05 約束だよ
「カノンさーーーーん!!」
大きな声で私を呼びながら駆け寄る少女が1人。
「なまえ書いたの!みてみて!!」と自慢げに紙を広げる。
「まぁ!上手に書けたわね」
「えっへへ」
雪の中から現れた謎の少女、アレンはあれから難なくすくすくと育った。元気すぎるくらいだ。
彼女がここに来たルーツを探してみたが、名前の書かれたお包み以外、手かがりは何もなかった。
あれから5年が経ったことが未だに信じられない。
アレンは父の手によって生後3ヶ月も満たないうちに彼らの被害者になった。
アレンだけを特別扱いできるはずもなく、父との契約上目を瞑るしかなかった。
けれど、アレンは違った。
原因はわからない。でもアレンの体は人工能力移植術を完全に拒否していたのだ。
父はこれに大きな可能性を見出した。
「こいつは世界中を探しても見つからない稀有な存在に違いない!!この体さえあれば、私の研究は必ず成功する!!!」
あぁ、私のせいだ。
私があの時アレンを見つけていなければ、彼女を苦しませずに済んだ。
ごめんね…ごめんね…
「カノンさん!!(‼︎)」
アレンが急に後ろから声を出したものだから、私はビクッと体を硬らせてしまった。
アレンはキラキラの笑顔で私に折り紙を渡した。
「これ、作ったんだ!カノンさんにあげる!」
「これは何…?」
「かめれおん!前カノンさんが図鑑で見せてくれたから!」
カ、カメレオン??確かにこの前、一緒に図鑑を読んだけど…
とても上手とは言えない不恰好なカメレオンを見て、私はクスッと笑った。
「ありがとう。とても嬉しいわ」と、彼女の頭を撫でた。
アレンは嬉しそうにニコニコ笑った。
「カノンさんはあたしのお母さんみたいな人だから!ずっと笑っててほしいんだ!」
「…」
違う、違うのよ。
「アレン」
「ん?」
「アレンは大きくなったらお母さんとお父さんを探しに行きなさい。きっと、2人もあなたのことを探しているわ」
そう言うと、アレンはとても不機嫌な顔をした。
「いやだ。ずっとここにいたい。カノンさんとみんなと暮らしたい」
「でも…」
「いやだよ!!絶対いや!!」
アレンは走って廊下の角を曲がった。
少しして私も角を曲がると、アレンは膝を抱えて座っていた。
「カノンさんは…私にいてほしくないの?」
「そんなはずないでしょう?でもアレンは知りたくないの?自分の両親がどんな人か」
と聞くと、アレンは顔を反対に向けて
「知りたくない」と言った。
「私のことを捨てた人たちに会いたくなんてない」
…そう思うのも当然か。
「でもこの前は会いたいって言ってたじゃない」
「だってみんなに悪いじゃん!みんなは親に会いたくて、そのために頑張ってるのに。あたしだけ会いたくないなんて…」
両親を知らないアレンにとって、親が自分にとってどういう存在なのかも知らない。
ずっと葛藤してたんだ。
私はアレンの隣に腰を下ろした。
「アレンは捨てられてなんかいないよ」
「ウソだ。だってカノンさんがあたしを雪の中から助けてくれたんでしょ?」
「えぇ、そうよ。でも私には絶対の自信があるの。だって、愛していない子どものお包みに名前なんて書く?」
「たまたまだよ…」
「そんなことない!!」
私は強く言った。
「私はね、託されたと思うの。どうして、どうやってあなたの両親がここに来たのかは分からない。でも何か重要な理由があったはず」
アレンの手を取る。
「断言するわ。アレン、あなたは愛されている(‼︎)」
アレンは驚いてるようだった。
顔も知らない両親が自分を愛してるだなんて、考えたこともなかったんだろう。
残念だけど、他の子はもうレイブンの手にかけられた時点で助からない。
だけどアレンなら。
アレンなら他の子の願いまで叶えられる。
両親と共に暮したいという、私の願いも。
「あたし、探すよ。お母さんとお父さんのこと」
「うん…!アレンなら絶対できるよ!」
「うん!約束!」
私たちは指切りをした。
固く固く、指切りをした。
ーーーーーーーーー
コンコンコン。ドアを3回ノックする。
「お父様、船の準備ができました」
パソコンに向かって作業をしている父に話しかける。
「そうか、いつ出発できる」
「いつでも出航できます」
「ワクラバを呼んでおけ。今夜だ」
「承知しました」
父が私の側を通り過ぎる。
その時、一瞬。なぜか一瞬だけ。
昔の父の姿がそこに見えた。
「お父さんっ…!(‼︎)」
思わず呼び止める。だけど、もちろんそこにはいつもの父しかいない。
「あ?」
「ご、ごめん」
チッと舌打ちを打って、父は出て行った。
ドアを閉める音と共に私は静かにつぶやいた。
「さぁ…始めるよ」
本日もご愛読ありがとうございます。
最近は寒かったり暖かったり変な天気ですね。
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