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真朱は、2煎目のお茶を淹れる。
「はは、いや君にお礼を言う目的が一番だが…聞きたいこともある。」
「お礼については、先ほど過分なほどいただきました。」
最敬礼など生きてて初めて目にした。
「それで、私に何を聞きたいのでしょう。」
だんごを取り分けて目の前に出した。
10本もある。
「すまない…昨日の私に憑いた妖怪だが、妖怪なら視えるはずの浅葱にも、私にもその姿が視えなくて。」
ちょっと考えて口にした。
「…昨日、何かに触りませんでしたか?」
「そうですね、屋敷以外で。落とし物とか。」
真朱がだんごに手を伸ばす。
涼風は昨日の事を思い返した。
「そういえば、櫛を拾った。」
「陰陽師さまも召し上がってください。1人じゃ食べにくいです。」
涼風がだんごを手に取る。
「櫛、拾ったのいつですか?」
真朱が、だんごを一つ食った。
「君とだんご屋で別れた後だ。」
真朱がだんごを飲み込み、口を空にした。
「なるほど。これは推測ですが…。」
ゆっくり間を取り茶を啜る。
団子の余韻を楽しむ。
美味しい。
「櫛を落としたのは若い娘だと思いますが、合っていますか?」
「ああ。たしかに20前後の娘だった。」
「あの時間に若い娘が1人で、だんごを食べる為だけに町からだいぶ離れている吉まで行くというのは考えにくいです。」
串に残ってる団子を見る。次を食べたい。
「春先とはいえ、町から来るとなるとまだ薄暗いうちに家を出ることになります。若い娘は、普通はそんな時間の外出は躊躇します。」
真朱は自分のことは、棚に上げた。
「そうすると目的を持ってあの時間に吉にいた。多分、陰陽師さまの行動を把握していたのでしょうね。先回りしたのか、後を付いていったのかは分かりませんが。」
ようやく、もう一つだんごを食んだ。美味しい。
真朱が自分の買っただんごを美味しそうに頬張るのを見て笑みが溢れる。
「良かったら、食べてからでも。待つよ。」
一本食べ終わるまで待ってくれた。
紳士だ。
「お待たせしました、ちょっと長くなりますが。偶然ですがあの日、私と陰陽師さまは一緒の長椅子に腰掛けてお茶を飲みました。」
「櫛の娘がそれを見て、嫉妬したのだと思います。彼女は櫛を外出先に持って出るほど大事にしていた。」
「その彼女の嫉妬の感情を櫛が吸収してしまったのではないかと。櫛が陰陽師さまに取り憑こうとしたのは、娘の執念だと思います。」
「櫛は年代物だったのでしょう。彼女の負の感情が強くて、怨霊化したんじゃないでしょうか。」
「妖怪じゃなかった。だから浅葱さまと陰陽師さまには姿が見えなかった。私には女に見えました。」
「なるほど…。君はなぜ視えたのか聞いていいか?」
探るように、真朱を見た。
「ツクモ鑑定士なんです。憑き物を視るのを生業にしてますので。」
「付喪神と怨霊は性質が違うと思うが…。」
そうなんだよな〜。
何故か野狐の件からいろいろ視えることが判明してる。
「そうですね、何故か視えたんですよね。私にも、よく分かりません初めて視たもので。話は以上でしょうか。」
チラと、時計を見た。
「すまない、長居してしまった。」
「私は、これから町に用があります。人と約束がございますので、今日はお帰りください。」
何故視えたか、深堀りされても面倒くさい。
「良ければ、送るが。」
「霊力を温存してきた。2人ぐらいなら飛べるが。」
「お気持ちだけで。」
有無を言わさない笑顔を向けた。