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ブラッド・フラワー  作者: 御稲荷 薫
レイブン研究所編
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04 何者

それから数ヶ月が過ぎた頃。私はただひたすらに雑用をこなしていた。


父の研究を手伝う。つまり、父の奴隷になったのである。


自分がした選択に悔いはない。


ただ、子供たちを巻き込んでしまったことだけは悔やんでも悔やみきれなかった。


せめて、子供たちに偽りのない愛情を。

それだけが、私ができる唯一の償いだと思った。


「カノン、港に物資が届いてる。取りに行ってこい」


父は私の顔も見ないで命令する。

そんな日々を辛いとも思わなくなった。


私は厚手の防寒着を着て港に向かった。


その日は、いつもより雪がひどい日だった。


私達の生活は遠く離れた隣国から送られてくる物資によって賄われている。


月に何度か手紙とお金を積んだ無人船を渡しており、それに物資を入れて送り返してもらっているのだ。


ここは、表向きには地下熱の研究をしている専門機関ということになっているので、今のところ一度も怪しまれたことはない。


いくら手紙と大金を送っているとはいえ、世の中には親切な人がたくさんいるんだなとつくづく思う。


(それにしても、今日は雪がひどいな…)


港に到着した船を引き上げ、確認作業に入った。


この無人船は私が開発したものだ。船は機械仕掛けで全自動で動く。


しかも水陸兼用。我ながら素晴らしい出来だと思っているが、まだまだ開発段階だ。


全ての確認が終わり、私は帰路についた。


帰ったら暖かいコーヒーを飲もう。そうしたらまた…地獄へ戻ろう。


ふと、私は足を止めた。


いや、いっそこのままのたれ死んでしまおうか。


こんなひどい雪だ。父も仕方ないと思うだろう。


心配もしないだろうし、悲しむなどもってのほかだろう。


「…」


虚しいなぁ。


全てを放り出そうとした…その時。


数メートル先に、布のようなものが落ちていることに気づいた。


興味本位で近づいてみるたが…それ(・・)を見た時、私は目を疑った。


「子供……!?」


寒気がした。ここには私たち以外誰も住んでいない。なのになぜ?


(誰かがこの島に上陸している…?)


私はその子を抱えた。まだほんの赤ん坊だった。


体が冷たい。息も…このまま放置すれば死んでしまうことは一目瞭然だった。


誰が?どうして?………助けなきゃ。


私は陸用に切り替わっている船に飛び乗り、船を最大スピードで飛ばした。


赤ん坊を自分の体とコートの間に入れて必死に温めた。


(お願い、間に合って…!)


・・・


研究所(ラボ)に着いてすぐ、私は暖炉のある暖かい部屋に駆け込んだ。


とりあえず赤ん坊を暖炉に近づけ、必死に体を温めた。


「カノンさん…?」


私の慌てた様子をたまたま見ていた子供が心配そうに声をかけてきた。


「お願い!!給湯室からありったけのお水を持ってきて!!」

「え、?」

「説明する時間がないの!!早く!!」


その子は訳の分からない様子だったが


「わ、分かった!」とすぐにお水を用意してくれた。


赤ん坊をお水に浸からせ、凍傷部分を中心に少しずつ解凍した。


この騒ぎを聞きつけて、当時いた子供たち全員が私と赤ん坊の様子を見にきた。


すぐに状況を理解してくれた子供たちは、暖かいタオルやお湯など、私の指示に従って必死に赤ん坊の介抱を手伝ってくれた。


その子が誰なのか、どうしてここにいるのかも知らずに…


・・・


何時間たっただろうか。


「ケホっ…(‼︎)」


待ちに待った瞬間がやってきた。


「ゲホンゲホン……オギャー‼︎オギャー‼︎」


赤ん坊が息を吹き返し、元気な声で泣き始めた。


「やったーー!!!!」


子供たちは大きな声で喜んだ。

私もホッとして体の力が一気に抜けてしまった。


水色の髪をした元気な女の子だった。


一息ついて、ふと思った。


(どうやら助けられたのは、私の方みたいね)


死ねなかったことは…まぁいい。問題はこの子の今後だ。


「何の騒ぎだ(⁉︎)」


珍しく父が自ら赴いた。ワクラバも一緒だ。


「外に死にかけていた子供を見つけました。たった今、救命したところです」

「ガキがなぜこの島にいる」

「分かりません」

「侵入者でしょうか、レイブン様」

「いや、それはないだろう」


父は赤ん坊をじっくり観察し、無理やり抱き抱えた。


「こいつはしばらく俺が預かる。不審点がないか調べ上げてからお前に返却する。それに…」


顔をニヤァとさせて


「棚ぼただな。病気の子供(・・・・・)を探す手間が省けた」と言った。


3人は背中を向けて行ってしまった。

赤ん坊はひどく泣いていた。

私は最後に父に向かって叫んだ。


「下手なことしないでよ!!」

「…もちろん、大切に扱うさ」


ここに連れてきてしまった時点であの子の運命は決まってしまった。


私は一生、今日の判断が正しかったのか悩み、悔いるのだろう。


「カノンさん、見て!」


子供たちが私の白衣を引っ張る。

差し出したのは、あの子が包まれていたお包みだった。


「あの子の名前が書いてる!!」

「名前…?」


見ると、細々とした字でたしかに名前が書かれていた。


『アレン』 それがあの子の名前だった。

おかしい、と思った。


(普通、捨てるつもりの子のお包みに名前なんてわざわざ書かない。あの子の両親は何を意図して、どうやってあの子をここに…?)


分からないことだらけだった。


でも一つだけ確かなこと。


それは、アレンは私の中の、何か大きなものを変える存在であるということだ。


(アレン…あなたは一体、何者なの?)

4月に入りましたね。

最近曜日感覚が狂い始めていて困っています。

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