこ)とは、妖怪の一種で人を化かしたりする。


妖怪は、霊素(れいそ)を好むと聞いたことがあるからそれで作物を荒らしたのだろうか。



この世界は、大気中に霊素が含まれていて人も作物も霊素を吸収する。

霊力を効率良く溜める為には、霊素は欠かせない。



最初に中庭に集まったのは警備隊が5人ほど。


警備隊の男達は、真朱を見て一様に嬉しそうな顔をした。


霊素の影響で多種多様の色素を持つ。

その中でも、真朱は白桃のような白い肌に漆黒のような髪、深い緑色の目を持つ美少女の部類だった。


髪は手入れされていないので艶こそないが、背中まである髪は髪質が細いせいで、きちんと手入れしていなくても柔らかそうに見える。


瞳が大きくて、小柄なためか庇護欲を掻き立てる容姿だった。



「今回の囮はこんな可愛いコが務めるのか。」

「まあ野狐なんてそんな大変なほうじゃないし。女のコがいた方がやりがいも出るよな。」

「後で声でも掛けて飲みに誘うか。」

「やる気が出てきたぞ。」


警備隊がけっこうな大声で話しているのが真朱の耳にも聞こえる。


陰陽師と巫女が転移してきた。

「浅葱殿はまだ支度か?」


先ほどの警備隊の一人が答えた。


「本日はコチラのお嬢さんが、囮役なのではないですか。先ほどから、このコと我々以外見受けられませんよ。」


「この娘が…?予定と違うが。」


囮など冗談じゃない。

真朱は話していた2人のところへ進み出た。


「私も場違いだと主張したのですが、どうしても囮をするのを傍で見てくれと頼まれまして。」


自分が言い出したんじゃないと声を張ってアピールする。


陰陽師の近くにいた巫女達が真朱の言葉にどよめいた。


彼女らは真朱の容姿に警戒した。


彼女らは、浅葱のファンだった。

今回も浅葱の直衣姿見たさに参加表明した。今日(こんにち)なかなか直衣姿など見れないし何と言っても美しい浅葱の直衣は目の保養だ。



「すまない。支度に手間取った。」


直衣をスマートに着こなした依頼主が階から降りて中庭の真朱達の近くまで来た。


巫女達から感嘆が出る。


浅葱は、手に数珠を握っていた。


先程視た中にあの数珠は無かったよな?


真朱は視た。

「ツクモだ。1体、増えてる。」

やっぱり付喪神憑きだ。


浅葱が、真朱のそばに寄って来た。


「ああ、ちょっと心許なくて。足してきた。」

「憑いてる?」

照れたように言った。


「これ以上増やしてどうする。」


真朱は依頼主の、腕を取って数珠を視た。


二人の距離が近かったせいか、後ろから猿の鳴き声に似た悲鳴と犬の遠吠えに似た嘆きが聞こえた。


浅葱ファンクラブの方達だ。


真朱はそれどころではなかった。

まだ、数珠のツクモには挨拶をしていない。

挨拶が先だ。



「これは、数珠の付喪神。あなたさまは今までお会いした、どの付喪神より貫禄があっていらっしゃる。ああ。ご挨拶が遅れまして真朱と申します。」


真朱が頭を下げた。


警備隊のいる方角から怒号と不満が聞こえる。

「なんだよ、デキてたのか。」「女連れで囮役かよ。」


陰陽師は耳を塞いだ。

「浅葱殿、今日はどうしたんだ。こんなんで大丈夫なのか。」

一人呟いた。



現場までは、この別荘から小走りで20分ほど行ったところにある。

警備隊は霊術で脚を強化して走って向かい、陰陽師と巫女は転移した。


真朱も移動の為に、脚を霊術で強化する。

裾を捲くろうとしたら腕を掴まれた。

「人力車の用意がある。乗るから引いてくれないか?」


なるほど、後にすぐわかる仕事とはこのことか。

しかし人力車を引くなど、一朝一夕でできる芸当ではない。

金平糖と引き合わんだろう。


「なぜ、先ほどの警備隊に頼まないのですか?」


真朱は自分が人力車を引くのに適任だと思わなかった。


「ツクモ鑑定士が…」

「長いんで真朱と呼んでください。」


「そう、か。真朱が引きたいかと思って。」

浅葱が、ちらっと真朱を見た。

少し真朱への警戒を解いたようだ。



真朱はピンときた。

そういうことか、これにも付喪神が…

先程の珠数といい、私の為に準備したんだな。



「もちろんです。」

期待を込めて視た。


「…憑いてない。まだ新しい。」


真朱は人力車に蹴りを入れた。


仕方ない引き受けた以上は仕事だ。


「依頼主、詳細な道案内をしてくれ。」


そして脚にかけた霊術に速度と強度を5倍増しに再強化して走り抜けた。

すごいスピードで通り過ぎていく人力車を見た人達は妖怪の仕業だと思っただろう。


先に出た警備隊と同じタイミングで到着をしてやった。

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