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「ここか。」


依頼のあった屋敷は日本家屋で、竹垣の囲いが屋敷の周りをぐるりと囲んでいた。


隣町まで来るのに、霊術で脚を強化して来たので3時間位で着いた。


猿でも分かる地図のお陰で約束の時間より少し早く着いた。

これ位の日常的な霊術なら、学校で習うので造作も無く使えるし、霊力も対して減らない。


今日は、木綿生地の薄墨色のワンピースに黒のベルトをしていた。

ただ、すごい速さで脚を動かすのでワンピースの裾が邪魔になる。


ベルトに裾を挟み込んでいたから、裾を引っ張って整える。



後ろに人の気配がした。


屋敷の縁側に立つ男が見えた。

一部始終をガン見されていた。



「何か?」

真朱は男を見た。



「いや…。堂々としすぎだろう…。まあいい。」



こいつが依頼主か?


真朱はジロジロ見た。



男は、身長が高く均整の取れた身体付きだ。


黒がかった青色の長着に、べっ甲色の角帯を締め同色の雪駄を履いて粋に着流しを着こなしていた。


上流階級の者らしく着ている物にも品がある。


ここ幻昏界では、着物を着る者はそう多くない。


男は顔も無駄に美しかった。


柔らかそうな濃紺の髪は艶がある。

項が見える長さで整えてあり、清潔感が漂う。


濡れたようなアンバーの瞳に、鼻筋も通っていて唇は上品だ。



こんないい匂いのしそうな男を、真朱は初めて目にした。



「おい。お前が件の、鑑定士か?」



真朱は思った。

見た目が良くてもこの態度ではな。



「ツクモ鑑定士の真朱まそほという。」

素っ気なく答えた。


実は自分も同じような態度だが気付いてない。



「時間ぴったりだ。早速取りかかってくれ。」

男が縁側から手招きをした。



縁側から屋敷に入って、奥の間に通される。

襖を開けると、桐箱に紫の直衣が納めてあった。



真朱が桐箱のそばに正座して目を凝らす。

視るための霊術を目の奥で作動させる。



真朱の目が輝いた。


ここにまさかの運命の出会いがあった。

袂の近くを凝視する。



「……か。」



「か?」

男は警戒した。



今まで何度も鑑定してもらっていたが「か」で始まる結果を言われたことがない。



「か、なんだ?答えは、憑いているか、いないかだろう。」


依頼主がソワソワして隣に座って来たので、面倒くさくなった。ゆっくり視てたのに。


直衣を軽く持ち上げると、鈴がの音がかわいく鳴った。


「ここだ!」

真朱が直衣の袂に手を入れた。



「何だ!?」

男が何事かと警戒を強める。



探ると袂に鈴彦姫が憑いていた。

「きゃあああああああ。」

真朱は歓喜した。



「何!?どうした。」



依頼主が危険を察したのか、直衣を叩き落とした。



「私の運命がああああ。なんてことするんですか。」


真朱は依頼主を思い切り侮蔑の目で見た。


依頼主は真朱を奇異なものを見る目で見返した。



しばらく堪能してから、真朱は直衣を桐箱に丁寧に戻した。


「付喪は、10体憑いています。」

「お前、情緒大丈夫か?」



「そんなことより、直衣自体に1体、指貫に一体。袂に無理矢理縫い付けてある鈴と櫛に1体ずつ。それと、横に立てかける弓に一体、矢が5本に1体ずつ。」


「良かった、ちゃんと揃っているようだ。」


「付喪神多くないですか?」



「依頼主殿は、野狐が怖いのかもしれませんが、付喪神が変わりに戦うわけじゃないんですよ。」


「あくまで霊具を身につけると霊力がちょっと上がる程度です。器物が破れたり、壊れたりしたら付喪神は消滅します。」


「こんな嬉しげにどれもこれも持って行くって、子どもじゃないんですから。」




「しかも、着物の袂に縫い付けるなんて非道過ぎる。」

真朱は鈴彦姫に同情した。


「こんな酷い扱いしたらツクモに逃げられ…。」



何故だろう、付喪神がこの人といると居心地が良いと言ってる気がする。



「お前、」


依頼主は初対面時、かなりの間ジロジロ見られていたのもありまだ真朱を警戒していた。


「私は、お前ではない。」



「鑑定士、もしかして付喪神には感情があったりするのか?」


「今までの鑑定士は付喪神を道具と見ていた。お前のようにそんな心配しなかったぞ。」



「感情というほど複雑じゃありませんが…。」

「快、不快はありますよ。」


「そうだったのか…。」

依頼主がショックを受けたように驚いた。



「不思議ですよ、こんな環境なら直ぐ離れていっても良さそうなのに。」



真朱は興味本位から、さらにこの男を詳しく知りたくなり術を重ね掛けして視た。



「へー。依頼主さん、すごい霊力の器が大きいですね。ちょっとした湖くらいはある。」


真朱はここまで大きい器を初めて視た。


「霊力も器に一杯まで入ってる。器が大きくてもそれを満たすほど霊力を溜めれるって珍しい。」



霊力を溜める器は誰にでもある。


真朱はそれを可視化する特別な能力を持っていた。


器が大きい人ほど、霊力を容量一杯にするには鍛錬がいる。


普通に生活していても大きな器を満たすほど溜まることはない。


真朱は一人納得した。


「…なるほど、付喪神は霊力の多い人を好ましく思う傾向にありますよね。」


「だから付喪神の扱いが外道でも離れて行かないのでしょうね。」


「付喪神に好かれ体質ですよ。」



依頼主が真朱に近寄り小声で告げた。

「鑑定士、人の霊力の器も視えるのか?」

「それは、口外しないほうがいい。研究所に囲われるぞ。」



「こんな理不尽な状況知らなければ、披露する事の無かった能力です。付喪神が不快じゃないならいいです。」


「では私はこれで。」


真朱は手を出して報酬の催促をした。

そろそろ正座しっぱなしで足も痺れてきた。


今日は早めに家を出たので、まだ家のツクモちゃん達を愛でていない。とっとと帰りたい。


「まだ居てくれ。」


真朱が嫌な顔をした。


「追加の報酬を出そう。」

「いえ。けっこうです。」


「・・・鑑定士、このまま帰って、霊具が心配じゃないのか。」

「報酬は、そうだな。」


「これなど、どうだ?」



依頼主が、着流しの袂から円筒形の包みを出した。


見た目が、万華鏡のような筒だ。


中を開けて手のひらに取り出して見せてくれる。


「かわいい。」


中には色とりどりの小さな星型の金平糖が入っている。


従兄妹(いとこ)にやろうと準備していたのだが。」


二粒ほど、真朱の口に入れてやる。

甘くて美味しい。


「わかりました。なぜまだ私が必要なのか分かりかねますが、もう少しお付き合いしましょう。」


「何、すぐわかる。報酬は最後に渡そう。」


やっぱり

「偉そうだな。」

金平糖を噛み砕いた。

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