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『一匹狼』のような転校生

俺は白狼さんの言葉に困惑を隠せずにいた。

「な、なぁ白狼さん?『あなたたちと仲良くするつもりはない』ってどういうことだ?」

「そのままの意味よ。私はクラスメイトと打ち解けるつもりはないし、それはほかのクラスの人や先輩も一緒よ。私は1人で過ごすの」

 白狼さんの説明を聞いても理解ができない。

 クラスメイトと打ち解けるつもりはない‥‥友達は作らないってことか?だとするとどうして?


「白狼さん、もう少し詳しく教えてくれないか?全然理解できない――――」

「あなたに理解してもらう必要があるのは、私は仲良くするつもりがないってことだけよ。それ以外は別に理解してもらわなくていいし、説明する気もさらさら無いわ。わかったら金輪際話しかけないで頂戴。話しかけてもいいのは事務連絡があるときだけよ」

 そう言って白狼さんは、俺のことを完全にシャットアウトした。まだまだ分からないことばかりで、聞きたいこともあったのだが、白狼さんのあの感じだと聞いても話してくれなさそうだし、そもそも反応すらしてもらえるか怪しいとこだ。だとすると話しかけるだけ野暮だろう。


(まぁ、白狼さんがあの態度を貫く限り、俺が話しかけることもできないんだろうなぁ。一体どうしたものか)

 頭の中でいろいろ考えるも、結局いい案は浮かばず無情にも1時間目の開始のチャイムが鳴ってしまった。


 放課後になって俺は帰る準備をしながら教室をぐるりと見回す。

「白狼さんは‥‥もう帰ったみたいだな」

 そしてこの教室に彼女の姿がないことを確認する。放課後に誰とも会話していないあたり、本当に誰とも仲良くするつもりはないみたいだ。


「‥‥ってなんで俺、こんなこと気にしてんだろ」

 無意識に白狼さんのことを気にしていることに気付き、自嘲気味に呟く。まぁ、あんな衝撃的な発言をされたらいやでも気にしてしまうよな。

(はぁ‥‥帰ろ)

 心の中でため息をつき、俺は帰路についた。


「あ、やべ。そういえば冷蔵庫の中ほとんどなくなってたよな」

 家へ続く帰り道で、冷蔵庫の中の食材をほとんど切らしていることを思い出す。高校生になってから1人暮らしを始めたため、ご飯とかは自分で用意しないといけない。まぁ、俺が親に頼んで1人暮らしさせてもらっているし、親からの仕送りで生活出ているわけだから、文句なんて言うつもりはないけど。やっぱり多少なりとも面倒くささはあるんだよなぁ。

「しょうがない。帰りにスーパーに寄って帰るか」

 そう呟き、少しだけ足の向く先を変えて歩き出した。


 スーパーへやってきた俺は、買い物かごを手に取り今日の献立を考えていた。

(うーん、今日は肉を食べたいな。豚の生姜焼きとかでいいか。それと付け合わせのキャベツがいるな。‥‥味噌汁はインスタントでいいか。)

 適当に決めつつ、商品の棚を順にみていく。


(1人暮らしだしキャベツは丸々1つじゃなくて、少量にカットされたやつでいいか。豚肉も1パックで十分だろ。)

 自分が食べられる量だけの商品を見繕いつつ、ポンポンとかごに入れていく。


「あとは‥‥油が切れてたかな」

 一通り食材をかごに入れたタイミングで、今度は油などの調味料が並べられているコーナーに移動する。


「ん?あれは‥‥」

 目的の商品棚があるところへ来たところで、とある人影を見つけた。

「白狼さんか‥‥?こんなところで何をしてるんだ?」

 いや、スーパーに来ているっていうことは何かしら買いに来たんだろうけど。白狼さんがこんなところに来るイメージが無さ過ぎて、ちょっとだけ混乱してしまう。


(まぁ、俺には関係ないか)

 そう思い、無視を決め込んだ俺は、なんだか白狼さんの様子がおかしいことに気が付く。

 さっきから背伸びをし、必死に手を伸ばして何かを取ろうとしている。

(‥‥あれはみりんか?だとしたら一番下に同じ商品があるんだけど)

 白狼さんの伸ばす手の先には、みりんが並べられている。だとすると、棚の一番下の段に全く同じ商品があるのだが、白狼さんがそれに気づく様子はない。一生懸命背伸びをして、取れずに諦めて、また背伸びをして‥‥を繰り返している。なんだかちょっとかわいそうになってきたな。

 ‥‥話しかけるつもりなんてなかったけど、しょうがないか。


「その商品だったら、棚の1番下にも同じものがありますよ」

「!?」

 事務連絡以外は話しかけるなと言われたので、あくまで他人行儀に、そしてできるだけ優しい声音で話しかける。すると、白狼さんはビクッと肩を震わせてこちらを向く。目の前にある端正な顔立ちと濡羽色の瞳は、彼女が美少女だということを改めて認識させてくる。


「えっと、あなたは‥‥?」

「はく‥‥あなたがその商品が取れず困っている様子だったので。違いましたか?」

 一瞬「白狼さん」と呼びそうになってしまったが、何とか防ぐ。白狼さんの様子を見る限り、まだ『隣の席の兎月』だということには気づいてなさそうだし、こっちから言うつもりもないので、このまま他人行儀の姿勢を貫く。

 あれだけ会話をしたのにまだ気づかれていないことには多少驚いたが、そっちの方が好都合だし、彼女の中で俺との今朝の会話はなかったものになっているんだろう。


「いえ、その通りです。わざわざありがとうございます」

 そう言って白狼さんは、棚の1番下のみりんを手に取りかごに入れた。


「お役に立てたようでよかったです。それでは自分はこれで」

「あっ‥‥」

 それを確認した俺は、頭を下げて急ぎ足でその場を離れる。白狼さんが何かを言おうとしていたような気もするが、「兎月瑞人」と認識されたくもないので無視をしておく。

 罪悪感はあるが、彼女も「仲良くするつもりはない」って言っていたし、俺の行動は間違っていないはずだ。

(さっさと帰ろう)

 狭いスーパーだ。もう一度遭遇することなんて全然あり得る。そうなると気まずくなるに決まっているので、スーパーから一刻も早く出ていくべきだ。

 そう考えた俺は、会計を済ませるために速足でレジへと向かった。




 ★☆★☆★☆★☆★☆★☆

「あの人、私の学校と同じ制服‥‥しかもあの顔‥‥もしかして今朝の‥‥?」

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