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真朱は、脚を強化して町まで出てきていた。


「二度と来るな。貴様は人との約束をなんだと思っている。連絡も寄越さず不愉快だ。この辺りで商売なぞ出来んと思え。」

「申し訳ございませんでした。」

頭を下げる。

「ツクモ鑑定士なぞ他にもまだいる。思い上がるなよ、小娘。」


「つまみ出せ。」

若い使用人が、真朱を門扉まで引き摺って背中を強く押して追い払う。

脚がもつれて倒れ込んだ。


真朱が再度頭を下げて去るのを確認して中に戻って行った。


「しようがない。」


浅葱に連れて行かれた日、鑑定の仕事が入っていた。


うっかり眠ってしまい連絡を忘れた自分の落ち度だ。


「困ったな、あの依頼主はこの辺りに影響力のあるじじぃだったのに。もう仕事が来ないかも。」


ますます、別の仕事も探さないとな。


真朱は、疲れていたので家に戻って泥のように眠った。




朝から良い天気だ。

川岸に腰を掛けて、足を付ける。


「今日は、先に禊をしよう。」

川の中にズブズブと入って行く。

肩まで浸かって泳ぐ。

気持ちいい。


「鑑定士。」


この川は少しだけ流れがあるので、水が濁らない。

底が透けて見える綺麗な川だ。

小石やら小さな魚が見える。


「鑑定士。」



足の甲が水面を叩いて勢いよく潜る。


川底を触りたくて潜った。


しばらく川底に居て、水面を見上げた。


水面の光りが川底にも届いて綺麗だ。


バシャンと音がしたが、水底にいたので気付かなかった。


目の前で、濃紺の髪が水に揺らめいている。

アンバーの瞳と目が合った。


腕を掴まれた瞬間、転移された。


川岸にいた。


「長い、溺れたかと思った。」

「とりあえず、服を着替えて来て。」


真朱は目の前の男を見上げてうんざりして、つい口から出た。

「あのなぁ。」

髪からポタポタと肌を伝って水滴が落ちる。


怖い…禊をすると、何故かこいつが来る。


「従者を玄関に待たせてる、入れてやって。ぼくも直ぐ戻るから。」


「何の用だ。」


「この間の依頼料の支払いと仕事の斡旋で来た。」

「よし、着替えて来る。」

「頼む。」

それだけ言うと何処かへ転移して行った。

着替えに戻るのだろう。


玄関のドアを開けると、この間の従者が立っていた。

「おはようございます、真朱さま。」

「どうぞ。」

今日は手ぶらか。

居室に通して、椅子を勧める。


呼び鈴が鳴った。

「早いな。開いてるぞ、勝手に入ってくれ。」


お茶を淹れる準備をしながら、玄関に声を掛けた。

そんなに広い家じゃないので、充分声が届く。


「済まない、では遠慮なく。」

声が浅葱じゃなかった。

居間に入って来たのは、陰陽師だった。


「ああ。浅葱殿の従者も居たか。」

「ええ。涼風さまがこのようなあばら家になんの御用で。」

桔梗、失礼だな。

お前が言うなという目を送る。


「涼風さま、すみませんね。気が利きませんで、こちらへどうぞ。」

桔梗が気を利かせて、自分の席を譲る。


助かった、家に椅子は3脚しかない。

未だ嘗てこんなに人が集まったことが無い。


「浅葱殿の恋人の家に何度も訪問するのも、はばかられたのだが、昨日の町でのやり取りをちょっと見てしまってだな。」


「私を尾行なさったのですか?」

真朱が手にとった茶筒を握りしめた。


「いや、すまない。それでだな、家で働かないか。」

「は。」

真朱と従者が声を揃えた。


「これ、良ければ桜餅だ。」

真朱の目がわかりやすく輝いた。

「陰陽師さま。昨日といい今日といいお気遣い感謝いたします。」

「好きか。」

「もちろんでございます。」

受け取ろうと手を出す。


「お待たせ。お土産と依頼料だよ。」

浅葱は、以前に自分が座った席を目印に転移してきたらしく、ちょうど真朱と陰陽師の間に転移して来た。


真朱がちょうど手を出したところを見て、浅葱がそのまま真朱の手にお土産を渡す。


「これは、クッキーか。」

透明の袋に入っていた。リボンが付いていて可愛らしくラッピングされている

「うん、やっぱり知ってたね。驚かせがいがないなぁ。」

「浅葱殿…。いくら恋人の家でも室内転移は…。」


「あれ、涼風殿。昨日謝罪に来たんですよね。まだ用がありましたか?」


従者が、口に手を当てた。

浅葱が恋人の下りをスルーしたのを見て面白いことが、起こっていると思った。


「いや、私の用は終わった。考えておいてくれ、邪魔した。」

「なんのお構いもせず。」

玄関まで見送る。

「後で、食べてくれ。」

そう言って玄関を出たところで転移した。


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