第五話 模擬戦
俺はベットの上で目を覚ました。そして自身が昨晩に先生に言われたことについて考えながら天井を見つめていた。俺はメリュルに命を助けて貰ったためか、彼女を信じたいと考えていた。わざわざ疑心暗鬼になる必要もないだろうと考えながら朝食を食べるためリビングへと向かった。
◇◇
陽光が訓練場を照らす中で先生とメリュルは剣を構えて向かい合う。そして俺はそれを訓練場の外から見ている。先生は木刀をメリュルは魔具である大剣を構える。先生はハンデと言って魔具を持たせていたが恐らく自分を殺せる武器を使わせて、メリュルは自分達を殺すのか見極めようとしているのだろう。
「ちょっと、緊張するな…… でも憧れの人に稽古をつけてもらえるなら本望! 全力でお願いします! 負けはどちらかが認めるまでか武器を手放したらで!」
「まあその程度の実力で俺様に追いつけるとは思えんがな。勿論魔力を使っても、魔具の特性を使っても良いがな。まあ格の違いを教えてすぐに負けを認めさせてやろう」
先生はなんか絶妙にダサい台詞を言った後俺に向かってめくばせをする。怪しい動きが見えたら報告しろという意味なのだろう。正直見るからにワクワクしているメリュルからは怪しさを感じれないけど。
「先手は譲るよ、俺様は迎え撃ってやる」
「じ、じゃあ行きます! 勝ちますから!」
そう言ってメリュルは大剣に魔力を注ぎ一気に距離を詰め、振り下ろす。そして先生は木刀で受け止めるも余裕で粉砕され、一気に大剣は先生の顔に近づき髪を掠める。
「危な! えっちょっと待ってくださいよベイルさん! 避けないと危ないじゃない!」
「いや〜剣が速くて避けれないと思ってな」
「嘘つかないでください! アイスドラゴンの単騎討伐できたならあの速度くらい簡単に避けれますよ! それに戦闘慣れしてるなら木刀であの一撃は防がないはずですもん!」
「いやはや、俺様の武器は壊れたし戦闘続行できないし負けかな〜、残念だが次回は頑張るよ。じゃあ次はクロの番だ、こっちにこい!」
俺は手招きをされて先生の元へ駆け寄ると、先生は耳元で囁いてきた。
「あいつ、俺様に当たりかけてガチで焦ってた。今回に関しては多分白だ。でも白よりのグレーなだけで黒かもしれん、引き続き俺様は探りを入れるが少しは安心しても良いかもな、あと今話してる内容について聞かれたら誤魔化せ、頼むぞ」
「はい……」
「じゃあこい! お前は魔具によってどれほど強くなったのか、俺が調べてやる。先手はメリュルと同様に譲ろう!」
そして俺は先生と向かい合う。俺は魔具を、先生は腰に携えていた新しい木刀を構える。そしてどう動くべきか考えているとメリュルが横から割って入って来て先生に抗議し始めた。
「ちょっと、ベイルさん! なんで私はわざと避けないせいで剣が折れて戦闘続行できないのにこいつの番になるんですか? 不平等な気がするんですけど」
「すまんな、こいつが弱いのは知ってるだろ? ハンデだよハンデ。まあこの後ちゃんと手合わせしてやるから」
「えっ、本当ですか! ありがとうございます!」
「ぶふっ」
「何だよあんた何が面白くて吹き出してんだよ」
「いや猫を被ろうとしても口調が誤魔化しきれてない辛さ」
「なっ…… ベイルさんとの手合わせ終わってボコされた後更にあんたボコしてやろうか?」
「いや、遠慮しとくよ。先生とこの後戦うならこの試合見ておいたら?」
「わかったよ。大人しく待っとく」
俺はメリュルが猫を被ろうとしても偶に本来の口調に変わるのが面白くなって少し笑ってしまったが、再び先生と向き合う。魔力を使用したとしても全ての面で先生が十中八九上な筈なのでゴリ押しよりも搦手を使い有利な場面を作り続けようと考え、ゆっくりと後ろへ下がる。
「どうした? 威圧感に怖気づいたか?」
「まあ、そんなもんですかね……」
そういった瞬間地面に剣を突き刺し、エア・バーストと同じ要領で魔力を放出する。そして地面は一気に爆ぜ、砂が空中に一気に舞う。
「疑似的な煙幕か? 確かに魔具を持っていなきゃ人族は魔力探知できねぇから不意打ち上等なら最適解だな……
けどよ? 俺様には煙幕なんて関係ねーんだわ」
そういうと見えない筈の俺に向かって距離を詰め、刀を振る。魔力障壁で咄嗟に防ぐも一瞬で割られてしまう。
「まじかよ…… 煙が凄くて見えづらかったけどベイルさん、クロイアの魔力障壁に向かって連撃を一瞬で浴びせて割りやがった! 木刀でどうやってんだよ、バケモンじゃん!」
「知りたいなら教えてやるよ、単純な話だ。魔力障壁は魔力を展開し、それを空間に固定することで防御する技術。その魔力を繊維状にした上でより精密に途切れる事なく配置する事で障壁は強度を増す。つまり咄嗟に出した障壁は魔力がまばらかつバラバラになってる訳だ。その隙間部部を剥がして割る動作を高速で行ったのが今の攻撃って訳だな」
俺は埃が晴れて見渡しが良くなりつつある中で攻撃を仕掛けるも、メリュルの質問に対して返答しながら先生は余裕の表情で受け流す。
「まあ叩かれまくるのも癪だしそろそろ行かせてもらおう、『破刃十字双撃』」
「嘘だろ、ホントにバカダセェ技名! 十字に斬りつけるだけの技でその名前はクロイア以上にセンスないじゃん! でもこれでわかった、あの人は単純に堅く、速く、巧く、強い!」
「なっ! 糞、痛てぇ」
「お前はちょつと強くしないと気を抜くだろ? 俺様の優しさに感謝して欲しいぐらいだね」
剣を防いだ瞬間、かなりの衝撃が手首に襲い掛かり剣を落としかけたが、意識を集中させしっかりと持ち直す。
俺は次は無いと考え、急いで目線を合わせて後ろへ下がる。
その瞬間、先生は一気に気色悪い笑顔を浮かべながら距離を詰めてきた。
「今度はお前が耐える番だな」
そして俺は防御しようとするも先生は正確に防御の空いている箇所を攻撃してくる。しかし意識が飛びかけそうになった瞬間に『エア・バースト』を使用し先生を若干吹き飛ばす事で連撃から逃れる事ができた。
「なあなあクロ、お前が命を懸けて手に入れた魔具の力はそんなそよ風吹かせる程度の一芸だけなのか? なんか無いのか? 一撃必殺の技とかさ」
「期待させて悪いけど一芸しかないんでね……」
悔しいが先生の言う通り今の俺には高火力の技が足りなかった。
(最悪一撃、いや一泡吹かせる程度でいいからなんか無いのか? それなら火力よりスピードを出さないと、なら俺がスピードを出すには、どうすれば……)
そして俺は少し考え、一つの考えを思いついた。そしてそれを実行すべく俺は先生へとゆっくり近寄る。
「なんだ、少し考えてたようだがまだ何があるのか? いいぜ、特別に妨害しないでやる!」
その瞬間俺は剣の片側だけ『エア・バースト』を使用する。そうして剣は空気を押し出し、先生との距離を一気に詰め、襲いかかる。
「なるほどな、自身に反動が生まれない魔力の衝撃波を地面に打ち付けて反動をわざと生み出し吹っ飛ぶのか、少しは考えたようだがどうする? 軌道が読みにくいが勢いが多少ついても隙を晒すだけだぞ」
「なら見ろ、これが『スラスターエッジ』だ!」
そう言って俺は魔力を纏い跳躍する。そして空中で再び加速し先生の背後に回り再び加速する…… が先生は一瞬で振り返ると木刀で一撃を受け流し、腹に思いっきり打撃を打ち込む。
「まあ、俺様評価だと必殺技としては60点だな」
「ぐぉ゙ぇっ、何っ、だよ、それ……」
「うわっ、痛そ」
そしてメリュルの声が聞こえたのを最後に俺は今度こそ意識を手放した。
◇◇
「回復魔術ってすごいな、折れてた鼻の骨も繋がってる〜。あっ起きた、ベイルさん起きましたよ!」
目を覚ました途端視界に入っていたのは覗き込むように俺の顔を見ていたメリュルだった。そして次に感じたのは余りの顔の近さにドキリとして飛び起きるように身体を起こそうとすると痛みは感じなかった。メリュルの発言からして恐らく先生が回復魔術でも使ってくれたのだろう。鼻の骨が折られてた事実を知り、治療のし忘れがあっては大変だと焦って痛みは無いのか身体を捻って確認していたら先生が近寄ってきた。
「お前さ、避けるのを意識しろよ? 大剣だったりタフならともかく少し長めの剣では特にタフでも力がある訳でもないお前は無駄に張り合うな。相手の攻撃を無駄に受けるだけだ。だからそうボコボコにされてくたばり損ないみたいになる。要は変に防御しようとせずに避けろ。あと必殺技だが、まあ初見殺しなら悪くはないな。火力も申し分ない上に速度がいきなり早くなり、方向転換も容易い。対応できない奴になら当たるかもしれん。」
「あの、それより久しぶりにあって鼻の骨が折れるぐらい一切の手加減なしで色々な箇所タコ殴りにした事に対する謝罪はありませんか?」
「かなり手加減したぞ? 手加減なしなら今頃お前は木刀にこびり付いた肉片になってたな。むしろ痛みを戒めに成長してほしいのに回復魔法を使ってやったことに対して感謝しろ」
「あくまでも謝罪はなしですか…… まあ分かってましたけど」
その後俺は久しぶりに会った後の手合わせで遠慮せず死にかけになるくらいボコボコに殴られた事を抗議する気にもなれず色々と疲れてグロッキーな気分になり訓練場の外でへにょへにょしていた。
「ちょっとベイルさん、さっきの見てたけどやっぱりわざと負けて本気じゃなかったでしょ! クロイアもそう思うでしょ? 流石にまた戦えるよね? でしょ?」
人が色々と疲れて端で休んでいたのにいきなり近づいて来て肩を揺さぶり始めたメリュルに共感を求められ返事をせずにいると先生がそこへよってきた。
「分かったよ、俺様が相手してやるからクロは休ませとけ。こんなボロ雑巾みたいになってるのに可哀想だろ。そんな揺さぶってやるな」
「じゃあちゃんと鍛錬になるような戦いしてくれます? 次に手を抜いたらもっかいクロイア揺さぶりますよ?」
「それは脅しになってない気もするが心配するな、そんなに気になるならクロにでも審判をやらせとけばいいだろう」
「いいですね、それ。まあ今度こそよろしくお願いします!」
俺は内心ボロ雑巾にしたのは先生あんただろとツッコミを入れるがそんな事を先生とメリュルはつゆ知らずに勝手に俺を審判にして手合わせを始めようとした。