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「待ってくれ。」

先ほどの守衛に追いつく。


「大丈夫です。先ほどのことでしたら、口外しません。」

守衛が振り返り、ビクつく。


一応、腰から下を見ないように目線を真朱の頭の辺りに固定する。


「ああ。」

窓から出ようとしたことか。


「黙っていてもらえると助かる。」

今日一番の笑顔を見せる。


守衛がコクコクと頷く。

いい奴だ。

こいつなら快く頼まれてくれるはず。

真朱は、確信した。


「頼みがある。私を浅葱の執務室の、窓の真下に連れて行ってくれ。」




やはり、案内を頼んで良かった。1人ではこんなに早く辿り着かなかっただろう。


繋いでいた手を握りこんで、挨拶する。

「守衛さん、ありがとう。あなたは恩人だ。」

「では、お先に失礼します。」


脚の霊術をさらに10倍に強化する。


今日の訓練で思ったが、自分の推測以上に使える霊力がありそうだと思った。


初めてだが、この10倍強化はしてみる価値がありそうだ。


真朱は、執務室の窓を閉め忘れて出て来た。

窓から、浅葱が覗いていたがこの時は気付かなかった。



昨日より早く帰宅出来た。

とりあえず、食事だ。


「流石に大気に含まれる霊力だけじゃもたん。しかし10倍もいけるにいけたが、脚が怠い。」


桜餅を食べた。


桜餅は幻昏界で作られたものなので霊力が含まれているので、僅かでも霊力が回復する。


「そうか。今日は霊力をかなり使ったのか。」

「だからか、まだお手洗いに行ってないな。桜餅も食べたし、行っておくか。」


基本的に霊力はまず基礎代謝に使われる。


自分で食事を摂ったり、睡眠を取ったりして補う。


訓練次第で意識的に大量の霊素を取り込み霊力に変換して器に溜めることもできる。


そして消費が激しいと、排泄に回らなくなるのでお手洗いの回数が減る。





次の日の朝は、蔵の掃除と霊具への挨拶と朝食を摂った。

ルーティンは大事だ。

手紙を一通認め家を出る。


霊術で脚を強化して、学院に向かう。


途中の郵便箱に手紙を投函。

明日には届くだろう。


だいぶん道を覚えた。

昨日より30分は短縮出来たと思う。


今日は、薄墨色のワンピースにブーツだ。

ベルトから、捲り上げていたスカートの裾を下ろす。


服が足りない。

明日はどうしよう。


帰りはシルクのワンピースを洗濯屋に出さなければ。

紙袋には借りたシルクのワンピースが入っている。


「真朱ちゃん、おはよう。今日、道案内はいる?」


「梅芝か。おはよう。いや、守衛さんに頼もうと思って昨日話をつけたんだが…。」


梅芝のプラチナホワイトの髪が朝日に当たってキラキラしている。


「俺、送るよ〜。浅葱んとこだろ。」

ひらひらと手の平を見せる。


「そうか。悪いな。」

怖いぐらい自然に手を繋ぐ。


長い廊下を真っ直ぐ行って、最初の角を左折して階段を3階に登る。


ここまでは、なんとか覚えた。


「おはよう。あれ、梅芝と…真朱先生!」

蘇芳が興味津々で2人を交互に見る。


「蘇芳、早いな。こっちの校舎になんか用。」

梅芝が繋いだ手を自分の後ろに隠して聞く。


「なんか…2人距離近くない?梅芝もこっちに用無いでしょー。」

蘇芳茜が怪しむ。


方向音痴で学院内でも道案内人がいる先生、と噂になれば不味いのでは。


手を離して立ち去るべきか。


真朱が葛藤していると、聞き覚えのある声で名前を呼ばれた。


「真朱先生、こちらでしたか。探し回りましたよ。」

守衛さんが、階段を駆け上がって来てくれる。


「守衛さん!」


真朱が、梅芝の手を解いて守衛に駆け寄る。


「私が迷子みたいな言い方は止めてください。」

「すみません。じゃあ、お待たせしました。とかでいいですか。」

「今後はそうしてください。」

ヒソヒソ話す。


「真朱ちゃん?」

梅芝が急に離れて行った真朱と、守衛を見る。


「梅芝、また訓練の時に、な。」

暗に言葉に迎えに来いと匂わせる。




真朱は守衛に浅葱の執務室の前まで送り届けてもらった。


「ありがとうございました。」

「このことは秘密でお願いします、また明日もいいですか。」


真朱は守衛の手を握りしめ真剣に頼む。


「何のことですか。」

浅葱が2人の打ち解けた雰囲気に怪訝な顔をして聞く。


「どうしてここにお前が…。」


真朱の顔色が悪くなる。

見られた…。


真朱が握っていた手を勢いよく外す。


守衛の顔色も悪くなる。

昨日の2人を見て、親密な中だと誤解していた。


「どうしてここにって真朱さま、ここは彗さまの執務室前です。」

「我々が、ここに来るのは当然です。真朱さまこそ、逢引はこっそりとしてください。」


逢引も何も、相手は60をとうに超えたオジサマである。


「桔梗、言葉は選んで。」

「変な噂が立ったらどうするの。」

浅葱が桔梗を(たしな)める。


「おいで。」

守衛には一瞥もくれず真朱の腕を取って執務室に入る。


従者の桔梗が扉を閉めた。


「仕事の依頼だ。」


真朱が浅葱を見上げた。


「知っている、梅芝がもうすぐ来る。」


浅葱が真朱の腕を軽く掴んでソファまで誘導して座らせる。


「そっちじゃくて、ね。夜雀が出たらしいんだよ。また囮の依頼が来て。」

浅葱も対面に座る。


「ツクモ鑑定の方か。」


「今回は、鑑定は大丈夫。」

「鑑定士が同行してくれれば、結界の綻びだけ直せばいいから霊具を破壊することはないよ。」


「わかった、同行しよう。まさか、また車を引かせる気じゃないだろうな。」

疑いの目を向ける。


「今回は君が来てくれるなら、結界を全てに張らなくていいから転移で行こうかな。」


「何時からだ。」

「夕刻、5時だから学院終わってからだ。」

「場所を、守衛に伝えろ。」


「はい?」


これだけは譲れん。

地図があれば、なんとかなるかもしれんが…。

現場に間に合わなくなると困るしな。



コンコンコン

「真朱ちゃ…真朱先生、梅芝です。」


執務室の扉が開いて、梅芝が顔を出す。


真朱が席を立つ。

「来たか。じゃあ、訓練に行って来る。」


「あ、ああそうだね。」

浅葱は出て行く真朱を見送った。


「桔梗、お茶淹れて。それと、今日は先に帰ってていいから。」

「たまにはゆっくりして。昨日ここで寝てたよね。」










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