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密室の憂鬱

作者: 八谷響

 密閉された部屋で殺人事件が起きたのに、犯人がどこにもいない上、中から施錠されている。外から誰かが出入りした形跡も、それが可能ななにものも存在しない。

 それを解くのが探偵の醍醐味であり、ロマンでもあるのだが。

「確かに、解かなくても被害者の人間関係とか調べれば犯人わかっちゃいますもんねぇ」

「そうなんだよなぁ」

 たたき上げの警部と、若手の刑事。そろって同じような溜息をつく。

「あと今は、科学捜査とかすごいっすからねぇ」

「被害者の事件発生時の行動までシミュレーションできたりするらしいからなぁ……」

 また、はぁ、と溜息。

「俺実は、憧れてたんすよ。名探偵が関係者を集めて密室トリックとかをがんがん解いていって、最後に『犯人は、あなたですね?』っていう場に居合わせるの」

「何を言ってるやら」

 警部は苦笑して、胸ポケットから煙草を取り出した。

「もうそんな時代じゃねぇんだよ。さっさと事件が終わって犯人がわかればそれでいいじゃねぇか」

 被害者は帰ってこないこともあるが、遺された者の無念は少しは晴れる。

「無駄話はもう終わりだ。捜査すんぞ」

「はーい」

 二人の刑事は、並んで歩き出した。

 彼らの仕事は犯人当てではなく、逮捕。そして司法の手へ引き渡すこと。

 密室の謎だロマンだと口にしていい立場ではないのだ。

「あ、警部。密室になっていた理由わかりましたよ」

 現場へ戻るなりそう言われ、二人は思わず「はぁあ?」と間抜けな声を上げてしまった。

「な、何だって! どういうことだったんだ!」

「いや、簡単なことでしたよ」

 名探偵……ではなく鑑識の担当者は、中から施錠され鍵が室内にあり合い鍵もなくて空かなかったと判断されたはずのドアを指し示した。

「このドア、一回はずして外からまた直した形跡があるんですよ。つい最近のようだし、たぶん被害者を部屋で殺害したあとドアを外して出て、つけ直したんでしょうね。下手に自殺に見せかけようとして、手間のかかることをしたもんですよ」

「……誰がやったかまではわかってないよな?」

「まだですが、現場から採取した証拠の分析が進めば、容疑者を絞れますね」

「……そうか」

 警部は、半分くらい吸った煙草を、携帯灰皿へそっとしまった。


 ――数日後、刑事たちの地道な活動と科学捜査の結果、無事犯人は捕まった。


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