シーラン
「はぁ、はぁ‥‥ガハッ」
私は死ぬのが怖かった。
「はぁ、はぁ」
痛いのは嫌だし、つらいのは嫌だし。
刺激的な光景は見てて不愉快だし‥‥。
「‥‥‥はぁあああ!」
でも、もう慣れた。
だって私は最強戦闘員だから‥‥。
そんな私は今、ウェポンを殺してる。
最強戦闘員の階級になって一週間とまだ間もない私、シーランは目の前で轟々とする鬼形のウェポンを前に剣を構えている。
「‥‥苦しまないように‥‥はぁ‥‥殺してあげる‥‥」
私は腰を低くし足全体にエネルギーを貯める。
エネルギーの量は莫大なものであり、地面を大きく振動させる。
「‥‥さようなら‥‥はぁ‥‥ウェポン‥‥」
私は貯めたエネルギーを一気に解放させて、音速を超えるスピードでウェポンに接近する。
私の体は空気との摩擦で炎を発生させ、より攻撃を壮大なものにする。
そして勢いよく接近した私は素早く剣を振り、ウェポンの核を破壊する。
「グォオオオオオオオオオ!」
激しい断末魔は私の耳をつんざくほどにうるさかった。
「‥‥喉も切ればよかった‥‥」
私は鞘に剣を戻し、腰に掛けて要請した送迎用ヘリコプターが到着するまで待機する。
『シーラン戦闘員の無事を確認。安全なところに着陸する!』
ヘリコプターのプロペラからの激しい風で私の服はなびく。
「シーラン戦闘員、ご搭乗してください」
「‥‥」
私は足の疲労など気にせず、駆け足でヘリコプターに向かう。
ヘリコプターに搭乗すると中にはほかの戦闘員が乗っていた。
その中には最強戦闘員が一人混じっている。
「シーランか‥‥随分とてこずったらしいな‥‥っふ」
最強戦闘員ゴードが足を組みながら私の姿を見て鼻で笑う。
別に何とも思わない私は言い返すことはせず、無視して空いている席に座る。
「ふははは!無視とは面白い。さすが俺の次期嫁だ!」
「‥‥‥私は‥‥何でもない‥‥」
私は何か言おうとしたが思い出すことができず言うことができなかった。
「なんだ?俺が見込んだ女は幸運だぞ?ふははは!」
「‥‥でも、私は‥‥」
でもこれだけは覚えている。
私は過去、ある人に助けられた。
その人の存在は忘れることはなかった。
しかし、姿や声、特徴的な動きなどはもう何も覚えていない。
だから、その人に会うまで私は誰も愛さない、そう決めた。
「まあいい、もう俺の中で決めていることだ。今度から嫁と呼ぼうか!ふははは!」
「‥‥‥どうでも、いい」
「そうかそうか、では嫁よ。その美貌はどこから来たのだ?ふはははは」
彼はどうせ外見で判断しているのだろう。
「‥‥‥」
私はとりあえず彼に耳を貸すのをやめて外の景色を眺めた。
彼に会いたい。一目でいいから会いたい。
そんな気持ちはいつまでも私の中から消えることがない。
消すつもりもない。
「緊急事態!前方にウェポンの出現を確認した!戦闘態勢に入ります!」
ヘリコプターは一瞬横に大きく揺れ、中にいる人たちは激しく振り回される。
「‥‥ウェポン‥‥」
私はその場の席から立ちあがりヘリコプターの窓からウェポンを観察する。
その時、横腹に嫌な感覚を覚えた。
「落ちないように支えているだけだ、嫁‥‥」
「‥‥‥」
振り向くと、私の横腹を手で押さえ落ちないように支えているゴードの姿がそこにあった。
「‥‥‥!?‥‥は、はなして!。接触は‥‥誰であろうと‥‥好まない‥‥」
私はゴードを勢いよく払ってしまう。
「‥‥‥ごめん‥‥痛かった?」
私は衝動のあまり、勢いよく払ってしまったことで彼の手が痛んでないか心配する。
「‥‥ふははは!顔を赤らめる嫁は、最高だぁ!ふはははは!」
「‥‥‥」
私は気色悪く感じて軽蔑するような目で彼を見る。
「‥‥もういい、今は‥‥緊急事態だから‥‥変なことは‥‥やめて‥‥」
「そうだな、わるいわるい。まあ俺が戦闘指示してくるから、嫁は座っていろ。ふははは!」
「で、でも‥‥」
「うるせぇな!」
ゴードは私の肩を掴み勢いよく座席に座らせる。
「お前は休んでいろ。戦闘後だろ?ふはははは」
ゴードは身を翻し、操縦士のほうへ向かう。
「‥‥やめて、これ以上‥私を‥‥気遣わないで‥‥」
私はそう小さくつぶやくのだった。