第一話 魔剣に絡まる思惑
「そ、そんな金額本気で言ってます? 田舎の家なら買える金額ですよ? 冷やかしとか間違いとかじゃなく?」
そういって会長室で叫んでいる俺はクロイア、この商会の第3探索班で遺物回収をメインとして臨時戦闘員も任されている。そしてなぜ俺がここまで驚いているのかというと……
「ボクを誰だと思って口聞いてるかなキミ! それにそんな口の聞き方、いつそんなに偉くなったのかな? まぁ確かにキミより全然優秀な人員は山程いるし、不思議がるのも無理はないかなぁ。なら話しておくとまず君以外にも同行する探索班の人員が10人前後いるんだよ。だけど一人だけでいいからファルト人の血を引いてるそこそこ優秀な探索員が必要といわれて白羽の矢が当たったのが君というわけだ。うちにまともに仕事のできるファルト人の探索班というと君くらいだしね。で、どうするの? 受けてくれるの?」
商業大国ヴォルストで5本の指に入る大商会ツォーンの現会長ネルトにそう言われ俺は慌てて口を開いた。
「すみませんネルト会長。ぜひその依頼受けさせていただきます。余りの金額に取り乱してしまって、そのなんというか興奮してしまったというか……」
と話していると会長は遮ってこう話した。
「言い訳はいいから依頼受けるのね。それなら明日10時頃、第2会議室に来なさい。依頼者の皆様が来るそうだから。失礼のないようにしなね。それじゃまた明日よろしく」
そう言われ、俺は会長室から追い出されるように外に出された。
「あと3年くらい仕事せず遊んで暮らす金があると思えば夢が広がるもんだ! せっかくだし今日くらい贅沢して商会の宿に泊まるかな。明日の仕事は万全の状態で頑張らないといけないし。良い休息は良い寝床からだし!」
そうして一人で浮かれながら宿に向かい、早めに明日に備えて眠りについた。
◇◇
俺は早速時間より少し早めに向かうと、そこには会長と依頼主らしき4人組が座って待っていた。そして俺が部屋に入り、席へつくと会長が怒鳴りつけてきた。
「ねぇ、なぜ依頼してくださった方々よりも君が遅く来るのかなぁ!」
すると依頼人のうちの一人である白く長い髪に薄い紫の体色をした魔族であろう風貌の20歳前後に見える美女が口を開いた。
「落ち着いて下さい会長。私達は彼が条件を満たしていれば極端に遅刻でもしない限りが何をしようが構いませんよ」
「そうですね。僕も同感です。遅れても今から急いで行動をすれば予定通りで済むはずなので、彼に条件を確認してもらい次第ラカラーカ砂漠の遺跡へ探索へ向かい目的のものを回収しましょう」
眼鏡を掛けた同じく20歳前後であろう黒髪の兎耳獣人がそれに続いて言った。
そうすると今度は竜人であろう角を持った同じくらいの歳をしていると思われる青髪に赤いメッシュの入った少女が反論した。
「え、ほんとに連れてくの? こいつまだガキじゃん! 私は子守なんて反対だよ、足手まといにしかならないじゃん!」
「そうかメリュル、貴様はまだ知らなかったか…… 目標の物を回収する上で彼は必要不可欠な存在だ。足手まといになっても彼は必要なのだ。すまないな、彼女が迷惑を掛けてしまって。私の名はナキ、人族だ。今うるさかった竜人はメリュル、魔族の女はカゲ、獣人族の男はカイという名だ。クロイア君、だったな? 彼女は後できつく叱っておくから心配するな。よろしく頼んだ。君の力を貸してもらおう」
とナキさんがメリュルという竜人をなだめながら喋った。
「はい、喜んで! こちらこそよろしくお願いします!」
などと挨拶などを済ませ、グチグチ文句を言いながら横で悪態をついているメリュルを無視して俺は仕事の内容を聞いた。
「ところでなんでその剣が必要なんですか? かなり上質な武器に防具もあって必要ない気がしますけど」
「それは君が知るべき内容ではない。無駄な詮索は必要ない、それより乗る馬車の割振りがある。そのためこの依頼に参加する他の商会の人員とも確認したいから案内を頼めるか?」
結局依頼の内容として最近所在の分かった遺跡にとある剣を回収することのみ教えてくれたものの、ファルスト人でなければならない理由やその剣自体については何も教えてくれなかった。そのことに少し怪しさを感じつつ移動の為、他の探索員とともに馬車に乗る準備をした。そしてなぜか俺の馬車は人数の関係上、さっき悪口を言われたあのメリュルという少女と二人きりで乗ることになってしまった。
◇◇
夕方、俺達は馬車に揺られながらボーッとして互いに話していなかった筈なのにメリュルがいきなり口を開いてきた。
「あ、あのさ、さっきはごめん。なんて言えばいいのかわかんないけど、あれはあんたを心配して言ったっていうかその…… 素直にごめん、言い訳しようとしたこと含めて反省する。あの時はその、嫌だったんだ、私らのとこに見ず知らずの子供が入ってくるのかって。ほんと身勝手だよね、本当にごめん」
「ううん、大丈夫、そんなに謝んなくていいよ。全然気にしてないって言うのは嘘になるけど正直気持ちもわかるよ。腕の立つ人員探してたのに、なんでこんなガキが来るのかってさ」
「ふふっ、ありがと。でも君だってそっちもおんなじくらいの年齢の癖して何様だよ! ってあの時言い返せばよかったのに」
「依頼取り消されるのが怖くて言えるわけないよ、そんな事。でも内心同じような事思ってたから、それならお互い様ってことにしとこうよ。水に流してさ。この先も長いし、こんなギスギスした空気じゃ休めないしね」
などと話しているとお互い歳が近いせいか、心なしかまともに喋ってなかった筈なのに話しやすく感じる。そして俺はさっきはあやふやにされた今回の依頼の詳しい内容を聞くことにした。
「なあ、ところで質問なんだけどさ、なんでファルスト人じゃなきゃいけないんだ? あと剣ってのは何なのさ?」
「あ〜それのことか…悪いけどさ、実を言うと私もさほぼ何も知らないんだよ。あの人たちに出会ったのつい最近でさ、詳しくは言えないけどあの人たちに助けられてついてってるんだ。だけどそこまで恩とか気にしてないかな。ついてった方がいい気がしたんだよね。あっ、そういや私から自己紹介してなかったね。改めて、私の名前はメリュル。呼び方は普通にメリュルでいいよ」
「こちらこそよろしく。聞いてると思うけど俺の名前はクロイア。呼び方は…… 何でもいいかな」
「っていうかメリュル、その大剣って魔具だよね?」
「ん、ああそうだよ、これはあんたの言う通り私の魔具さ。てか、パーティーの皆は全員魔具使いだよ。こいつの属性は炎で魔石も良く透き通ってていい赤色してるだろ! 私の自慢の相棒さ!」
「恥ずかしいんだけどさ、その魔石って何? 魔具って大地漏れる魔力が結晶化した魔石を加工して作った道具及び武器の総称ってことしか以外は知らないからさ、教えてくれよ」
「結構常識ないんだねあんた、まっいいけど…… 魔石には属性と純度があってさ、そこから基礎の性能や魔力出力が変わるの。ちなみに純度は魔石の透き通り具合によって見分けられるんだ。あと属性は何かっていうと炎なら熱エネルギーの集中、氷なら熱エネルギーの分散みたいにそれぞれ逆の性質を持ってるんだよ。他にも上質な魔石だと固有の力もあるけどね。あとあれ、魔力障壁とか魔力を自分や魔器自体に付与するのはどの武器でも出来たりするんだ。」
「へぇ〜。じゃあ魔力障壁とか魔石の力ってどうやって使うの?」
「それはこう、魔石に力をこう、なんてゆうか、グワッて集めるとできる」
「ずいぶんとアバウトだね」
「うっさいな! ともかくやんないと説明できない感覚なの! あとね、見てよ私の大剣の魔石、かなり上質でとっても紅く透き通ってるだろ。そんじょそこらの奴とは比べ物にならないくらいの魔力を蓄えられるんだよ!」
「いきなり自慢話? まあ聞いてあげるけど」
そうしてなんやかんやあってメリュルの自慢話に少し付き合った後、俺は眠りについた。
◇◇
俺達はラカラーカ砂漠にある遺跡に到着して馬車が止まった衝撃で目が覚めた。
「あたた…… いきなりなんだよ」
「んにゃ…… うわ、メリュル、外見てよほら外外! ついてるよ砂漠!」
興奮気味にそう言うとメリュルは半分寝ぼけながら外を見た。
「ホントだ、ってかなんかめっちゃくちゃ深い穴ある気がするんだけど? ほらあそこに」
そう言ってメリュルが指を指した先には確かに大きな穴が存在していた。そうして穴の存在を確認して間もなく今回のリーダーが探索班に作戦を伝えるため招集をかけていた。
「あっメリュル、ちょっと行ってくる。」
そう言って俺はリーダーの元へ馬車を降りて向かった。
「よし、全員集合したな。これから作戦を伝える。目的地はあそこに見える大穴から発見された遺跡の内部調査だ。あそこは周囲の地盤が強力な魔力によって固定されているため今発見されている入口以外のポイントからの侵入経路は存在しない。そのため通常と同じくモンスター処理班、探索班、罠解除班、回収班の4つに分かれ、侵入することとする。以上だ」
とリーダーが話し終わるとカゲさんがとある提案をした。
「すみません、一つ良いでしょうか? 私たちは全員魔具を持っていて、モンスター狩りは手慣れています。モンスター処理班は私達とクロイア君に任せてはくれないでしょうか? そちらのほうが手間も省けるので」
「うーむ…… 確かにあなた方は私達よりモンスター狩りは手慣れていそうに見える。ですが何故クロイアを同行させるのだ? 我々には今回の目標物自体知らされていないがそれにクロイアは関連しているのか?」
「まあ、その様なところです」
カゲさんとリーダーが話していた内容を聞いていた俺はそのままカゲさんたちと遺跡に潜る事になった。
◇◇
俺達は遺跡に潜り、その目標までカゲさんに案内されながら道を進んでいった。ちなみにナキさんは本当に強く、メリュルや俺が武器を構え、援護しようとする頃にはモンスターが倒れていた。
「それにしても意外だな、初対面であそこまでギスギスした雰囲気からここまで仲良くなるものかのか?」
「意外と同じくくらいの精神年齢だと相性が良ければすぐ仲良くなりますよ、ナキ」
「おい、カゲどういうことだよ精神年齢が同じくくらいってさ!」
「傍から見たら年齢差は無いみたいだってさ」
「あんたは黙ってろよ! このバカガキ!」
一緒に探索していくうちに俺は緊張がほぐれ、みんなの話を聞きながら道を進むと一際目立つ扉があった。
「クロイア君、その扉に手をかざして下さい。ファルト人である貴方なら開けることができるはずです」
「手をかざすだけでほんとに開くのか? 嘘っほんとだ開いた!」
そうして扉が開いた先には大きな部屋の奥に黒く光っているように見える魔石がはめ込まれた剣があり、俺はその剣に引き寄せられるように一人で進んでいった。
「これでようやく全てが…… なっ、待ちなさい!」
「ちょっ、クロイア! どこ行くの!」
カゲさんやメリュルに呼び掛けられふと我に帰った時には遅く、既にこの部屋の奥に鎮座する黒い剣に触れていた。
「触られましたか…… 仕方ない、ここはナキに任せます。我々は先帰りましょう。メリュル、カイと共に上で待ちましょう」
「フン…… すぐ終わらせてやる」
「クロイア、危ない!」
その瞬間、最も遠くに居たはずのナキさんが距離を一瞬のうちに詰め、刀を振り上げていた。そして、僕の目の前で刀と大剣がぶつかり、火花が散った。