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第二話 俺達のターン

ナキの行動を見て咄嗟に動いたメリュルが大剣で防御したことにより、刀が俺に届く事は無かった。

 

「何故邪魔をする! 砂漠の暑さにでもやられたか? メリュル!」


「あんたこそおかしいよ、ナキ! 目当ての剣を先に触られたくらいで、殺そうだなんて! まだ子供だぞ!」


「良いから退け、手遅れになる!」


「退くわけ無いだろ、ナキ! ともかくクロイア、あんたは逃げな!」


 一方俺もメリュルの援護をしようと体勢を立て直し、不意打ちをするために肉薄して剣を振り上げる。しかしメリュルの攻撃を受け流し、一瞬の内に刀で剣を弾き返されてしまう。

 

「なっ、弾かれた……」


「甘いなクロイア。獅子だろうが毛虫だろうが害が少しでも及ぶなら細心の注意を払う、戦いの基本だ」


 完全にメリュルの攻撃を受け止めた後に狙いを定めた不意打ちだった筈の攻撃はいともたやすく刀によって弾かれ、距離を離されてしまった。


「やっぱ強いな、ナキさん。メリュル、ここは合わせて二人で行くしか無い!」


「あんた、さっさと逃げろってさっき…… あ〜もうしょうがないな、二人で逃げるにはあの手段も使えないし…… よし、行くよクロイア! 強行突破だ!」


「二人がかりで戦えば敵うとでも?」


「戦わないと、ここで殺されるしか無いんでね!」


 俺とメリュルはナキを挟むような位置をとり畳み掛ける。

 しかしナキはそれらを全て躱すか弾き、彼には掠り傷一つつけることすら叶わなかった。そして俺はこの状況を打破する方法が無いのか戦いつつも考えていた。

 

(このままじゃこっちの体力がもたない。ならどうする? せめてメリュルの負担を減らさないと…… 彼女がバテればもうあとが無くなる! それならこの剣を使えれることに賭けるしかない!)


「メリュル、少し時間稼ぎ頼めるか?」


「なにいきなり、別にいいけど」


「作戦を考えるのは良いが、敵に丸聞こえだそ! クロイア!」


「残念、時間稼ぎってのはあんたをクロイアの近くには行かせないって意味なんだよ。大人しく私と戦っときな、ナキ! なに企んでんだか知らないけど任せな、クロイア!」


俺は昨晩メリュルから聞いた話を思い出しつつ、少し後ろに下がって魔剣に力を込め始めた。

 

(魔石に力をグワッて感じ集めるとできる、か)


「何をするかと思えば魔剣を起動させようとするとは、その剣は短時間で目覚める代物ではない。技術も心も未熟な貴様には無理だ。」


「クロイア、諦めんな! 諦めなきゃどうにかなる!」


 メリュルが俺のことを励ます中、俺は胸の近くに感じる不思議な感覚に気付いた。その感覚をゆっくり剣に向かって押し上げるイメージで剣に一気に流し込んてしまおうと試みた。そうすると自身を中心に魔力が一気に解き放たれ、周囲に大きな衝撃波が伝わっていった。


「何っ! ありえないっ、貴様が、貴様如きがその剣を使用できるはずがない! まさか、これも視ていて俺だけに戦わせたのか、カゲ…… ならば仕方無いクロイア、いや魔剣使い! ここで貴様の力を示せしてみろ!」


「力を示せだって? いいよ、望み通りやってやる! メリュル、一気に畳み掛けよう!」


「なんだかわかんないけどりょーかい! いかにも強くなりましたって感じだけど信用していい?」


「バッチリだよ! 今なら魔力を使える気がする!」


 俺は剣を再び強く握りしめて、ナキへと向かっていった。


「身体が軽い、これが魔力の付与! これならあいつにも食らいつける!」


「その程度の粗末な強化では所詮悪足掻きに過ぎん……」


 更に畳み掛けるも依然としてナキさんは疲れる気配も魔具の魔力切れの気配もなかった。対して俺達は体力と魔力の限界こそ近づいて来ていたものの、何故か反撃を一切喰らうことはなかったために傷はあまり増えていなかった。


「なあメリュル、ナキさん明らかに……」


「うん、明らかに体力が減ってない。あんなに避けて受け流してを繰り返してるのにこれじゃ攻めてるこっちがジリ貧で負ける。それに絶対反撃できる時に攻撃を当ててこないし攻めに転じても受け止められる攻撃しかしてない、この状況で手加減とかあんた舐めてんのか?」


「それを舐めていると捉えるかは貴様ら次第だ」


 この状況、手加減されているとは言っても此方の攻撃が通らない上に入口から逃げようとすると一気に攻撃の手が早まり強行突破は難しいと考えてしまう。

 そこでとある事を思い出した俺はメリュルの方へ攻撃とともに横へ跳び、近づいて攻撃の合間に小声で会話をする。


「メリュル、負けるのは目に見えてる。強行突破は多分無理だ。だからさっき言ってた別の逃げる手段ってどんな奴? 今できる?」


「そっか、その手があった。まあ簡単に言うとテレポート。体内の魔力で陣を書いて逃げるんだけど時間かかるからさっきは私がナキを食い止めないとあんたが殺されちゃうと思って使えなかったんだ。けど今のあんたなら10分くらい時間稼ぎ出来るでしょ、その方法で行くから私が後ろに大きく跳んだら時間稼ぎに徹して」


「わかった、それで頼むよ」


「何をコソコソと、話をしている場合か?」


 その後、俺が攻撃した瞬間を見計らってメリュルが大きく後ろに跳んだ。そしてメリュルの着地した地面には白く光る陣がゆっくりと浮かび上がって来た。


「なるほど、脱出のタイミングを合わせるための打ち合わせだったと言うわけか」


「そういう事。ナキさん、あんたをメリュルの近くに近づかせないよ! 魔力の使い方も慣れてきたしね!」


「ならば足止めして見せろ、生半可な覚悟で言ったことを後悔させてやろう」

 

 これまでメリュルに頼って援護に徹して攻撃していた上にナキさんの攻撃がかなり鋭くなったために俺は一気に押され始めた。


「ちくしょう、強いな…… でも死んでも食らいつく!」


「ならば殺しても食らいついていられるか試してやろうか?」


 そうして戦ううちに俺はいくつか違和感を覚えた。まず攻撃の精度、力が強くなっていたはずのナキさんの力が微弱ながら少しずつ弱まり、逆に自身の力が増していた。その上、手にしている剣が戦闘中に触れた硬かった地面は今では砂となって崩れていた。

 

(なんだ、この剣の隠された力なのかは知らないけど力を奪う能力でもあるのか? いや、それなら地面が崩れてる理由がわからない)

 

その後、遺跡に入る前にリーダーの言っていたことが頭をよぎった。

 

(この遺跡って確か周りに魔力で固められてるって聞いた。それならナキさんの力を奪えてるのは魔力によって付与された身体強化の魔力を奪って剣が吸ってるってことか? そして地面が崩れてるのは地面の魔力を奪ってるってことか! それで説明がつく!)


 自身の使う剣について考察しながら戦いつつ、時間を稼ぎ続けた。

 そして遂にその時が来た。


「クロイア、来て! 準備完了だよ!」


その声が部屋に響いた瞬間に俺はメリュルの元へ向かおうとするも、ナキさんがその間へ入り辿り着くことができなかった。

 

「盲点だったな、貴様をそちらに行かせなければ良い。そうすれば貴様を始末してメリュルを回収できる。そうすれば貴様にとっての実質的な敗北だ」


 ナキさんはニヤリと笑うと刀による連撃を浴びせてきて、避けているうちに更に遠くへと動いてしまい、メリュルにも近寄れなくなってしまった。


(どうする、どうすればいい? せめてナキさんを吹っ飛ばせれば…… そうだ、魔力を最初に剣に注いだときに魔力の衝撃波が出てた。今考えるとあのとき注いだ魔力だけじゃあんなに威力をだせなかったはず、つまり放出する魔力は数倍になるのか? それを信じるなら今出せる最大の威力で近距離でぶつければ逃げる隙も生まれるはず…… まずそんな力がこの剣にあるのか解らないけど賭けてみるしかないか……)


 とは考えるもののその魔力は全て身体強化に費やしており、魔力を放出するために剣の魔力を断って溜めることは身体強化が使えないために死を意味する。しかし、俺は一つギリギリな賭けを考えた。それを実行するために全力でメリュルとは逆方向の壁側に向かった。


「どうした、諦めたのか、それともそこらの砂で目潰しで視界を遮って…… 等という子供騙しではないな?」


「ご明察、子供騙しで悪かったな!」


 と言い、俺は砂を掴んで投げつける。その隙に横の壁に向かって剣をぶん投げた。


「くだらないな、魔力感知で朧気ながら貴様の動きは見えているぞ! その投擲もな!」


 そうして砂の舞った空間から刀が胴を切断しようと迫るも剣を手放す前に僅かな魔力で展開した障壁に阻まれ、鉄の鎧と薄皮を切られる程度で済んだ。そして俺は横の壁に叩きつけられつつ前屈みになって座り込む。


「ぐっ……」


「なんだ、掠り傷程度で挫けたか?」


 しかしここまでは計画通りにすすんだ。そう、俺は剣の元へ吹っ飛ばされていた。手元を離れた剣は先程壁に突き刺さっていた。そして壁の砂を固めている魔力を吸収することで刺さっていた壁の硬質化は解かれ今にも崩れかかっていた。そこへ俺か壁に叩きつけられた衝撃で刺さっていた壁の砂は崩壊し、、魔剣は壁の魔力を吸収した状態で手元へ落ちてきていた。

 そしてを剣を構えた。


「吹っ飛べ…… 名付けて『エア・バースト』」


「なっ、しまっ!」


ナキさんは衝撃波により反対にいたメリュルを通り過ぎて、入ってきた扉の奥より更に向こうへ吹っ飛んだ。そして俺はメリュルの元へ急いで近づいた。


「行くよ、クロイア! 『ランダムテレポート』!」


そうしてクロイア達は遺跡から消えていった。




   ◇◇



 

「よく吹っ飛びましたね、滑稽です」

 

 そこに笑いながら現れたのはカゲだった。

 そしてナキも先程までいた魔剣の置いてあった部屋に戻っていた。


「カゲ、貴様は先に帰っているなどと言っていた癖に少ししたら戻ってずっと見ていたな、戻る意味はあったのか?」

 

「私が後ろで棒立ちしていたら緊張感が無くなるでしょ? それにこの剣に関する事はあまり知られたくないので上で待ってた探索者たちの始末もしたかったので。あと商会にはクロイアとメリュルが組んで魔剣を強奪、私達は逃げたがそれ以外は皆殺しにされたと言う事にでもしておきましょう。というか貴方もあそこまで演技をしながら手加減する意味はあったのですか? 普通に試すだけでも良い気がしますけど」


「魔剣の力を使いこなす為には覚悟が必要、そう言ったのは貴様だ。故に生温い雰囲気で戦おうと決死の覚悟は生まれないと考えた」


「そうですね、確かに彼の魔剣は早く育てていただかないと彼に渡した意味がないのですから。上でカイも待っています、さっさと帰りましょう」

 

 そうして彼らは大量の死体が積み重なった遺跡をあとにした。 

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