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藍白の両手に霊力が集まっている。
さっきよりペースが早い。
張り切り過ぎだ。
藍白の顔色が悪い。
「藍白、もう解放しろ。」
「先生、どうでしょう?」
藍白は浅葱に聞いた。
真朱が焦って口を出す。
「十分だ、一気に放出しろ。もういい。」
「怖い、どんどん来る、止まらない。こんなこと初めて。」
視ると、大気中の霊素が藍白の手に莫大な量吸い込まれて行く。
浅葱が思い付いたように言う。
「一セットやった後だからコントロールが利かないんだ。これは覚えがある。」
「ぼくはこのあと意識を失ったけど、こんなに早い段階じゃ無かった。」
「最初の訓練の効果が最大限でてるからこそ、このタイミングでの意識障害の予兆が来るんだ。」
「これは研究論文が出せそうだね。来て良かった。」
ここに鬼がいる。鬼だ。
「浅葱、藍白の止め方は?意識障害が出ないようにいろいろ考えて理論立ててきたんだろう。」
浅葱が両手に、結界を纏う。
「もうちょっとどうなるか見たかったな。しようがない。大気中の霊素をこれ以上取り込まないように結界を張ったぼくの手で閉じ込めようか。」
浅葱が藍白の手を、握り込んだ。
「浅葱先生。まだ気持ち悪いです。助けて…。」
「うん、落ち着いて。」
「真朱、どう彼女の霊力の吸収は止まった?」
浅葱の結界を張った手が藍白の手を包むことで、手から霊素が吸収するのを阻む。
「弱まって……今収束した。」
「藍白さん、放出すること出来る?ちょっとずつ。」
「器に許容範囲以上の量を一気に充溢してしまったみたいだな。」
「でも、これで分かったね。効率よくやれば無理なく満タンにできる。」
浅葱が一人納得している。
隣の藍白を心配してやれよ。
真朱は藍白の背中をさすってやる。
「そうだ、上手だ。ちょっとずつ流して楽なところまで。」
しばらくして、藍白は倒れ込むように眠ってしまった。
この部屋は霊力が溜まりやすいから、体内の霊力量の調整が取れたら目を覚ますだろう。
疲労の回復は睡眠が一番だ。
浅葱が膝枕してやる。
「浅葱、藍白は元々8分まで溜まってたから一回の訓練でも満タンにできたが……梅芝は満タンまで3回掛かってる。無茶はよくない。」
浅葱が思い詰めたように息を吐いた。
「でも、ぼくは無茶したよ。何年も。」
「本当はもっと早い段階で充溢していたのかもしれないけど、器も視れないから何年も無駄なことしていたのかも。」
浅葱の声が震える。怒っているのか。
「お前の研究のきっかけだから、悪い事ばかりではないと思えばどうだ。」
「真朱には分からないよ。」
浅葱が泣きそうに拗ねた。
「ただ、お前はこの訓練をしたとしても数日じゃ終わらんさ。お前の器は大きな湖程もある。深いし広い。」
「苦しまないなら、何年掛かろうが大したことじゃ無かった。」
「真朱が側で視て指導してこんな効率良く結果が出てる。闇雲にやってた今までのやり方って何だったんだよ。」
浅葱の声が滲む。
「泣くな、お前の器を引き継ぐ子が出来たときは私が視てやる。その為のお前の苦労であり、研究だったのだろう。」
浅葱の目から涙が溢れる。浅葱が俯いた。
「少しの間、ぎゅっとして。」
「仕方ないな。今回だけだぞ。」
真朱は浅葱の隣に膝を付いて、頭を胸元に抱き寄せ髪を撫でてやった。