03 花の契約
部屋に戻って、椅子に座って、机の引き出しを引く。
この動作がいつからか癖になっていた。
引き出しの中を吸い込まれるように見つめる。
その度に思う。
私はまだ求めてるのか。
ガチャ(‼︎)
ドアが開く音に驚いて反射的に引き出しを押した。
「…いつも言ってるでしょ?ノックをしてって」
「これは失礼、てっきりいないものかと」
レイブン・スローター。
かつて天才科学者とも謳われた父を、私は心から尊敬していた。
「何の用?」
「1週間後に船を出す。準備をしておけ(⁉︎)」
「まさか…また子供たちを攫いに行くの!?」
そう言うと、レイブンは私に平手打ちをした。
こんなの日常茶飯事だ。
「人聞きが悪いことを言うな…それではまるで私が悪者じゃないか」
「何を…!」
「正直、もう被験体は必要ないのだがな。1048さえいれば私の研究は完成する(‼︎)今回出航するのは、奴の身に何かあった時の保険にしか過ぎん」
こいつは人を人として見ていない。
娘の私でさえ、モノとして扱われる。
「いつもならお前にも同行してもらってるが、今回は良い。ガキ共の信頼を得る必要が無くなったからな。いいか、1週間後だ」
「…」
「返事は?」
「…承知しました」
レイブンは部屋を出て行った。
去りゆく背中を追いかけるように見つめた。
私は…父が大好きだった。
ーーーーーーーーーーーーーー
国で一番の科学者だった父は帰りも遅く、会う頻度も決して多くなかった。
それでも人のために日々研究に打ち込み、働いている父は私の自慢で、誇りで…憧れだった。
ある日、父はとある世界の平和を守る軍事機関の科学開発班に任命された。
名誉ある職務だった。父は喜んで命を受け、私たちは家を機関の近くに移した。
新しい生活が始まり、このまま順風満帆に行く…はずだった。
トーマス・スコーラー、という世界最高の頭脳を持つと言われる天才科学者がいた。
彼に敵うものはおらず、父のような凄腕科学者が何人集まっても彼の研究を超えることはできなかった。
『お父さん見て!これ…』
『忙しいんだ!!私に話しかけるな!!』
トーマスを超えるため、父は私たち家族よりも自分の研究を優先させるようになった。
私たちはあいつのストレス発散のための道具となり、気を病めた母は自ら命を絶った。
お金も時間も家族も、あいつは全て捨てた。
それでも…天才トーマスに敵うことはなかった。
父は逃げ出した。研究室にあったお金と研究データの一部を盗み、同僚のワクラバと私を連れて。
そして人の目につかないこの島に身を潜め、現在のレイブン研究所を設立した。
『カノン、私の助手になってくれないか』
『よくも平然と…そんな事が言えるわね…!』
私は父に掴みかかった。
『あんたのせいでお母さんは死んだ!!』
『…母さんには悪いことをしたと思っている。お前にもたくさん迷惑をかけた…でも!!この研究だけは、何が何でも結果を出さなきゃいけないんだ!!』
そして私の手を握り、懇願した。
『頼む!!カノン!!私にはもう、これしか残っていないんだ!!この研究で!俺はトーマスを超える!!(⁉︎)』
私は知っている。父がどれほど研究が好きか。
過去の輝かしい笑顔で、自分の研究を自慢する父の姿を思い出し、私は涙した。
私はまだどこかで信じていたのかもしれない。
いつかまた、大好きな研究に没頭していた…
あの頃の父が帰ってきてくれることを。
私は父の研究を手伝うことにした。
命令されたことは全て筒なくこなした。
『これを見ろ(⁉︎)』
ある日、父はとんでもないものを手に入れて帰ってきた。
体の至る所を犠牲にしてまで。
『まさか…!』
『あぁ、スター・カメリアだ(⁉︎)』
初めて見た。思ったより小さい。
白い花弁は微かにキラキラと輝いており、それはまさに神秘という言葉に値するものだった。
『綺麗…』
感動している私を他所に、父は
『これで私と契約を結べ(‼︎)』とぶっきらぼうに言ってきた。
『契約??』
『スター・カメリアと契約をすると、払った代償に合った超人的な力を得ることができる。これは個人だけでなく、他者間でも有効だ』
まるでお伽話のような話。
でも彼の目は本気そのものだった。
『なぜ契約を結ぶの?』
『互いに信頼関係を築くためだ』
『どうしてスター・カメリアを仲介する必要があるのよ』
『"花の契約"は決して破ることができない。破れば最悪死に至ることもあると聞く』
『そんなの私にメリットがない。お断りよ』
『メリットならあるぞ?』
父は私と自分の間に花を置いた。
『私を憎んでるだろう』
『あたりまえでしょう』
『この契約で能力を得られるのはお前の方だ。私に復讐する力を手に入られるやもしれんぞ?(⁉︎)』
復讐…ね…
『私からの条件はただ一つ。私の研究に最後まで協力すること」
父はスター・カメリアに手を触れた。
『さぁ、お前はどうする?』
『…』
気づいたら、手が花に触れていた。
答えは、決まっていたようだ。
花の契約のお話し。
よく分からないよー!っていう人もいると思うのでぜひ私のツイッター(@oinarisandayo)をチェックしてみてください!簡単にまとめてあります。
まだ始めて間もないですが、ブラフラのいろんな話をできたらなと思うのでぜひお立ち寄りを。